ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回はスズキ 5代目ワゴンR(2012-2017年)試乗です!(2013年1月10日号より)
PHOTO/中里慎一郎
スズキ 5代目ワゴンR試乗 その走り、絶品! しかし言いたいこともある!?【テリー伊藤のお笑い自動車研究所】
■たまたま先代が通りがかったのだが……
今回は日本で一番売れているクルマ、ワゴンRである。走りは驚くほどいい。燃費もいい。おまけに安い。欲しいという人は買って損だと思うことは皆無だろう。しかし新しさはまったく感じない。旧型と見分けがつくのは少数派だろう……
今回は(2012年)9月に新型へとフルモデルチェンジしたワゴンRである。
何が驚いたかって、今までの軽自動車の中で一番走りがいいのではないかと思ったところだ。
もちろんこれまで軽自動車にはビートやコペンといったスポーツタイプもあったし、ミニカダンガンやアルトワークスなどの激しいターボ仕様もあったが、そういう特別なクルマではなく、普通の乗用軽自動車としては、ここまで走りのいい軽自動車ってあっただろうか。
聞けば新型ワゴンRの車重はわずか780kg。これは40年くらい前のカローラと同程度の車重ではないか。
今回私は「クルマって軽いとここまで走りが楽しいのか」と驚愕した。
この「走りがいい」というのは普段着ない毛糸のセーターを着た時に違和感があるとか、いつものジーパンではなくスウェードのズボンを履いたら肌触りがいいとか、そういう微妙な感触の違いだから、分からない人には分からないだろう。
それでも分かる人にはハッキリと分かるので、ぜひとも一度試乗してみてほしい。このクルマにマニュアルミッションで乗ったらもっといいんだろうなあと思い描いてしまった。
この新型ワゴンRの撮影中、たまたますぐ横を同じボディカラーの先代ワゴンRが通ったのだが、私にはどっちが新型なのか見分けがつかなかった。
それほど外観の変化は少ないが、よく考えてみればそれは「機能性に特化したのでデザインはそれほど変えません」という戦略なのかとも思う。
「変わらない」ということがもたらす安心感もあるだろう。
横浜の崎陽軒が作る焼売弁当の醤油差しだって、もう何十年も同じ形をしている。あれが突然モダンな形になったら常連客は動揺するだろうし、第一使いづらくなることは容易に想像できる。
新しければいいってものでもない。ガッカリする人のほうが多いのであれば、変えないというのも勇気ある選択なのかとも思う。
最近の軽自動車業界はライバルも強力になってきて、無闇に新しさを追求すると「それならミライースでいいや」とか「それだったらN-BOXにする」と言われてしまう可能性もある。
今年(※2012年)の日本シリーズのジャイアンツ原采配のように、「とりあえず一塁に出たらバントでスコアリングポジションに送る」といった、手堅い戦略も有効な攻撃策として生きることが多いのだろう。
買って満足、使って快適、このご時世に新車を購入しても近所の人に後ろ指をさされることはないだろう。
そういう意味では顧客満足度は120%のクルマだ。
■クラウンから乗り換えても胸を張れた
ただし、私はこのクルマがワゴンRという車名であるかぎり、ある種の寂しさを感じてしまう。というのは初代ワゴンRの輝きを思い出してしまうからだ。
これは何度か書いていることだが、初代ワゴンRは「どんなクルマから乗り換えても、胸を張って車名を言えるクルマ」だった。
カローラやコロナはもちろん、マークXやクラウンから乗り換えたとしても「へー、あえてそっちを選んだんだな」と思わせる力があった。
今、残念ながらその神通力は、ワゴンRにはない。その地位はVWのup!に脅かされつつある。
up!はVWのラインアップのなかで最も安くて小さいクルマだが、「お金がないから安いクルマにしたんだな」とは思われない。逆にワゴンRを買うと、新型といえども「節約したかったのかな」と思われてしまう可能性が残る。
例えばホンダはそういう状況に一石を投じるべく、N-ONEを発売してきた。あのクルマは完全にMINIを意識しており、「小さくて安い軽自動車だけど、妥協してこのクルマにしたわけではないよ」というユーザー層を狙っている。
もしかするとスズキの開発担当車は「ワゴンRのライバルはダイハツのムーヴやホンダのライフだ」と思っているかもしれないが、それでは志が低いのではないかと私は思ってしまう。
そうではなくルノーのカングーBEBOPみたいなポジションをライバルとして設定してほしかったのである。
スズキの人はこのクルマでどんな道を走っている姿を思い描いて作ったのだろうか。近所のショッピングモールだろうか? TSUTAYAだろうか? 地方のあぜ道だろうか?
もちろん「たくさん売れるクルマ」というのはどこにでも似合う必要がある。無難なデザインになるのも仕方ない。しかし私はそれでもやはり、表参道や代官山のセレクトショップに似合うようなクルマを目指してほしかった。
例えば女性ファッション誌のオシャレなページでクルマを登場させようと思った時に、担当記者は「ワゴンRを使おう」と思うだろうか。残念ながら私はここ10年、そういう企画にワゴンRが登場した記事を見たことがない。
ドル箱商品だから手堅く作りたい、と思う気持ちもわかるが、売れてるクルマというのは「街の景色への責任」があると私は考えている。
毎月2万台近く売れるクルマは、それだけで日本の景色を作り上げる力がある。このクルマがたくさん止まっている景色を見て「オシャレな風景だな」と思うだろうか。スズキのデザイナーはそこまで考えているのだろうか。
追加グレードでも構わないから、もっとポップなスタイルの仕様をぜひ作ってほしい。時代を引っ張る役がワゴンRには似合うはずだ。
スズキはアメリカ市場から撤退したりして大変だとは思う。売れるクルマだから最大公約数に合わせなければという考えもわかる。ただいつまでも1990年代に流行っていた髪型と衣装とメロディラインで歌っていては、いつかファンは離れていってしまう。
どこかで新境地にチャレンジする必要がある。新曲と違ってお金もケタ違いにかかるだろうが、なんとか新生ワゴンRを生み出してほしい。
振り返ってみれば、このワゴンタイプのフォルムも初代ワゴンRが世の中に広めたものであった。そういう過去も含めて、古いファンを大事にしつつも、ワゴンRはいつも何かに挑戦してほしいぞ!
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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みんなのコメント
まあ、ワゴンRに始まるハイト系も、タントの登場ですっかりメインストリームがスーパーハイトに移行しちゃったので、よく売れるクルマから、そこそこ売れるクルマへと立ち位置が変わって久しいですが、その辺を原付よろしく下駄代わりに走るのに、ホンマに楽なのは今も昔も変わりなくですがね。
軽自動車メーカーに忖度しないで、疑問を投げ掛けるジャーナリストは本当に少ない。