ガルウイングから驚きの「顔面」開閉式まで! 個性的ドア車
通常、クルマのドアは前方にヒンジがあり、後方から橫に開くタイプが一般的。だが、中にはちょっと変わった開き方をするドアを採用した市販車も存在する。スーパーパーカーなどに多いガルウイングドアがその代表格だが、ほかにも様々な個性的な開閉方式を採用し、実際に公道を走っていたクルマが意外とある。ここでは、そんなちょっと変わったドアを持つ異色の市販車たちを紹介しよう。
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ガルウイングの元祖は300SL
スーパーカーなどに採用されることで有名なガルウイングドアだが、そもそもの元祖は1954年に発売されたメルセデス・ベンツの「300SL」。
SLクラスの初代にあたり、世界初のガソリン直噴エンジンを搭載したこの2シーター・クーペには、車体の外側上方に向かって左右のドアが開く方式を採用。その開いた時のフォルムが、翼を広げて飛ぶカモメに似ていることから、「Gull Wing door(カモメの翼)」といった愛称が付けられたのだ。
ルーフにヒンジを付けた跳ね上げ式のこのタイプは、デザイン的にも画期的だったが、採用された理由は意外にも実用面だったという。
「公道版レーシングカー」として開発された300SLは、軽量化と高剛性を実現するために、まるでジャングルジムのように小径の鋼管を組み合わせたマルチチューブラーフレームを採用。その構造上、どうしてもサイドシル(ドアの下に位置する敷居部分)が高くなりすぎて、通常のドアでは乗り降りに相当の苦労を擁する。そこで、ドアを上方に跳ね上げる方式にすることで、高いサイドシルをまたぐ様に乗り降りする仕様にしたのだ。
ルーフ強度などの問題で、今では採用するモデルはほとんどないが、当時としてはかなり斬新だった300SLのガルウイングドア。後に映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で活躍した「デロリアン・DMC-12」などにも採用されるなど、一時はレーシーでかっこいいドアの代名詞として一世を風靡した。
ランボルギーニ方式はシザースドア
跳ね上げ式ドアの中では、今やベンツのガルウイングドアより有名なのがランボルギーニが採用する斜め上方に開くタイプだ。
日本では、この方式もガルウイングと呼ぶが、欧米などではランボルギーニ方式という意味で「ランボドア」とか、「シザースドア」とも呼ばれる。シザース(Scissors)は英語でハサミのこと。ドア前部にヒンジがあり、その開き方がまるでハサミのようなので、そう呼ばれているのだ。
シザースドアを最初に採用したのは、1974年にデビューした「カウンタック」。その後、「ディアブロ」(1990年発売)や「ムルシエラゴ」(2001年発売)、「アヴェンタドール」(2011年発売)など、V型12気筒を搭載したランボルギーニ製スーパーカーには、伝統的にこの開閉方式が採用されてきた。
こういった長い歴史を持つことからも、「スーパーカー=シザースドア」といった方程式ができあがったのだろう。現在では、アフターマーケットで普通のドアをシザースドアに変更するキットが販売されるなど、いまだに多くの人々が憧れる存在となっている。
テスラ製SUVには変形ガルウイングを採用
米テスラ社が販売するSUVタイプのEV(電気自動車)「モデルX」には、後部座席のドアに「ファルコンウイングドア」と名付けられたガルウイングドアを採用している。
3列シート仕様なら最大7人が乗れるこの大型SUVの後部ドアには、ダブルヒンジ方式により、ルーフの中央部を残し左右が中折れして上方へ上がる独自機構を採用。これは、2列目と3列目のシートへの乗り降りを考慮したものだ。
3列シート仕様の大型SUVで最後部席へアクセスする場合、通常は橫開きの後部ドアから身をかがめるようにして乗り降りする必要がある。だが、モデルXでは後部ドアが上方に開き、開口部も大きいため、窮屈な姿勢で乗り降りしなくても大丈夫なのだ。
また、他車のガルウイングドアと比べ、開く際に橫のスペースを取らないため、狭い駐車スペースでも開閉が可能。各ドアにはセンサーが装備されおり、周囲の状況を監視しながらスムーズに開閉するというのも、今ドキのクルマならではだ。
ちなみに、モデルXの前ドアは、通常の橫開きタイプだが、ドライバーが車両に近づくと自動で開く機構を採用。さらに、運転席に乗り込んでブレーキペダルを踏むと自動で閉じることができるなど、最新技術による様々な便利機能が付いている。
前方に上がるスーパーカー御用達ドア
ガルウイングドアの変形タイプをもうひとつ。「マクラーレン・F1」など多くのスーパーカーが採用するのは、ドアが前方に持ち上がり内側が下向きに開く「バタフライドア」という方式だ。
ランボルギーニのシザースドアにも似たこの方式は、ドア全開時に、正面から見たフォルムが蝶が羽を広げたような姿になることからネーミングされたもの。
マクラーレンでは、1991年に登場した6.1L・V12気筒を搭載したF1のほかに、2017年に発売された4L・V型8気筒エンジンの「720S」などが採用している。
また、フェラーリでも、創業55周年を記念して限定販売された「エンツォフェラーリ」(2002年発売)や、初の市販ハイブリッドカーである「ラ フェラーリ」(2013年発売)などがこのドアを装備。
ほかにも、メルセデス・ベンツの「SLRマクラーレン」(2003年発売)など、ランボルギーニを除く多くのスーパーカーにこの方式が取り入れられている。
バタフライドアを装備するスーパーカーが多いのは、「ポルシェ・911GT1」などグループCのレーシングカーにも採用例が多かったことも理由のひとつだろう。レーシングカーと同様のドアを装備すれば、ドライバーは乗り込むだけで、レースの雰囲気やを満喫できることは間違いない。
また、ドアを上げたクルマの姿が優雅に見えることも、バタフライドアが多く採用される要因だろう。究極の高級スポーツカーであるスーパーカーは、スポーティさだけでなく、ラグジュアリー感や独自の個性を出すことも重要だからだ。それだけ、このドア方式には人を惹きつける力があるといえる。
顔面がドアだったイセッタ
次は、とびっきり個性的なドア開閉方式を採用したクルマを紹介しよう。イタリアのイソ社が1953年に発売したミニカー(超小型自動車)「イセッタ」は、なんと、クルマのフロントフェイスがドアとして開閉し、前から乗り降りする方式を採用していたのだ。
丸い卵形の車体と曲面ガラスを採用した外観が、まるで泡のように見えることから「バルブカー」という愛称を持つこのクルマ。エンジンには、単気筒ながらピストンを2つ持つというユニークな構造の236cc・空冷2サイクルを搭載。室内には大人2人が乗車できるベンチシート、ルーフには巻き上げ式キャンバストップを採用するなどで、おしゃれな装備も人気のモデルだった。
そのイセッタが最も個性的だったのが、前述のドア。冷蔵庫のようなノブを回すとフロントフェイスと兼用のドアが開き、乗り降りが可能。ハンドルはフロント部の内側に固定されているため、ドアを開くと一緒に出てくるという、まるでおもちゃのような作りだった。
イセッタは、発売3年後にドイツのBMW社がライセンスを取得し、自社のバイク用4サイクルエンジンを搭載し1963年まで生産された。
その後、スイスのマイクロモビリティ社がそのスタイルにインスピレーションを得て、丸味を帯びたボディと、同様のドア方式を取る2人乗り小型EV「マイクロリノー」を開発。2019年の東京モーターショーにも展示されたので、覚えている方もいるだろう。
現在は、新しい外観のアップデート版「マイクロリノー2.0」も製作され、日本も含めた世界中で販売される予定だ。
日本にもあったガルウイング車
ここでは、主に海外製のクルマを紹介したが、国産車でも例えば、トヨタが1990年に販売した「セラ」には、バタフライドアが採用されていた。
4代目スターレットをベースに、モーターショーのコンセプトカーをそのまま市販化したようなデザインで話題になったこのモデル。その大きな特徴は「グラッシーキャビン」と称したガラス製の巨大なキャノピーとバタフライドアだった。
また、マツダの軽自動車「オートザムAZ-1」(1992年発売)には、メルセデス・ベンツ式ガルウイングドアが採用されていた。2シーターのスポーティなクーペだったこのモデルには、FRP製の軽量ボディと、セラと同様のガラス製キャノピーを採用。スポーティかつ小粋でユニークなフォルムに、ガルウイングドアが見事にマッチしていた。
このように、国産車にもかつては、跳ね上げ式などの変わり種ドアを採用するモデルも存在したが、今ではほぼ絶滅してしまったのは寂しいところだ。
EVや自動運転車、先進安全技術や燃費性能など、主にテクノロジーや実用性が注目されている昨今の国産車。クルマ好きにとっては、もっとデザインや機能面でも個性的で、面白いクルマが登場することを期待したい。
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