新車試乗レポート [2022.12.01 UP]
【ボルボ XC40 リチャージ】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
ボルボ「XC40」スポーティーにドレスアップした特別仕様車 発売
欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、補助金の充実や新しいEVの登場&上陸など、EV関連のニュースが次々とメディアをにぎわせている。そうした状況もあり、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も案外多いのでは?
とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのがまだまだ難しい。
本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。
今回採り上げるのは、ボルボ「XC40リチャージ プラス シングルモーター」。コンパクトSUVの人気モデル「XC40」のEVバージョンは、どんな実力を披露してくれるのだろうか?
【第32回 BMW i4 M50】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
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XC40リチャージ プラス シングルモーターのプロフィール
XC40リチャージ プラス シングルモーター
すでにボルボは「2025年には世界販売の50%を、そして2030年には販売するすべてのモデルをEVにシフトする」という近未来の電動化戦略をアナウンス済み。さらに、先ごろ100%EVのラージSUV「EX90」をお披露目した際には「今後、毎年1台ずつ新しいEVを発表していく」と発表するなど、急速にEV化へと舵を切っている。
とはいえ今後、毎年1台ずつ姿を現すというピュアEVのセールスが軌道に乗るのを待っていては高い目標をクリアするのは難しいのだろう。すでにエンジン車として髙評価を得ているコンパクトSUV「XC40」のラインナップにも、EVバージョンである「XC40 リチャージ」が加わった。
その中身は、ボルボがEV専用モデルとして日本市場で展開している「C40リチャージ」とほぼ同じ。プラットフォームをはじめとする車体の基本構造などを2台は共用しているからだ。
エンジン車のXC40から採用が始まった“CMA(コンパクトモジュラーアーキテクチャ)プラットフォーム”は、実は設計段階からEVへの発展を考慮して開発されたもの。EVモデルはフロント回りやフロア構造がエンジン車とは別の仕立てとなっている。
設計段階からEVを視野に入れていただけあって、XC40リチャージはフロア下に大容量バッテリーを搭載するものの、1030mmという最大室内高はエンジン車と同一。またXC40リチャージのラゲッジスペースは、エンジン車の452Lには及ばないものの419Lという十分な容量を確保している。
加えて、XC40リチャージのインテリアは、本革を使用しないレザーフリーや再生素材を使用したフロアカーペットなど、C40リチャージと同じサステナビリティを意識した仕立てとなっている。さらに、インフォテイメントシステムのOSにGoogleのAndroidを採用し、多彩な操作を音声で行えるようにするなど、コックピットのデジタル化に注力しているのは最新のボルボ車のトレンドにのっとっている。
C40リチャージと同様、XC40リチャージもフロントとリアにそれぞれモーターを搭載するツインモーター版と、フロントモーターだけで駆動するシングルモーター版の2モデルをラインナップする。今回の試乗車は後者のシングルモーター仕様で、最高出力は231ps、最大トルクは33.6kgmを発生する。
ちなみに、気になるバッテリー容量は69kWで、1回の満充電当たりの航続距離はWLTCモードで502kmとなっている。
■グレード構成&価格
・「プラス・シングルモーター」(639万円)
・「アルティメット・ツインモーター」(739万円)
■電費データ
<XC40リチャージ プラス シングルモーター>
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:159Wh/km
>>>市街地モード:136Wh/km
>>>郊外モード:149Wh/km
>>>高速道路モード:177Wh/km
◎一充電走行距離
・WLTCモード:502km
XC40リチャージ プラス シングルモーター
【高速道路】冬場のテストとあって、エアコンの影響が感じられたデータ
現在のボルボのBEVはC40とXC40の2車種でそれぞれにシングルモーターとツインモーターがあり、ざっくりと4モデル。2022年5月にC40ツインモーターのテストをしているが、今回はC40とXC40のシングルモーター2台を連れ出した。両車はボディ形状に差があるものの、ハードウエアはほぼ共通で車両重量もWLTCモード電費も同一となっている。高速道路での電費は、制限速度100km/h区間のその1が5.0km/kWh、その4が5.6km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が6.1km/kWh、その3が6.1km/kWh。
同時テストのC40シングルモーターは制限速度100km/h区間のその1が4.8km/kWh、その4が5.7km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が6.0km/kWh、その3が6.1km/kWhで、ほぼ同一の電費となった。今回はその1が交通の流れ的に順調で、当連載のEVテストとしては辛めの数値。だが、早朝でも交通量の多い東名高速の東京寄りの区間が特殊であり、大方の100km/h制限区間の高速道路で普通に走れば、5km/kWh前後というのが妥当なところだろう。今回は気温が10℃台前半と少し寒く、ヒーターの負荷があるので電費はやや辛めになっている。
往路の高速テストコース
往路の高速テストコース。東名高速道路 東京ICからスタート。海老名SAまでを「高速その1」、海老名SAから厚木ICから小田原厚木道路を通り小田原西ICまでを「高速その2」とした。復路の高速テストコースは小田原厚木道路の小田原西ICから東名厚木ICを経由し横浜青葉ICまで走行。途中海老名SAで充電を行った
【ワインディング】上りでの消費電力はクラス標準レベル。一方で回生能力は優秀なものだった
箱根ターンパイクでの電費もC40シングルモーターとの差は誤差の範囲内だった。きつい登り区間では1.7km/kWhで同一。これは車両重量が近いBEVのなかで標準的か、ヒーターの負荷がかかっている分、少しだけ悪いぐらい。標高が高いので気温が10℃前後だったことを考えれば立派と言える。下りでは電費計から推測して3.3kWhを回生した。C40シングルモーターは3.4kWhでほぼ同一だ。C40ツインモーターの3.75kWhに比べるとやや少ないが、これまでテストした2WDモデルのなかでは優秀な部類。回生能力は高いと言うことができそうだ。
自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した
【一般道】ツインモーターよりも良好な電費データを記録
一般道の電費は6.2km/kWhで、C40シングルモーターの6.3km/kWhとほぼ同一だった。ちなみにC40ツインモーターは4.2km/kWhにとどまっていて、その差はWLTCの市街地モード電費よりも大きく出ている。傾向的には、シングルモーターのほうがツインモーターよりも電費はいいが、高速域よりも低速域のほうが顕著になるようだ。ストップ&ゴーの多い一般道では車両重量の差による電費への影響が大きいからだと推測できる。街中での使用が多いユーザーほど、電費的にはシングルモーターのほうが選択するべきモデルになるだろう。
東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約22kmの距離を走行した
【充電】急速充電は80%を超えると時間効率が低下
海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません
スタート時のバッテリー残量は93%、走行可能距離は340kmだったが、156.7km走行して復路・海老名サービスエリアに到着したときには47%、160kmになっていた。
出力90kWの急速充電器を30分間使用して30.7kWhを充電。90%、350kmまで回復した。C40シングルモーターは40kWの急速充電器の30分使用で18.1kWh、50→76%、180→270km。出力の大きい90kWのほうが充電量が多いのは当然だが、効率的にはC40シングルモーターが使用した40kWのほうが高かった。これはSOC(充電状態)が低いほど電力が入りやすく、高くなるにつれて入りにくくなっていくからだ。ツインモーターと90kWの組み合わせでは、充電初期から50%台では75kW程度の出力だったが、70%台からじょじょに落ち始め、78%時には60kW、80%時には55kW、90%時には33kWとなっている。30分間の平均出力は61.4kW。やはり急速充電は80%までを目安とするのが時間効率的にもいいようだ。
前席との間はゆとりあり。床にセンタートンネルがあるため、横方向のゆとりは少ない。頭上スペースは同時テストのC40よりも広い
XC40リチャージ プラス シングルモーターはどんなEVだった?
テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏
C40とXC40の違いはスタイリングとそれにともなう後席およびラゲッジルームの広さだけといって間違いはないだろう。電費性能や走りのフィーリングでの違いは見られなかった。C40のスタイリッシュさを選ぶのもありだが、利便性で有利なXC40のほうが選びやすいが、実際に売れ行きでもそういった傾向になっているようだ。
シングルモーターとツインモーターでは、電費では前者、走りでは後者に軍配があがる。全開加速やコーナーでの立ち上がりではFWDよりも4WDのほうが断然有利なので、パフォーマンス重視のユーザーにはツインモーターがお薦めなのは当然だが、普段の走りでも違いはあった。ワンペダルドライブ使用時に、アクセルを戻して強い回生を効かせたときに、リアにもモーターがあるツインモーターのほうがピッチングが少なくて乗り味がいいからだ。前後にモーターを持つことで上質で疲れの少ない走りを実現するのだった。
XC40リチャージ プラス シングルモーター
■全長×全幅×全高:4440×1875×1650mm
■ホイールベース:2700mm
■車両重量:2000kg
■バッテリー総電力量:69kWh
■定格出力:80kW
■最高出力:170kW(231ps)/4919-11000rpm
■最大トルク:330Nm(33.6kgm)/0-4919rpm
■サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク
■ブレーキ前/後:ディスク/ディスク
■タイヤ前/後:235/50R19/255/45R19
取材車オプション
メタリックペイント、ルーフスポイラー、ボルボ・ドライブレコーダー(フロント&リアセット)
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