体感で理解できるスマホナビ
Asiraseが2024年10月1日より販売を開始した『あしらせ2』は、視覚障碍者向けに開発された世界初の靴装着型振動ナビゲーションデバイスの第2弾だ。
製品は、iOS対応の専用アプリケーションと靴装着型デバイスで構成され、靴の内部に装着したデバイスを振動させて道案内を行うという体感型ナビゲーションシステムとなっている。
一言でいえば、音声ではなく体感で理解できるスマホナビなのだが、高度なユーザー位置・方位推定を実現するために、スマートフォン標準のセンサーデータに加え、デバイス搭載の磁気センサー、3次元の慣性運動を検出するIMU(Internal Measurement Unit)、衛星衛星測位システムのGNSS(Global Navigation Satellite System)の3つのセンサーデータを組み合わせたことも特徴のひとつ。
さらに自動運転の自車位置推定技術を応用した『あしらせ』独自の『ユーザー歩行位置推定技術』により、位置情報のずれの改善を図っているという。
本体価格は、54,000円(非課税)となり、別途、月額のアプリ利用料金が必要となるが、月額550円~とお手頃だ。
クラファンで目標金額の759%を達成! ただ、課題もあり
利用者のひとりであるパリ・パラリンピック柔道女子48kg級全盲クラスの銀メダリストである半谷静香選手は、その利便性として、常に情報を足から得られることの安心感の大きさを強調する。
これまでも移動には、ナビアプリを活用していたが、杖と荷物で両手がふさがった状態ではスマホ操作がしにくいこと、さらに雨などの天候が悪いときは音声による案内が聞き取りにくいたえめ、煩わしさを感じていたとのこと。また、コンビニやトイレを探す際も、直ぐに見つけられないなどの苦労もあったという。
そのような不便さから外出を避ける視覚障碍者は多いとする。自身も、あしらせの利用するようになったことで、移動中の不安や疲れが減ったことが結果的に、柔道の練習への集中力を高めてくれ、「メダル獲得への一歩にもなった」と嬉しそうに語った。
その誕生のきっかけは、同社の代表取締役である千野歩氏の悲しい経験があった。
千野氏の視覚障碍者であった身内が、単独で歩行中に川に転落し、亡くなったという悲惨な事故が起き、その報告に衝撃を覚えたという。千野氏は、「単独で歩行していた人が外的要因もなく、死亡事故が起きることがあるという現実に衝撃を覚えた。その際に、人が歩くという行為も、モビリティ的な側面があるのではないかと思い、技術で解決できないかと考えたことが原点」と語った。
そこから仲間を集い、ホンダで働きながら、開発をスタートさせたという。
そして、2021年に、ホンダの『IGNITION』を活用して起業。2023年3月に先行販売として第一弾となる『あしらせ』をクラウドファンディングで、150名に販売した。これが目標金額の759%にもなり、製品の期待の大きさを実感。
しかし、当初の利用者満足度は、20~30%に過ぎず、焦りを感じたこともあったそう。
そこで利用者と綿密なコミュニケーションを図り、30回以上のソフトアップデートを行い、満足度を70%以上に高めることができた。その製品の可能性が評価され、23年初頭に米国で開催された世界最大の家電見本市『CES2023』では、CESイノベーションアワードも受賞している。そのアップデート版が『あしらせ2』なのだ。
実際に装着してみると……
実際に、筆者自身の靴にも装着してみたが、靴の履き心地にも影響はなく、重さも気にならない程度に仕上げられていた。
道案内の際のデバイス動作も体験してみたが、右折時は、右足が、左折時は左足がそれぞれ振動する。次の曲がり角の距離と右左折の方向は、振動の部位とテンポで教えてくれる。全て足を通じた体感で進行方向や目的地到着を理解することが出来るのだ。
このため、視覚障碍者は、進行方向を心配することなく、白杖や聴覚による周囲の状況判断に集中できるので、疲労軽減に繋がるというわけだ。
『IGNITION』プログラム統括である本田技研工業の中原大輔氏は、その取り組みの原点として、ホンダが技術は人のためという想いの下、数々の社会課題の解決に取り組んできた歴史にあるとする。
同社にとって優秀な社員の離職に繋がるのではとの問いに、「高い目標に挑む社員が、ホンダ社内で実現できないと判断すれば、やはり離職するだろう。それをホンダがサポートすることで、繋がりの輪を広げていく事の方が、結果的に両者にとってメリットがある」と説明する。
実際に、千野氏からも起業の相談を受け、サポートできるように、IGNITIONの企業プログラムの設立まで待たせたという。現在までに、1人乗り電動マイクロモビリィ『Striemo』を手掛ける『ストリーモ』の企業や社内ベンチャーの新規事業となった自転車を電動アシスト化及びコネクテッド化するサービス『SmaChari』が実現している。さらに、昨秋より社外公募も開始され、新たな取り組みも始まっているという。
体感型ナビゲーションシステムの『あしらせ』は、視覚障碍者にとって救世主となる存在だと感じる一方で、子供連れの親御や不慣れな土地への旅行者など、スマートフォンを手にして移動が難しい状況下での活用にも大きな可能性がありそうだ。
ホンダの枠を捕らわれないことで、新たな製品への誕生に繋げることを狙うユニークな取り組みも、また自由な発想で、人の役に立つ製品を送り出した本田宗一郎イズムに溢れていると感じた。
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