トヨタのスポーツモデル「GRシリーズ」は、GRMN、GR、GR SPORT(旧G’s)の3種に分かれる。中でもスポーツコンバージョンモデルであるGR SPORTは、ユーザーに最も近いGRだ。GR SPORTのラインナップを回顧しながら、GR SPORTの魅力を改めて確認していこう。
文/佐々木 亘、写真/TOYOTA
GRヤリスは高くて無理!? でも希望はあるぞ!! ちょっとコダワリ派に捧ぐ「GR SPORT」のススメ
■ライトチューンだが侮れないGR SPORTの実力
2015年に100台限定生産で登場したトヨタ 86GRMN
GRシリーズの頂点に君臨するのは「GRMN」だ。これまでiQ、ヴィッツ(ヤリス)、マークX、86、センチュリー(市販化無し)で登場し、サーキット走行を想定したボディ・エンジンチューニングを施す、台数限定生産モデルである。
台数限定ではないが、専用車かつスポーツユニットを搭載したのが「GR」だ。現在ではGRカローラ、GR86、GRヤリス、GRスープラの4台が並ぶ。量産モデルだが、こだわりのチューニングで表現された走りは本物だ。
GRの下に位置するのが、「GR SPORT(旧G’s)」となる。基本的にパワートレインはノーマルのまま、足回りに専用品が入り、シャシー剛性を高めたモデルが多い。現在では、アクア・ヤリスクロス・ハイラックス・ランドクルーザー・コペン・C-HRの6車種に、GR SPORTを設定している。
GR SPORTは、本格スポーツモデルではなく、日常生活に寄り添うクルマから、ひと時の非日常的な華やかさを生み出すもの。そのため、過去に遡ると設定車種のキャラクターも様々である。
コンパクトのヴィッツやアクア、ミニバンではノア・ヴォクシー、ハリアーやマークXといったハイランクのSUVやセダン、プリウス・プリウスα・プリウスPHVといったエコカーもGR SPORTやG’sとして登場した。それぞれが、ノーマルモデルとは一味違うアクセントを持っている。
GR SPORTの魅力の一つは、スポット溶接の打点増し等を中心にしたボディやシャシーの剛性アップ。生産ラインを持つ自動車メーカーだからこそ可能なチューニングで、ノーマル車とはひと味違う走りを生み出し、ドライバーに運転の楽しさを語りかけるのだ。
■過去にはあったけど……チグハグだったミニバンのGR SPORT
2016年登場のトヨタ ノアG’s。運転するドライバーは楽しめるが、2列目/3列目の乗り心地はノーマルより悪化。ミニバンとしては本末転倒なモデルだった
これまで登場した全てのG’s及びGR SPORTに乗ってきた筆者の中で、これはGR SPORTよりノーマルの方が良いかもと思ったクルマがある。
まずはノア/ヴォクシー。G’sが初めてラインナップしたモデルで、ミニバンっぽさを消した硬めの足回りとクイックな操作性が売りのクルマだった。
乗ってみると、確かにノア・ヴォクシーのフワフワ感は無くなっているのだが、なにぶんショックが硬い。結果として、ドライバーは楽しいが、2列目・3列目のパッセンジャーには、快適とは言い難い乗り味になってしまった。
2012年~2014年まで販売されたアルファードとヴェルファイアのG’sもチグハグ感が強い。こちらもノーマルの方がパッセンジャーは居心地よく乗っていられるため、ミニバンとGR SPORTの相性は、そこまでいいとは言えないのだろう。
GR SPORTでは、剛性アップと足回りの変更が王道の路線であり、引き締まった乗り味が魅力の一つだ。しかし、ミドルからラージミニバンに関してはスポット溶接打点増しとドレスアップ、この程度に抑えるのが良いのだろう。
カテゴリーに見合ったチューニングを提供するのも、GR SPORTの使命だと言える。ミニバンに関しては、もう少し足がしなやかに動くチューニングを期待したいところだ。
■GR SPORTが似合うクルマとGR SPORTになって欲しいクルマ
トヨタ アクアGR SPORT。現行のGR SPORTのうち、特に出来がいいといわれるモデルだ
現行の6車種は、もちろんGR SPORTがあって良かったクルマたちだ。特に、アクアとヤリスクロスに関しては、特にGR SPORTの出来がいい。
さらに、過去にGR SPORTやG’sが設定されていて、現在、復活待望論が多い車種もいくつかある。
その筆頭格がプリウスだ。プリウスにスポーツコンバージョンモデルが設定されたのは過去2回、1度目は3代目の後期モデルに設定されたプリウスG’s(2011年~2015年)、2度目は4代目のPHV(PHVとしては2代目)に設定された、プリウスPHV GR SPORTである。
走行性能が劇的に進化した5代目プリウスにも、GR SPORTの設定を望む声は多い。特に、先代ではPHVにしかGR SPORTが設定されなかったため、5代目でHEVモデルのGR SPORTが登場してほしいと、期待するユーザーの声はトヨタディーラーでも多く耳にする。
エコカーというイメージが強い3代目・4代目のプリウスだが、G’sやGR SPORTになって、その印象は大きく変わった。元々高い空力性能に加えて、ボディ剛性の向上、足回りの変更で、スポーツセダンへ早変わりだ。
筆者は現在も2012年に購入したプリウスG’sに乗り続けているが、走行距離16万キロオーバーでも、ボディに疲れは出てこない。施された剛性アップは車体の寿命を延ばす効果もあるのだろうか。
また、G’sやGR SPORTには、カタログに載っていない細かなこだわりも多い。例えばプリウスG’sでは、ステアリングギアレシオが、ノーマルよりもクイックに変わっている。コーナーを一つ曲がれば、その違いは明らかだ。こうしたこだわりもGR SPORTの魅力の一つであろう。
GR SPORT化を望む声は、プリウスの他に、カローラスポーツ・クラウン・RAV4などでも聞こえてくる。一部は海外限定でGR SPORT化されていて、日本導入を是非検討して欲しいものだ。
本格スポーツのGRが、トヨタスポーツモデルにおける話題の中心になるが、現実的に生活とマッチングさせて使うのは難しいと思う。さらに、車両本体価格が高額で手が出しにくい部分も多いはずだ。
その点、一般ユーザーでも気軽に検討できるのがGR SPORT。筆者は、楽しいクルマがもっとトヨタに増えてくれることを、G’sに魅了されたファンの一人として願っている。
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