現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > ジウジアーロはなぜこれほど天才なのか? 初代ピアッツァの魅力と知られざる真実

ここから本文です

ジウジアーロはなぜこれほど天才なのか? 初代ピアッツァの魅力と知られざる真実

掲載 38
ジウジアーロはなぜこれほど天才なのか? 初代ピアッツァの魅力と知られざる真実

 「伝説の名車」と呼ばれるクルマがある。時の流れとともに、その真の姿は徐々に曖昧になり、靄(もや)がかかって実像が見えにくくなる。ゆえに伝説は、より伝説と化していく。

 そんな伝説の名車の真実と、現在のありようを明らかにしていくのが、この連載の目的だ。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る。

マンガやマニアックグレードで人気上昇中!? ホンダ トゥデイの意外すぎる盛り上がり【記憶に残る珍名車の実像】

文/清水草一
写真/いすゞ

[gallink]

■気鋭の30歳が生み出した名デザイン

 「ジウジアーロ」という名は一種の魔法だ。それが付いているだけで別格になる。デザインが美しすぎて、なんだかよく理解できなくても、「ジウジアーロだから」と言われれば1億パーセント納得だ。

 巨匠ジョルジェット・ジウジアーロ氏がデザインした国産車は少なくないが、その代表作のうち2台は、いすゞが世に送り出している。117クーペと、初代ピアッツァだ。

「ジウジアーロ」デザインの初代ピアッツァ。同氏はほかにも、ロータス エスプリ、ランチア デルタ、初代トヨタ アリストなども手がけている

 1968年に登場した117クーペは、ひと目で女優だとバレてしまうようなクルマだった。当時ジウジアーロ氏は30歳。マセラティ ギブリに代表される、イタリア的にセクシーなデザインを、次々と生み出していた時期だ。

 一方、117クーペの後継モデル・初代ピアッツアの登場は、その約10年後。その間に氏は、初代フォルクスワーゲン ゴルフや初代フィアット パンダといった革命的な小型車だけでなく、スポーツカーでは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場したデロリアンなどを手掛け、時代を10年、20年先取りする超先進的な自動車デザイナーへと進化していた。

 ジウジアーロ氏が、ピアッツァの前身となったショーカーを、「アッソ・デ・フィオリ」の名で1979年のジュネーブショーに出展したのは、まさにそんな時代だ。氏はそれを、「80年代のボディライン」であると語ったという。カッコよすぎる……。

■初めて見たピアッツァは謎だらけだった

1981年から1991年まで販売された初代ピアッツァ。1983年にはフェンダーミラーがドアミラーへ変更されている

 初代ピアッツァが発売されたのは、2年後の1981年だ。個人的には免許を取った翌年で、初代ソアラに心を奪われていた。ソアラは、何も知らない若造にもそのカッコよさがダイレクトに理解できたが、ピアッツァの美しさはやや難解で、どこか芸術の香りがした。

 当時ピアッツアは、日本人には発音の難しい車名とともに、パワーよりも美や先進性を優先したハイブラウなスポーツカーであり、形は「マヨネーズみたい」と言われたりした。ただの若僧だった私は、そのマヨネーズを見るために青山のショールームへ行き、じっくり眺めてみたが、ピアッツァはあまりに敷居が高すぎて、退散するしかなかった。

 エンジンは4気筒1.9LのDOHC(135馬力)とSOHC(120馬力)。いすゞのDOHCはどんなフィーリングなんだろう。荒々しいと自動車雑誌には書いてあるけれど、荒々しいツインカムのフィールとはいったいどんなものなのか。ツインカム自体をまだ知らない童貞には、すべてが謎だった。わかるのは、ピアッツァのフォルムが美しすぎること。そして、あの少しだけ開く瞳(セミリトラクタブルヘッドライト)の、控えめな色気くらいだった。

■30年後に初試乗して知る神々しさ

 その後長らくピアッツァは、私にとって謎のいい女のままだったが、10数年前、ピアッツァの誕生から30年たって、ついにというかまさかという感じで、生まれて初めて運転する機会が巡ってきた。

 見た瞬間、背筋がぞくっとした。30年前のいい女は、今でもあり得ないほどきれいだったのだ。本当のいい女とはこういうものか。月日が流れても、月日では押し流せない気品が残る。いや逆に贅肉がそぎ落とされ、美のエッセンスはますます磨かれていた。さすがジウジアーロ。「80年代のボディライン」は、21世紀になってさらに輝いていた!

 近くへ寄って、クルマを一周した。美の巨匠が作り上げたフォルムは、30年たっても微塵も揺らいでいない。余分なものはなにもない。あえて言えば前期モデルに装着されていたフェンダーミラーだけだが、後期型にはそれもない(結局ほとんどの前期型がドアミラーに付け替えられた)。日本の法規に合わせるため無理やり付けられた、カタツムリのツノのようなフェンダーミラーに、ジウジアーロ氏はひどく失望したという。ピアッツァほどドアミラーの認可が待望されたクルマはなかった。

 サイズは小ぶりだ。全長4385mm、全高1300mm、そして全幅はわずか1655mm。こんなに小柄だったのか……。試乗したのは、1984年式の2.0Lターボモデルだった。この年からピアッツァは、パワーウォーズに対応するため、アスカに搭載された180馬力のターボエンジンを、ラインナップに加えていた。

 ステアリングの左右には、ジウジアーロの描いた未来の設計図として、サテライト式のスイッチボックスが配置されている。いかにも樹脂製な質感だが、それが神々しく感じられる。メーターは超レトロなデジタル式。30年前のセピア色の未来は、古いプラモデルみたいに、触れれば壊れてしまいそうだった。

 茶室に入る気分で運転席に座り、遠慮勝ちにエンジンをかけ、マニュアルギアを1速へ。クラッチはまったく普通に軽やかだった。そして、あっけないほど普通に発進した。

 それは、夢のような時間だった。こんなにトルクがあったのか! こんなに加速がよかったのか! 現代のクルマとまったく遜色ないじゃないか! いや、もちろんそれほど速くはないけれど、貴重な美術品が実用品として通用することに感動した。

 雨の中、ワイパーを動かせば、いかにも頼りなげな1本アームが、しっかり雨をぬぐってくれる。右のサテライトボックスに配置された、これまた頼りないウィンカースイッチに触れれば、ちゃんとウィンカーが点滅する。すべてに感動……。

 ピアッツァは、30年を経て、ますます美しくなっていた。40年を経た今はいったいどうなっているのか。残念ながら、初代ピアッツァを街で見かけることは皆無になった。もしそんな機会に恵まれたなら、私はその場に立ち尽くして、涙を流すだろう。

その後、1991年に発売された2代目ピアッツァは、社内デザインとなった(のちに日産へ移籍する中村史郎氏による)

[gallink]

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

全長5m超えのレクサス高級「“3列シート”SUV」に反響多数! 堂々「カクカク」デザインに「憧れる」「カッコイイ」と熱視線集まる! 広々内装も魅力的な新型「TX」に「日本でも欲しい」の声も
全長5m超えのレクサス高級「“3列シート”SUV」に反響多数! 堂々「カクカク」デザインに「憧れる」「カッコイイ」と熱視線集まる! 広々内装も魅力的な新型「TX」に「日本でも欲しい」の声も
くるまのニュース
レクサスのレザーもリサイクルでグッズに、リョーサンがトヨタと共同開発
レクサスのレザーもリサイクルでグッズに、リョーサンがトヨタと共同開発
レスポンス
グリーンがアクセントの爽やかコスが素敵! SUPER GTのGreen Braveは2人の「埼玉GreenBraveサポーターズ」が応援します
グリーンがアクセントの爽やかコスが素敵! SUPER GTのGreen Braveは2人の「埼玉GreenBraveサポーターズ」が応援します
Auto Messe Web
【試乗】新型CR-Vの日本導入は水素燃料電池車のみ! 特殊なクルマかと思ったら実用性十分の「買いやすい」モデルだった
【試乗】新型CR-Vの日本導入は水素燃料電池車のみ! 特殊なクルマかと思ったら実用性十分の「買いやすい」モデルだった
WEB CARTOP
ベントレー マリナーの技が冴える「エクスプレッション オブ テクスチャー」。感性を刺激する「コンチネンタルGTスピード コンバーチブル」ベースの特注モデル
ベントレー マリナーの技が冴える「エクスプレッション オブ テクスチャー」。感性を刺激する「コンチネンタルGTスピード コンバーチブル」ベースの特注モデル
Webモーターマガジン
角田裕毅、F1ラスベガスGP初日は10番手「FP1は苦労したけど、改善できました。ポジティブな兆候です!」
角田裕毅、F1ラスベガスGP初日は10番手「FP1は苦労したけど、改善できました。ポジティブな兆候です!」
motorsport.com 日本版
クルマに付けてる「青地に車いす」マークに“法的効力”一切無し!? 「黄色いちょうちょ」と役割違う? 意外と知らない実態とは
クルマに付けてる「青地に車いす」マークに“法的効力”一切無し!? 「黄色いちょうちょ」と役割違う? 意外と知らない実態とは
くるまのニュース
日高前副会長の後任に、ヤマハ渡部克明会長兼社長が就任【日本自動車工業会】
日高前副会長の後任に、ヤマハ渡部克明会長兼社長が就任【日本自動車工業会】
バイクのニュース
50台限定の『ディフェンダー110』発売、アリゾナの自然を表現した「赤」採用 価格は1300万円
50台限定の『ディフェンダー110』発売、アリゾナの自然を表現した「赤」採用 価格は1300万円
レスポンス
ヒョンデに続いて韓国のKIAも日本に上陸! どんなクルマが揃っているのかチェックしたらデザインも中身も結構ヤバい!!
ヒョンデに続いて韓国のKIAも日本に上陸! どんなクルマが揃っているのかチェックしたらデザインも中身も結構ヤバい!!
WEB CARTOP
なぜ12気筒エンジンは魂を揺さぶるのか? アストンマーティン新型「ヴァンキッシュ」は快感以外のなにものでもない。【試乗レビュー】
なぜ12気筒エンジンは魂を揺さぶるのか? アストンマーティン新型「ヴァンキッシュ」は快感以外のなにものでもない。【試乗レビュー】
くるくら
ミツオカ、創業55周年記念車『M55』の市販モデルを正式発表。ローンチ仕様を100台限定で発売へ
ミツオカ、創業55周年記念車『M55』の市販モデルを正式発表。ローンチ仕様を100台限定で発売へ
AUTOSPORT web
初代NSXに存在した「やりすぎ」モデル! たった14台しか売れなかった「タイプS Zero」のストイックさに脱帽
初代NSXに存在した「やりすぎ」モデル! たった14台しか売れなかった「タイプS Zero」のストイックさに脱帽
WEB CARTOP
一体何が!? シーズン終盤のF1レースディレクター交代劇にドライバーたちも驚き「ちょっと奇妙だよね……」
一体何が!? シーズン終盤のF1レースディレクター交代劇にドライバーたちも驚き「ちょっと奇妙だよね……」
motorsport.com 日本版
VW、新型SUV「ティグアン」を発売 価格は487万1000~653万2000円
VW、新型SUV「ティグアン」を発売 価格は487万1000~653万2000円
日刊自動車新聞
“300馬力”V6搭載! ニッサン爆速「最上級ミニバン」とは? 超豪華内装×専用装備マシマシな“走り屋仕様”の「エルグランド」に熱視線!
“300馬力”V6搭載! ニッサン爆速「最上級ミニバン」とは? 超豪華内装×専用装備マシマシな“走り屋仕様”の「エルグランド」に熱視線!
くるまのニュース
家族のおでかけマンネリ解消へ、日産が新プロジェクト 全国の「奥名所」を発掘
家族のおでかけマンネリ解消へ、日産が新プロジェクト 全国の「奥名所」を発掘
レスポンス
メルセデスAMGから「CLE53カブリオレ」発売!専用のパワフルなルックスと先進・洗練のインテリア
メルセデスAMGから「CLE53カブリオレ」発売!専用のパワフルなルックスと先進・洗練のインテリア
LE VOLANT CARSMEET WEB

みんなのコメント

38件
  • ピアッツァのリア周りは不評だったけどね・・・

    フロントはカッコ良かった。

    117クーペは傑作。

    持ってる人は絶対に売らない様、家訓にしたまへ。
  • 空間を切り取る線に迷いがないのよね。ジウジアーロ。
    ウィンドウグラフィックも美しくて、アールがついたボディツライチのテールランプも主張しすぎず、でも他とは違う細部までデザインしてます感。
    ネロのブラックボディに細いゴールドのライン。角目4灯の顔はかなりかっこよかった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

189.9234.3万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

158.0279.0万円

中古車を検索
ピアッツァの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

189.9234.3万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

158.0279.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村