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バスファンでなくても乗ってみたい!? 進化したバスツアーに参加!【その4】~奈良・京都にまたがる廃線跡を巡る旅(奈良交通側)~

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バスファンでなくても乗ってみたい!? 進化したバスツアーに参加!【その4】~奈良・京都にまたがる廃線跡を巡る旅(奈良交通側)~

バスに乗る旅と言えばどのような旅を思い浮かべるでしょうか。
はとバスの旅のような、観光地を巡ったりするバスツアーをまず思い浮かべるのではないでしょうか。余談ですが私は、果物狩り全般、いわゆる“狩りもの”の旅が好きです。この場合、バスはあくまでも旅の手段です。
一方、バスそのものが目的であるツアーもあります。それには、バス好きの個人が好きなバスを事業者から借りて貸し切りツアーを主催するバスファンによるバスファンのためのツアーとバス会社が主催するオフィシャルなツアーの2種類があります。
従前は個人貸し切りツアーもバス会社のそれもさほど違いはありませんでしたが、2022年前半のバス会社主催の方に参加してみてちょっとした変化を感じました。
これならもしかしたらバスファンではない人が参加しても楽しめるのでは? と思ったのでシリーズで紹介しようと思います。

「ただバスに乗るだけならバスファン個人貸し切りツアーには勝てないので、事業者が主催するアドバンテージを活かした『ならでは』な企画で差別化したい」
とは、ツアーの仕掛け人である京阪京都交通運輸部運輸課の西村さんの弁。

バスファンでなくても乗ってみたい!? 進化したバスツアーに参加!【その3】~「京都・大阪にまたがる廃線跡を巡る旅」高槻市交通部×京阪京都交通~

【画像99枚】奈良交通日野HU-522車で行く「懐かしの八木―京都線を訪ねて」のフォトギャラリーはコチラ
2022年前半に行われたツアーにはこれまでにない特長が2つありました。それは次の二点です。
(1) 添乗しているその道の研究者や専門家から、路線や沿線の歴史を時代背景と共に学ぶ
(2) 他のバス会社とのコラボで二社のバスに乗る(今回は一社2タイプのバスの予定でしたが、人数不足で1台になってしまいました)
どんなツアーだったのでしょうか。私が参加したツアーを5回に分けて紹介します。

第4回は4月30日(土)と5月1日(日)に行われた、“日野HU-522車で行く『懐かしの八木―京都線を訪ねて』”です。奈良と京都をかつて結んでいた奈良交通バス路線の歴史を辿る、越境路線シリーズの番外編たる(京阪京都交通目線での)第4弾。
シリーズ(5)で紹介するツアーの約一ヶ月前に、同じコースを当時のライバル社の主催で逆に走るという珍しいことが起こりました。偶然としてもおもしろいことです。
同じコースを辿っても聞く話や道中でのイベントはちょっとずつ違うはずなので、しっかり覚えておいて京阪京都交通の方と比べてみようと思いながら楽しみました。

ツアーは、昭和45年(1970年)11月以降に短縮された大和八木駅~京都駅間を辿るもので、大和八木駅→奈良交通奈良営業所通過(車窓から場内を見学)→JR奈良駅西口→近鉄奈良駅→奈良交通京都営業所→向島ニュータウン→京都駅八条口→京都駅八条口~京都駅烏丸口を左回りに走行しフォトラン→近鉄奈良駅→JR奈良駅→大和八木駅のコースでした。
バスには、奈良交通バスファンの間では有名な“ユンケル上條”こと上條正幸氏が同乗。歴史談義に加えて豊富な体験談をふんだんに聞かせてもらいました。

“ユンケル上條”さんから聞く路線の歴史と秘話

奈良交通が奈良―京都線の運行を開始したのは昭和40年(1965年)8月25日。同路線に参入した三社(他二社は近鉄バスと京阪バス)の中で最も遅い運行開始でした。
廃止されたのは平成8年(1996年)10月5日でなので31年続いたことになります。
車内では昭和52年(1977年)9月25日改正の八木駅バス発車時刻表を片手に上條さんが語る歴史物語を聞きました。昭和47年(1972年)から約4年間八木―京都線の乗務もしていたそうなので沿線のことについてもかなり詳細に記憶していて、ほんとうにいろいろな細かい話を聞けました。その一部をちらりご紹介いたします。

 昭和38年(1963年)の市内循環一区間の運賃は7円
 同じころの吉野山路線の一区間は10円
 昭和40年(1965年)4月5日に五条―奈良特急がワンマンカー化された
 同年8月25日五条―奈良線を京都駅まで延伸(筆者注:シリーズ(5)で紹介している京阪京都交通の資料では昭和41年となっているが聞いたままを紹介。現在は“五條”だが当時は“五条”)
 昭和45年(1970年)11月16日に八木―京都線がワンマンカー化された
 当時は五条―京都駅が一日4便、大和八木―京都駅が1便だった
 好評だったため、5年後の12月28日に奈良側の出発点を二見停留所(和歌山県境付近)に延伸した
 昭和49年(1974年)1月1日は大和八木駅10:14に定刻に出発したものの、大渋滞のため伏見稲荷には2時間遅れ、戻りも京都市内と春日大社付近の渋滞のため帰着が18:30になってしまった
 当時の国道24号線は奈良―京都間の学生の移動も多かったし、京都から奈良への観光バスもたくさん走っていた

特におもしろかったのはこのお話でした。
「この交差点の赤信号で停まってる時に、宇治淀の方から来る京阪バスに先行かれるとね~観月橋までは追い越されへんから、お客さんを全部取られてこっちのバスには誰も乗ってこないんですよ。そんなことが続くと、京都まで行ってるのにお客さんがいないじゃカッコつかへんからね、一つ前の久津川停留所をちょっと、1分ほど早めに出るんです。今では怒られるけどいわゆる早発ってやつですね。そうして交差点通過するときにチラッと左を見た時に京阪バスが停まってるのが見えたらガッツポーズです。その日は大久保停留所からのお客さんみないただきで笑いが止まりませんでした」
(筆者注:このエピソードでの京阪バスとは、奈良発ではなく、久御山発[4]京都駅行きのことだと思われます。また交差点とは、現在の府道69号線の大久保交差点です。運転者経験者ならではの、ライバルとの乗客争奪戦が熱かったころのエピソードとして紹介しましたが、早発は法律で禁止されています(“早発の禁止”という条項があります)。
昭和47年ころのことでもあるので、このエピソードをつまんで苦情を入れないでくださいね!)
路線バスに乗っていると、乗客の乗降があってもなくても「時間調整のためにしばらく停車いたします」とアナウンスされることがありますが、それはこの法律遵守のためです。
モータリゼーションの進展で道路状況が悪化してきたころの気持ちが漏れることもありました。
「渋滞渋滞で定時運行できず申しわけないといつも思ってました」
定時運行が難しくなり、もどかしさを感じながら乗務していたんだろうなと思います。

(注:奈良交通の社内用語は“運転者”なので奈良交通にまつわることを記述する際には運転者に統一)

京都営業所では所属車との並び撮影会

仕業の合間にたまたま営業所にいたプレミアム観光バス“四神”シリーズの京都営業所所属の“白虎”や路線車と並び記念撮影会が行われました。例によって“方向幕回し”をしながらの撮影です。
京都営業所管内には同志社大学や同志社国際高校があるので、同志社関係の幕を重点的に撮影しました。
翌5月1日のツアーでは同志社大学・同志社女子大学今出川と京田辺キャンパス間シャトルバス用の日野・セレガとの並びなどが撮影できました。
余談ですが、どのバス会社でもこのような学校輸送は重要な収入源になっています。京阪京都交通も沿線に学校が多いため学校関係の輸送業務(特定輸送という)は多いそうです。

ちなみに同じ観光型車両でもこの同志社シャトルのような特定輸送に使われる車両とはとても小さいですが大きな違いがあります。間違い探し的視点で見つけてみて下さい。ヒント代わりに別の日に撮影した写真も付けておきます。




ところで、撮影のためにと、この車両が所属する葛城営業所所属であり両日の運転も担当した福西運転者が“[91]京都駅”と“[91]大和八木駅”のこの日限りの再現方向幕をがんばって作ってくれたのですが、単色LEDの限界を攻めたなかなかの仕上がりでした。藤本哲男氏からお借りした当時の写真と比べてみると再現性の高さがわかると思います。
LED幕は味気ないですが、こういう場合に再現幕が作りやすいのでその点はいいですね。

向島ニュータウンに昭和そして豊臣秀吉に思いを馳せる

向島(むかいじま)ニュータウンは昭和47年(1972年)に造成が始まり、昭和53年(1978年)から入居が始まりました。昭和54年(1979年)には近鉄京都線に「向島駅」が開業しました。
最盛期には2万人が居住していましたが、バブル崩壊と少子高齢化、独居世帯も増え、いっぱいいた外国人も減り・・・と、今は1万2000人に減っているそうです。
向島と言えば、この付近には向島城がありました。
元々は、伏見桃山城を居城としていた豊臣秀吉が支城として築いた城で、巨椋池(おぐらいけ)に浮かぶ水城でした。月見用の城として築いた城だそうです。
そう、この辺りは昔は湖クラスの大きな池でした。豊臣秀吉の時代に治水事業が始まり、昭和8年(1933年)から昭和16年(1941年)にかけて行われた干拓事業の完成で農地化されました。国の食糧増産事業として国営第1号の干拓事業だったそうです。
近鉄京都線の小倉から向島までのストレートがこの線のハイライトです。最高速が出る区間ですし、西に干拓事業によって生まれた水田が広がるいい景色が見られるから。田植え、青々とした稲、頭を垂れる稲穂、そして刈り取りと四季折々の雄大な景色が見られます。全開ストレートの後は宇治川に架かる澱川橋梁(ちなみに日本最長164.6mの単純トラス橋)の手前で急にスピードが落ちるので、私は勝手に“ユノディエール”と呼んでいます。京都線で最も好きな区間です。
一方、並行するJR奈良線はこの辺りで大きく東に迂回していますが、それは開通時に池だったこの場所を避けるためでした。
“向島”、“中書島”、“観月橋”とこのあたりにはそんな史実を今に伝える地名が残っています。
歴史を紐解いてみるといろいろとおもしろそうなので、興味がある方は調べてみてください。そして電車とバスを乗り継いで散策に来て下さい。(写真は5月1日撮影)

京都駅をぐるっとフォトラン

京都駅八条口から京都駅烏丸口を左回りに周回フォトラン(走行するバスを思い思いの場所で撮影する)しました。
世代は違えど奈良交通の前後扉車が京都駅周辺を走行する姿を見るのは感慨深いものがあります。二度と見られない光景のような気がしてさびしい思いでいっぱいです。

ツアーに使用されたのはこの車両

日野ブルーリボン(平成8年(1996年)2月5日登録・KC-HU2MPCA)
地元では智辯学園輸送にも活躍しています。
奈良交通では最後の前後扉車になってしまいました。やはり葛城営業所所属だったいすゞ・キュービックLV前後扉車の最後の一台が3月に廃車されてしまったので本当にこれが最後の一台。貴重なので残してくれると良いのですが・・・




ところで上條正幸さんとはこんな人

昭和19年(1944年)生まれで……、えっ78歳??? そんな年齢とは思えないほどパワフルに活動されています。
(一財)奈良県交通安全協会桜井地区協会常任理事も務めていることもあり、バスのイベントにとどまらず多方面に及びます。
そんな上條さんは、「日本一の車掌になるんや!」との思いを胸に昭和38年(1963年)奈良交通に入社、車掌、運転者、各営業所の助役と所長を歴任し、定年後も2年前まで嘱託として勤務、統括指導員など後進の指導や同業他社への出張研修など多方面に活躍していました。
豊富な経験に裏付けられた話は、車両、路線、ある日の乗客、奈良交通と社会の歴史の変遷等々大きな話から小さな話まで多岐にわたりとても楽しめました。
この大和八木―京都線の乗務経験もあるため、全盛期から末期までの話もたっぷり聞けました。
「平成10年12月1日にユニーク車掌お笑い演芸同好会を立ち上げました。笑うことには自信があるので、奈良県39市町村のみなさんに恩返しのために笑いを届ける活動をしています。東京や大阪にも遠征しています」
「ボンネットバス(奈良交通に一台)、三扉車(同・4台)、前後扉車(同・一台)のイベントもっとやりたいし会社首脳陣にもその価値を訴え続けて動態保存にまでもっていきたい。ちょうど来年は創立100周年にあたるのでもしかしたら……」
とのことでした。

貴重な資料とおみやげ

乗車の際に配られたツーマン時代の車内乗車券、昭和52年(1977年)9月25日改正の八木駅バス発車時刻表、フォトランの行程図、奈良交通の交通安全祈願キーホルダー、そして上條さんには欠かせない相撲甚句/まくら唄の歌詞カード。
相撲甚句とは、江戸時代に流行歌として定着した七五調の囃子唄で、手拍子に「ドスコイ」、「ホイ」などの合いの手が特徴です。大相撲の巡業などで披露され、化粧まわしをした力士が土俵上で独特な節回しと歌詞が相撲ファンや一般の人に人気を博しています。
最後に車内でこれを唄うのが上條さんがガイドを務めるツアーの定番のイベントです。
かなり昭和の香り漂う時間ですが、バスの時代雰囲気にも合っているし、現役時代を知らない世代にはかえって新鮮かもしれません。
資料は少なめですが、あふれ出る思い出話、何を言っても訊いても拾う引き出しの多さには脱帽です。

バス運転者という仕事

原稿執筆に当たって事実関係の確認のために電話インタビューしたので、気になっていたことをついでに訊いてみました。それは、
「奈良交通ではいったい何歳まで運転者として働けるのか?」
です。
上條さんの年齢もそうですが、ボンネットバスを守る会のツアーでも「アニさん」と呼ばれる運転者(60代後半)に何度もお世話になっていますし、市内循環に乗った時に出会ったこともあります。
「72歳までは働ける」
とのことでした。もちろん定年はあるので60歳以降は嘱託や契約社員になるのですが、それでもこれは驚きです。
奈良交通の路線バスや貸切バス以外にもコミュニティバスや送迎運行や運転の受託事業も行っているので活躍の場は広く、現在120人ほどの在籍者があるそうです。半分弱が奈良交通のOBで、それ以外も警察OBや長い運転経験をもつ精鋭だとのこと。
そんなドライバーのバスに当たると運転テクニックのスムーズさに驚きますので、一度体験してみて下さい。
実は以前、大型バスの自由練習をしているときに、
「今はバス運転者になりたい人がどんどん減ってるんやけど、その気になったら長く働けるええ職場なんやけどな~」
と、横の教官がボソッと漏らしたことがあるのですが、それはこういうことだったのかと納得しました。

同じツアーが2回あったので、4月30日は乗車参加し、翌5月1日は走行シーンを撮るために追いかけ取材をしました。路線があった当時とは景色がだいぶ違っていますが、こんな場所を走っていたのだなと往時を想像しながらお楽しみいただければと思います。

今回の気づきまとめ

1.バスツアーがきっかけで知る歴史は、歴史を学ぶ入り口としてもいい
ただ歴史を聞くだけではきっとここまで興味をもつことはないだろうなとこのシリーズに参加して思います。
今回も、豊臣秀吉は王道として、巨椋池、向島城、奈良ドリームランド、二見(和歌山県との県境の奈良県側の果て)など、もうちょっと掘ってみたいな、再訪してみようかなと思う歴史的場所を知りました。

2.管理職は全責任を負わなければいい職場にはならない
上條さんの助役時代以降現在までの取り組みや哲学について聞いたときに思ったことです。
しっかり躾け、教え指導し、万全の状態で送り出す。部下が万が一何かやらかした場合は上司である自分が全責任を負うべきだ、と。部下の不始末で書いた始末書が何枚あるかわからないとのことでした。これも平成、令和になって聞こえなくなってきた言葉ですね。

(取材・写真・文:大田中秀一)

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