トヨタGRスープラの話題性は抜群だ。つい先日はドイツ・ニュルブルクリンク24時間レースにGRスープラが出場し、豊田章男社長がドライブすることでも話題になった。また、北米ではラインオフ1号車が2.3億円で落札されたという驚きのニュースや、欧州では初年度の生産分が4ヶ月で完売するなど、これまでの常識ではあり得ないことが起こり続けている。
ベストバイは何だ?
【予選トップ】ニュルブルクリンク24時間レース スバルWRX STIの挑戦
そのGRスープラがようやく国内デビューをし、試乗のチャンスを得ることができた。蓋を開けてみれば、「スープラのDNAは6気筒FRスポーツ」とさんざんPRされたが、なんと4気筒エンジン搭載モデルもラインアップしていた。しかも、その4気筒がとても素晴らしい出来栄えで、6気筒こそがスープラであるという認識を変えなければならなかった。
スープラの国内展開は3グレード。6気筒エンジン搭載の「RZ」、4気筒のパイパワー版「SZ-R」、標準モデルの「SZ」の展開。外観での見た目の違いはタイヤサイズくらいで、RZから19インチ、18インチ、17インチへと装着サイズが異なっている。詳しい目線で言えばブレーキの違いでも見分けはつく。
最初に試乗したのが4気筒のハイバワー版SZ-R。ドライバーズシートに座ってポジションを取ってみると、フロントスクリーン越しに見えるボンネットがローングノーズを感じさせる低いポジションだ。ゆっくりと走り出し駐車場から出て行くだけでロングノーズを感じ、リヤタイヤが腰の直ぐ後ろにあることを感じさせる。
4気筒、6気筒それぞれの魅力
エンジン音をわずかに聴きながら徐々に速度を上げて行く。滑らかなシフトアップでやや軽めのステフィール。微小舵でのノーズの動きを確認しつつワインディングを走る。装着タイヤは18インチサイズでランフラットではなく標準のエアタイヤ。その影響もあるのか乗り心地は予想よりもよく、スポーツカーであることで身構えているのは肩透かしをくらう感じだ。
400Nmというトルクに258psを発揮する4気筒ターボもBMW製のエンジンで、低回転からターボラグを感じることなく扱いやすいレスポンスで走る。6気筒想定のロングノーズに4気筒エンジンを搭載しているので、その分ノーズは軽い。回頭性はすこぶる良く、思った通りに走ることができるので、どんどん車速が上がってしまうのだ。
6気筒のRZに乗り換えると、340ps/500Nmの出力は圧巻だ。試乗コースが狭い道幅のワインディングということもあり、パワーは持て余す。だが、回頭性の高さは6気筒モデルも同様で、めちゃくちゃ曲がる!めっちゃ曲がる!と顔がにやける。またリヤタイヤの少し前に腰掛けているフィールでステア操舵ができ、腰で乗っているフィーリングが味わえる。
RZは19インチサイズの通常のタイヤを装着しているが、タイヤ、サスペンションともに不満は微塵もない。ブレーキングしながら、しかもキツめのアンジュレーションがあっても姿勢が乱れることなくサスペンションがしっかり減衰し、そして操舵した方向へノーズが向いたまま駆け抜けて行くのだ。この安心感は素晴らしく、アクセルをどんどん踏み込んでしまい、取り憑かれたようにワインディングを楽しめるのだ。
トヨタが目指すハンドリングとは
こうしたフィーリングは、これまでのトヨタのどのモデルとも異なるもので、そうした意味でもBMWの影響は色濃く残っているという印象だ。トヨタにとって果たして狙い通りなのか?トヨタ基準のハンドリングとは何だ?という疑問がないわけではない。
ハンドルの重さはBMW Z4と比較すると軽い。Z4ではM40iグレードしか試乗できていないので、単純比較は難しいが、ステアリング自体の太さもBMWのほうが太めで、その違いはある。また、試乗したRZ、SZ-Rともにアダプティブバリアブル・サスペンションとアクティブ・デフを装備しており、状況に応じて各車輪が最適制御されている。BMW Z4の4気筒だとこのあたりの装備はオプション設定になるので、お得感がスープラにはある。
動作イメージはブレーキングしながらコーナーへ進入するときに、わずかにデフ効果が働き、そこからの操舵ではLSD効果を弱めて回頭性を上げて行く。脱出のときには最大のトラクションがかかるようにアクティブに0−100%の間で無段階に制御されている。
またVSCにはONとOFFの間に「トラクション」を設け、若干効きを弱めてドライバーのコントロール領域を拡大するモードが設定できる。しかしながら、今回の試乗ではそうした違いや制御の介入などを感じられる場面はなく、6気筒、4気筒ともに「めっちゃ曲がる」という印象と、4気筒の軽快感、比較したときの乗り心地の良さなどから4気筒のSZ-Rがベストバイという印象になった。
実際、開発エンジニアの中でも4気筒を購入した人もいるそうだ。ちなみに、豊田章男社長は6気筒をオーダーしているというが、噂では「4気筒もありだったなぁ」と言ったとか言わないとか。
開発秘話
5代目となる新型スープラはなんと17年ぶりの復活であり、もはや先代の80型スープラを知るユーザーはベテランの域にいる人達だ。30歳代ではオンタイムで知ることができなかったモデルでもあるわけで、そうしたユーザーには6気筒へのこだわりは薄いだろうから、うまいラインアップにしたとも言える。
新型スープラの開発の狙いは「数値を追い求めるのではなく、いかに乗り手が車両と一体となって運転する楽しさを感じられるかを重視して開発」であり、グレードを問わずそれは実現できている。開発責任者の多田哲也氏によれば、初期の開発段階はBMWの2シリーズをベースに試作車を造ったそうで、2014年に1号車の「フルランナー」と呼ぶ試作車から開発がスタートしている。
また、開発のフィールドはテストコースだけでなく、欧州の一般道を重視し8割以上が一般道を走行して開発をしているという。また、ベンチマークとしたモデルはポルシェケイマン、ボクスターとしたことからショートホイールベース、ワイドトレッドにたどり着いたとも説明している。
そして基本的なハード部品はBMW Z4と共通で、ジオメトリーも含めZ4と共通だという。制御の部分でトヨタのこだわりを貫いたポイントはあり、電動パワーステアリングの制御やアクディブのファレンシャル締結制御をトヨタで行なっているという。
新型5代目スープラは回頭性が高く、アペックスを過ぎればクルマはまっすぐに走ろうとする。そしてどこからでもアクセルが踏み込める素直さが魅力だ。さらに、短いホイールベースにも関わらず直進の安定感が高く、高速走行がゆったりできることも魅力のひとつだと感じる。スポーツカー故に、アグレッシブなモデルと思われるかもしれないが、穏やかな性格も持ち合わせているところも魅力あるモデルと言えるだろう。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
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