伝統の名エンジンが30年の歴史に幕。
スバルは、2019年12月末で水平対向エンジン「EJ20」の生産を終了するとともに、同時にフィナーレを飾る特別仕様車「WRX STI EJ20 ファイナルエディション」を数量限定で販売すると発表しました。
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1989年の登場以来、スバルのドライビングプレジャーを支える存在となってきた「EJ20」。自動車メーカーが、ひとつの型式のエンジンを30年も使い続けるというのは珍しいことです。なぜスバルは、このエンジンをそれほど長く使い続けたのでしょうか。
「名機EJ20」の歴史を振り返りつつ、その理由を解説します。
文:立花義人
写真:SUBARU、編集部
【画像ギャラリー】伝統の名機搭載!! EJ20を積んだ名スバル車たち
経営危機にあったスバルが「名機」EJエンジンを開発した理由とは?
EJ20型エンジンを初搭載した初代レガシィのツーリングワゴン。このモデルから熟成・進化を経て、名機は30年間使われ続けることになる
EJ型エンジンが最初に搭載されたのは、1989年登場の初代レガシィです。
レガシィは、当時経営危機に陥っていたスバル(当時は富士重工業)の社運をかけて開発された、同社初の高級モデルでした。
レガシィ誕生以前のスバルの基幹車種は「レオーネ」」(筆者が初めて乗った車)でした。エンジンはEJ型の前身であるEA型と呼ばれる水平対向OHVユニット。
このエンジンは、1966年登場のスバル・1000から基本設計が変わっていない古いもので、レガシィの目指す高速性能や走行安定性に見合ったものではありませんでした。
自動車メーカーが新しいエンジンを開発するには、数百億円規模のコストが必要と言われています。経営危機にあったスバルですが、レガシィのためには、どうしても新しいエンジンが必要ということで、開発のゴーサインが出たのです。
EJエンジンは、それまでスバルが熟成させてきた水平対向方式を基本に、高出力化・高剛性化への対応と、将来のアップデートを見据えた拡張性の確保に重きを置かれて開発されました。
EJ20はなぜ30年も使い続けることができたのか
2000年登場の2代目インプレッサWRX STIと同車をベースとしたWRCマシン。EJ20型エンジンは、競技のフィールドを通じて、性能面でもたゆまぬ進化を遂げてきた
初代レガシィ RSに搭載されたEJ20の最高出力は220ps/6400rpm、最大トルクは27.5kgm/4000rpmと、デビュー当時は「クラス最強のユニット」とされていました。
その後、インプレッサWRXでのラリー参戦に伴い、EJ20は何度も改良を重ねていきます。三菱のランサーエボリューションという最大のライバルの存在もあり、毎年ハイペースで、高出力化と耐久性向上を目指した改良が進められました。
インプレッサは圧倒的なパフォーマンスで、1995年、1996年、1997年と日本車で初めてWRC(世界ラリー選手権)で3年連続チャンピオンを獲得する快挙を成し遂げました。
しかし、2000年代中頃、車両のルールが改定され、低重心化と小型化が進んだことにより、ボディの大きなインプレッサは苦戦。2007年、インプレッサはレースから撤退することになります。
インプレッサのレース撤退、時代の変遷による車の大型化と高性能化、そして厳しい環境性能が求められるようになってもEJ20の開発は続き、最終モデルのWRX STIに搭載されるユニットの最高出力は308ps/6400rpm、最大トルクは43.0kgm/4000rpmにまで向上。
さすがに、クラス最強とまではいかないものの、EJ20は、30年前にデビューしたエンジンと基本設計が同じとは思えないほどの高スペック、しかも環境性能まで対応した優秀なエンジンです。
水平対向エンジンのメリットを最大限活かしつつ、時代の変化に対応できるだけのポテンシャルと拡張性を持っていたからこそ、EJ20は長期間使われてきたのです。
なぜ長年使われた名機がいま生産終了に?
WRX STIと多くの部分を共用しながら、より設計が新しいエンジンを採用するWRX S4。同車の登場は、長年使い続けた名機に「引退」の二文字が迫っていることを予感させた出来事でもあった
車の開発に関わる環境は、ここ10年で大きく変化しています。
温室効果ガス削減と、それに関連した化石エネルギー問題、自動運転化技術の向上など、自動車メーカーは次々に誕生する技術や安全基準への対応をしつつ、独自性と商品力を向上させなければなりません。
スバルも、優れた環境性能を持つFB型水平対向エンジンを2010年にリリースし、インプレッサスポーツやレヴォーグといった基幹車種に搭載しています。
こうした動きの背景には、経済産業省が新しく取り入れることにした燃費基準「CAFE(企業別平均燃費基準)」も関係していています。
これはすでにアメリカやヨーロッパが取り入れている自動車の燃費基準ですが、車種別ではなく、メーカー全体での平均燃費を算出し、一定の基準に達していなければ巨額のクレジットを支払わなければならないという制度です。
この制度では、一つのモデルが燃費基準に達していなくても、燃費の良い他のモデルでカバーできるというメリットもありますが、全体の規制値が厳しければ、燃費の悪いモデルは足を引っ張ることになってしまいます。
EJ20生産終了の決定の背景には、このユニットがこれまでかなり改良されてきたとはいえ、燃焼効率や環境性能よりもパフォーマンス優先に設計されていることもあり、さすがに改良だけで対応していくのは厳しい、と判断されたことにあると考えられます。
◆ ◆ ◆
世界屈指のパフォーマンスを発揮するマシンを支えてきた名機EJ20。生産終了により一つの歴史が幕を閉じることになりましたが、水平対向エンジンの独自性によるスバルの挑戦はこれからも続きます。
社会における車のあり方が変化する時代を迎えつつありますが、今後もスバリストを魅了する素晴らしい技術と車が誕生することを願っています。
◆「名機」EJ20型エンジンを積むWRX STI最後の限定車
先述のように、EJ20型エンジンを搭載する最後の限定車として、「WRX STI EJ20ファイナルエディション」が発売されることとなった。同車はまもなく10月24日から11月10日まで予約を受け付け、限定555台を販売。
応募多数の場合は、抽選となり結果は11月14日に発表。翌2020年1月から生産を開始する見込みとなっている。
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