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ベントレーの「精度」はかくして作られる。ミクロン単位で計測を行なう26人の志

掲載 更新 12
ベントレーの「精度」はかくして作られる。ミクロン単位で計測を行なう26人の志

クルーの一角で“目”を光らせる26名の士

ベントレーが生まれる地、英国クルー。その工場の奥深くにビジターが足を踏み入れることが許されない一角がある。風通しがよく完璧に空調が整備された作業場に所狭しと並ぶのは、宇宙航空関連の施設や大学のラボに見られるような精密機器。ベントレーの計測部門である。

ベントレーの「精度」はかくして作られる。ミクロン単位で計測を行なう26人の志

ここで働くのは、計測担当責任者マイケル・ストックデールをはじめとする計26人のスタッフ。ワッシャーひとつからボディパネル、インテリアのトリムまでありとあらゆる部品を厳しく定められた公差に収めるべく、ミクロン単位で計測を行っている。

ストックデールは説明する。

「我々の施設には、レザーの皺からシリンダーボアの表面まで、あらゆる部分をマイクロメートル単位で計測できるツールがあります」

寸分たがわぬフライングBの“立ち位置”

公差とは図面の寸法に対して許される誤差の範囲を指すもので、「許し代(ゆるししろ)」とも言われる。工業製品の量産にあたって必要不可欠な概念だ。

たとえばフライングスパーのボンネットに鎮座するフライングBマスコットは電動格納式だが、スムーズに展開・収納するためには決められた通りのサイズ・形状で台座中央へ確実に設置されている必要がある。このため、フライングBシステム各部品の公差はわずか0.15mmに設定されているという。

赤血球より小さな寸法も計測

ベントレーの計測部門には0.5マイクロメートルまで測ることのできる機器がある。ちなみに人間の髪の毛は一本17~150マイクロメートル(1マイクロメートル=0.001ミリメートル)ほどの太さであり、人間の赤血球の直径が5マイクロメートルといわれている。赤血球ひとつよりも小さな公差。そこまでの精度を求める箇所がベントレーにはあるという。たとえば6.0リッターW12エンジンのクランクシャフトだ。

クランクシャフトを支えるのは機械加工された12個のジャーナルベアリングだが、それぞれの表面には微細な溝が刻まれており、顕微鏡レベルの薄さでオイル膜を保持している。計測チームは高精度のパーソメータ(表面粗さを測定する装置)を使い、このごくわずかな溝が規定公差内に収まっているかどうかを確認する。この徹底したチェックこそが、正しいパフォーマンスの発揮、及び耐久性に繋がっている。

アルミ削り出しのフライングスパー

顕微鏡レベルでの個別部品の表面や寸法チェックに留まらず、車両全体の計測も行われる。その際使われるのが「キュービング」と呼ばれる基準車両だ。無垢のアルミニウム材から削り出された模型であり、車両全体のパネルや内装のコンポーネントを計測する際のひな形として使用する。

フライングスパーのキュービングは、高精度のデジタルカメラを使用してボディを1mm単位でスキャン。車両の完璧に正確な「地図」として作られた理想的なフライングスパーであり、他の量産モデルの計測基準となる。

ストックデールは語る。

「たとえば試作の段階でグリルとボンネットのパネル間に1mm余計な隙間が発生したとします。その原因がグリル側にあるのか、ボンネット側にあるのかを教えてくれるのがキュービングです。CADデータの正確な寸法に合わせて作られているため、正確な答えがそこにあるわけです」

柔らかな素材を正確に計測する方法

また、金属とレザーなど、素材が変われば計測技術も異なってくる。たとえばフライングスパーのキャビンに採用された3次元ダイヤモンド・キルト・レザー・インサートはソフトな素材ゆえ、表面に触れてしまうと正確な読み取りができない。そこで、ダイヤモンドパターンのひとつひとつの正確な輪郭をチェックするためには光学レーザースキャナーを使用する。

一体型のルーフライニングの皺ひとつ、歪みひとつないフィット感をはじめ、ウッドパネルやレザー、繊維など様々な素材が緻密に調和した空間はそれぞれの厳しい公差の徹底により生み出されているのだ。

花崗岩という重量級の“治具”

自動車の部品に使用する材料は、種類につき差こそあれ大概は温まれば膨張し、冷えると収縮する。ゆえに、計測は一定の基準温度下で行う必要がある。ストックデールらが働く計測エリア内は、厳密な空調管理により摂氏20度の気温が保たれている。

さらに、最高レベルの精度が求められる部品のために、高精度計測エリアと呼ばれる“聖域”が設けられている。専用の空調設備により温度が摂氏0.5度以上変動することがないように徹底管理したうえ、3つの巨大な花崗岩ブロックを配置。ここに部品を固定することで確かな安定性を確保している。

計測する前に対象部品を“常温”にしておく必要もある。ストックデール曰く「エンジンブロックのような大きな構成部品は、中心部分まで摂氏20度になっていなければなりません。そのため、1週間は一定の温度下にさらしておく必要があるのです」

ベントレーの精度を守るヒーローたち

ひとつひとつの部品は計測され、仮組みされ、また計測、さらに完成車としてもう一度計測と、幾度もの確認作業が繰り返される。そうして初めてベントレーはベントレーたる品質を得ることができる。

クルー内で計測チームの働く姿を目にすることができる外部の人間はいない。しかし、すべての車両は彼らの“目”を経て理想的な精度を約束されて初めて工場から出荷される。ベントレーは彼らをこう評する。「寸法の完全性を追求し続けるための隠れたヒーローであり、管理者である」と。

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みんなのコメント

12件
  • 話は違うがベントレーの塗装とセンチュリーの塗装見たとき値段じゃねぇなあと思った。特に蛍光灯を当てて線を見た時のレベルはセンチュリーに分がある ミクロを見てるメーカーは日本にもある
  • これだけの価格なんだもの、それくらいはして当たり前だろう。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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