ベントレーのW12エンジンの生産終了を記念し、設定された「スピード・エディション12」のうち、「フライングスパー」に小川フミオがテストドライブ。12気筒の魅力を再考する。
多気筒エンジンへのこだわり
ベントレーの12気筒エンジンがついに生産終了、と、2024年7月に報じられた。悲しむファンには、最後の記念に発表されたフライングスパー・スピード・エディション12を。大トルクの魅力を堪能できる4ドア・サルーンだ。
排気量と気筒数がクルマにとってラグジュアリーだった時代はもう終わりなのか……。
これまで6.0リッター12気筒エンジンのパワーと、ハンドリングが堪能できるモデルを手がけていたベントレーは、今は4.0リッターV8と、プラグイン・ハイブリッドV6にフォーカス。それだけに、限定発売のエディション12の存在は貴重だ。
ベントレーのためのこの12気筒エンジンは「W12」と、呼ぶ。V型をふたつ横並びにくっつけたようなかたちをしている。サイズがコンパクトになるため、操縦性に重要な前後重量配分の面でもメリットが生まれる。
フライングスパー・スピード・エディション12の5950cc12気筒は、467kW(635馬力)の最高出力と900Nmの最大トルクを発生。8段のデュアルクラッチATを介して前後輪を駆動する。
たっぷりしたトルクゆえ、アクセルペダルをほとんど踏まずに、するするっと加速していく。せっかく12気筒だけれど、騒音規制のせいもあって、かなりサウンドが抑えられているのが、残念。それでも、スムーズな加速感は12気筒ならではだ。
“スピード”の“スピード”たるゆえんは、高い速度域でのコーナリングにあって、そのため足まわりの設定はちょっとかため。操舵への反応も速く、全長5.3mのボディサイズを意識させない。
ベントレーは、戦前レースで活躍していた時代をブランドのDNAととられてきた。ロードゴーイングモデルでも、大きく、そして速い、を特徴としている。難をいえば、高速の不整路面では時としてショックが伝わってくることか。“4ドアのスポーツカー”と思えばいいのだけれど。そんなクルマ、ほとんどない。
ベントレーは1919年にWO(ウォルター・オウウェン)ベントリーによって設立された英国のブランド。英国の高級ブランドは、あえてちょっと古典的なエンジニアリングをセリングポイントにしたりするけれど、ベントレーは1990年代から、全輪駆動システムにも熱心に取り組んできた。
スピードは、クラシック・ベントレーのファンの間では、よく知られたサブネーム。1929年と30年つづけてルマン24時間レースで優勝したのが「スピードシックス」なのだ。
2000年代にベントレーでは、スピードの名を復活させている。今回のフライングスパー・スピードのように、ラインナップ中、最もハイパフォーマンスバージョンを意味している。
「ベルーガ」と呼ぶ、青みがかったグレイに塗装されたボディに、クロームの部分はほぼなく、フロントグリル、ウイング(サイドパネル)のエアアウトレット、ドアサッシュなどすべてブラック。すごみが効いている。
ロードホイールもブラックで、そこから見えるブレーキキャリパーだけは、専用色のシルバー。リヤクオーターパネルに“EDITION12”の文字がそっと入っているけれど、一目で特別な仕様と知れる。
内装も、サルーンというよりスポーツカーのように凝ったものだ。シートはブラックにホワイト系のステッチ。ダイヤモンドパターンが、ベントレーならではの世界をつくりあげている。
素材、色使いをふくめたデザインは、ベントレーの大きな魅力だ。そこはこのモデルでも堪能できる。控えめさと派手な部分がバランスとれていて、他にはない世界ができ上がっている。
ダッシュボードのパネルはピアノブラックの仕上げで、そこにもエディション12を表す文字と、左から右に「1・7・5・11(……)」と、12の数字が入っている。
12気筒エンジンの点火タイミングを表した数字だ。昔の多気筒エンジン車のエンジンルームを連想させる。
これから電動化へ向かうことを宣言しているベントレーが、こんな風に、多気筒エンジンへのこだわりを見せているのは、おもしろい。12気筒の最終モデルであるのが、残念だ。
文・小川フミオ 写真・田村翔 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
フライングスッパイ・ウメボシ・エディション12の試食記......
W12はガス欠の恐怖と戦うのだ。
週末仕事が終わって別荘へ行く。深夜のガソリンスタンドはどこも開いていない。
燃料は半分しか入っていなかった。こんな時、楽しむどころじゃない。