クルマを購入するのにあたって、悩ましいのがグレードの選定。もちろん上級グレードになればなるほど、魅力的な装備が満載されていくが、価格も驚くほど高価になっていく。
ただ、昔から「輸入車は、ベースグレードのほうがいい」ともいわれる。内外装のドレスアップパーツの差はさておき、ベースグレードと上級グレードの大きな違いは、パワートレインや足周りだ。ターボ化やハイブリッド(PHEV含む)でより高出力なエンジンになったり、いかにもグリップが高そうな幅広&扁平大径タイヤや電制ダンパーなど、走りの装備が満載されているほうが、当然、走りもいいのでは?? と思えるが、実は輸入車に限らず、国産車であっても、ある程度の価格帯のモデルとなると、ベースグレードのほうが優れている場合が多い。
文:吉川賢一
写真:NISSAN、BMW、Mercedes-BENZ、Audi、ベストカー編集部
無理のないタイヤサイズによって、快適性に優れる
ベースグレードのほうが優れている場合が多い理由のひとつは、タイヤサイズだ。日本に導入される輸入車の殆どは、本国で販売される上級グレードであり、大径タイヤ&ホイールが当然のように装着されることになっている。たとえば、メルセデスベンツの現行Cクラス(W206)の場合、最もベーシックなC180は16インチタイヤ(225/55R16)なのだが、C180は受注生産(実質的に受注させない)となっており、その上のC180アバンギャルドの17インチタイヤ(225/50R17)が日本における実質的なエントリーモデル。ちなみに中間グレードは18インチサイズ(フロント225/45R18、リア245/40R18)、AMGは19インチサイズ(フロント225/40R19、リア255/35R19)だ。
たしかに、17インチ、18インチ、19インチと、大径タイヤ&ホイールになるほど見栄えは立派になるのだが、乗り心地(突起乗り越し時の突き上げ)の悪化は無視できず、ロードノイズも増えるなど、快適性に大きなトレードオフが発生する。燃費悪化するし、交換時の費用も高くなるなど、コスト面での跳ね返りも大きい。
2019年登場のBMW G20型3シリーズ。スタンダードグレードのタイヤは16インチだが、Mスポーツは18インチとなる
しかし、デザイン的に優れることから、大径ホイールは商品的には外せない必須アイテム。大径ホイール装着によるトレードオフを解消するために、大径ホイールを採用するグレードには、様々な電制デバイスや、高級タイヤ、吸遮音材の追加、車体剛性の向上など、多くの対策を施している。19インチ、20インチを当たり前に装着する高級セダンでは、少なくとも電制ショックアブソーバーは標準装備となっているのは、乗り心地の跳ね返りを少しでも解消しようとしているためだ。
もしタイヤを昔のように16インチで設定できれば、余計なデバイスを付けなくとも、静かで上質な快適性が(最小限の対策で)手に入るのだが、トレンドから外れるため、製品企画は採用させてくれない。運動性能的には、大径タイヤ&ホイールは、かなりやっかいなアイテムなのだ。
ノートオーラの17インチホイール(6.5J)。タイヤは205/50R17。Bセグメントのコンパクトカーにしては奢りすぎで、特に後席では突き上げが強め
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重量が軽いことから、いい意味でオーバースペックに
もうひとつ、クルマの重量の差も、ベースグレードのほうが優れる傾向にある点だ。たとえばメルセデスCクラス(W206)のように、C180、C200、C220dと、同じボディでグレードごとにパワートレインを使い分ける場合(AMGは除く)、一般的には、最も重たいグレードを基準にして、衝突性能や耐久性能などが設計される。Cクラスの比較だと、直4ガソリンエンジンのC180(車両重量1650kg)に対して、ディーゼルターボのC220d(1750kg、AMGパッケージとスライディングサンルーフを付けると1820kg)が最重量となり、これを基準に車体構造や剛性設計がなされることになる。
こうした場合、ベースグレードのほうがパワートレインは軽くなるため(上記の場合だと170kg差)、いい意味で「オーバースペック」となる。つまりは、重量級グレードを考慮した強靭な車体に、軽量なパワートレインが組み合わされるので、その運動性能の差は歴然。ベースグレードは、もっとも優れた走りとなるのだ。
この「タイヤ入力の小ささ」と「強靭な車体に軽いパワートレイン」、このふたつのメリットが揃うことで、ベースグレードのほうが優れている、となるわけだ。これはもちろん国産車も同様に当てはまる。
ベースグレードの話からはすこしそれるが、国産車の大径タイヤ採用に関しては、クルマによっては車格に見合わない大径タイヤを履いていることで、突き上げ感とロードノイズが同カテゴリの他車よりも悪くなってしまっていることがある。Cセグメントへの19インチや、ミニバンへの18インチ、ミドルクラスSUVへの19インチなど、明らかに無理が生じており、たしかにカッコよくはなるのだが、見た目を重視するあまり、まっとうなタイヤ選定やボディ剛性などの対策が十分になされていないよう感じられる(ちなみにカローラツーリングの話。ベースのセダン(15インチ)のよさを17インチタイヤで台無しにしている)。
スカイラインNISMOは、後輪を標準車(400R)の245/40RF19から265/35R19へ20mmワイド化。また前後ウインドウの接着剤を改良し、車体補剛効果は400Rに対して全体捩り剛性値を約15%向上、リアの突き上げ感も解消させている
16インチなのに、18インチに見えるホイールデザインが登場してほしい!!
昨今はどの自動車メーカーも、上級グレードを推しており、最上級グレードでないと「ダサい」といった雰囲気すらあるように感じる。上級グレードは、全ての装備が豪華仕様になっているので、どうしても魅力的に映る。ハイパワーなエンジンやプラグインハイブリッド(とても重たくなる)、カッコいいエアロパーツを付けたり、大径ホイールで幅太のハイグリップタイヤを履き(これらも重たくなる)、内装もゴージャスに飾ったほうが、商品としては圧倒的に魅力的だ(筆者も、そのほうが好き)。
その反面、ベースグレードは、タイヤのゴム部がとても厚く、エクステリアやインテリアもシンプル(簡素)で、先進装備もついておらず、「野暮ったくてカッコ悪い」と映るかもしれない。しかし走りの素性は、間違いなくベースグレードのほうが優れている。できることならば、実際は16インチサイズなのに、18インチサイズのように見えるホイールデザインが登場してほしいと思う。
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