フェラーリ「GTC4ルッソ」をピックアップすべく、前日預かったカギを手に地下駐車場に到着すると、フェラーリばかり4台ほども並んでいる。フェラーリ・ジャパンの駐車場だから当たり前だ。GTC4ルッソはその4台の端っこで、ルッソの助手席側はスペースが空いているけれど、運転席側には「488GTB」だったか「ポルトフィーノ」だったか、いや、「812スーパーファスト」だったかもしれない、ともかくマラネロのサラブレッドたちが眠っていた。そのとき私の頭のなかをいっぱいに占めていたのは、ルッソにいかにして乗り込むか、ということだった。運転席側からだって乗れるかもしれないけれど、狭いニッポンの駐車場、そんなに急いでドアをぶつけたらどこへゆくこともできない。
【主要諸元】全長×全幅×全高:4922mm×1980mm×1383mm、ホイールベース:2990mm、車両重量:1920kg、乗車定員:4名、エンジン:6262ccV型12気筒DOHC(690ps/8000rpm、697Nm/5750rpm)、トランスミッション:7DCt、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:フロント245/35ZR20、リア295/35ZR20、価格:3470万円(OP含まず)。最近のフェラーリは、アスリートのみなさんが大型化しているのを映し出しているみたいにどれもでかいけれど、GTC4ルッソはとりわけでかい。全長4922mm、全幅1980mmという巨体で、ホイールベースは2990mmと、ほとんど3mある。なのに、乗降用のドアは2枚しかない。
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たぶんほかのひともそうすると思うけれど、私は隣のスペースが空いている助手席側のドアをガバッと開けて乗り込むことにした。フェラーリを買うときには広い駐車場を用意しよう。そう思う私だった。ま、とくにその予定はないけれど。
連載:29歳、フェラーリを買う Vol.25 運命の車検<後編:整備ミス複数発覚!>
ボディは全長×全幅×全高:4922mm×1980mm×1383mm。GTC4ルッソはV型12気筒エンジンを搭載するが、ほかにV型8気筒ターボエンジンを搭載する「GTC4ルッソT」も選べる。「グリジオ・シルバーストン」という、フェラーリとしては控えめなシルバーのドアを開けると、鮮やかな明るいブラウンのルッソ(イタリア語で「贅沢」)な世界が広がっていて、私がイタリア人だったら、“ワオッ”と、小さく叫んだに違いない。
シート形状はSF映画の宇宙船だとかエヴァンゲリヲンのデザインだとかを思わせるのはどうかと一瞬思ったけれど、自分が着座してしまうと見えなくなったので、そう思ったのも忘れてしまった。考えてみれば、鉄腕アトムの誕生が2003年、『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』の舞台が2015年とすでに過去である。『ブレードランナー』と『AKIRA』がおなじ2019年、つまり今年で、ようするに現在は未来なのである。でもって、もうすぐ民間による団体宇宙旅行も始まろうというのだ。
シートはヘッドレスト一体型のスポーツタイプ(電動調整式)。フェラーリ、というかピニンファリーナはこういうSFチックなデザインのシートを1970年代のBB(ベルリネッタ・ボクサー)あたりから提案している。ようやく時代が追いついた、というべきなのかもしれない。
カーナビゲーションやオートエアコン、プレミアム・サウンド・システムなどあらゆる快適装備を備える。インフォテインメントシステムはApple CarPlayにも対応する。コクピットのデザインは先代にあたる「FF」から、エアバッグが小型化されたステアリングホイールやエアコン、10.25インチのタッチスクリーンも一新されている。されているけれど、操作類はこれまでと変わらず、直感で動かせる。
エアバッグが小型化されたステアリング。全高は1383mmと、たとえば、メルセデス・ベンツEクラスより70mmほども低い。4シーターとはいえ、ルッソはフェラーリである。運転席に座って前のみを見ていると、4座であるのを忘れる。後ろを振り向くと、鮮やかなブラウンのSFチックなシートがふたり分、そこにあってハッとする。オーナーになったら、その席にだれかを座らせることもあるだろう。家族にせよ友人にせよ、ルッソの乗員たちにとって、限りなくドルチェ・ヴィータなひとときになるに違いない。
リアシートは独立タイプ。専用エアコン吹き出し口や小物入れ、アームレストなどが備わる。リアシートのバックレストは可倒式。すべて倒すと、ラゲッジルーム容量は450リッターから800リッターに拡大する。ラゲッジフロア下にはパンク補修キットや工具などがある。ステアリングに設けられた真っ赤な丸いボタンを押してマラネロ謹製V型12気筒エンジンを目覚めさせる。静かな土曜日の朝。地下駐車場にはひとっこひとりいない。爆音を轟かせると、V12は静かにアイドリングを始める。そろり、とアクセルを踏み込み、地下駐車場を走り始める。巨大な地下駐車場がものすごく狭く感じる。12気筒をフロント・アクスルよりも内側におさめたGTC4ルッソは、いわば檻のなかの猛獣、ライオンとかトラとかオオカミなのである。それはたいへんストレスフルなのである。もっと広い、野原みたいなところを思いっきり全開で走りたい!
搭載するエンジンは6262ccV型12気筒DOHC(690ps/8000rpm、697Nm/5750rpm)。トランスミッションはデュアル・クラッチ・タイプの7AT。手動変速の場合、ステアリングに備わるパドルシフトで操作する。屋外へ出ると、青空が広がっている。首都高速・池尻まで一般道を走る。6262ccの65度V12は静かにハミングしている。690psの最高出力を8000rpm(!)で、697Nmの最大トルクを6000rpmで生み出す、極上の自然吸気エンジンである。
一般道ではしかし、本番に備えて楽屋で寛いでいるオペラ歌手のごとく、であるに過ぎない。最大トルクの80%は1750rpmで紡ぎ出す。50km/hは7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)の6速で1000rpm程度である。室内にはムウウウウウウウウウウウウウッという男声合唱団の重奏低音が控えめに流れている感じで、そこからアクセラレーターを軽く踏み込むと、音が澄んでくる。次のドラマへの期待が高まる。しかれども、軽く踏み込むだけですぐに前走車に追いついてしまい、それ以上、右足に力を込めることはできない。
この段階でわかるのは、V12の高感度ぶりだ。まるで呼吸するように加速する。そのレスポンスときたら、右足とエンジンが完璧に一致している。シンクロ率100%である。
連載:29歳、フェラーリを買う Vol.25 運命の車検<後編:整備ミス複数発覚!>
最高速度は335km/hを誇る。タイヤサイズはフロントが245/35ZR20、リアが295/35ZR20。乗り心地はすばらしい。フェラーリはデルファイが開発した「マグネライド (MagneRide)」なる電子制御サスペンションを「599」あたりから採用していて、これの独自改良版である「マグナライド(Magnaride) SCM-E ダンパー・コントロール」がGTC4ルッソには与えられている。この電子制御サスペンションがいい仕事をしていて、ちょっぴりSUVっぽいようなゴツゴツ感があるといえばあるけれど、前245/35、後ろ295/35のZR20という超扁平極太巨大タイヤを履いているのをうっかり忘れさせる。SUVっぽいといっても、野蛮さとか西部劇っぽさとは、まったくもって無縁。ひとことでいえば、GTスポーツカーっぽいのである。エンジン、ギアボックス、サスペンションを統合制御する「マネッティーノ」でコンフォートを選んだ状態での話である。
走行モードの切り替えスウィッチ(ダイヤル式)はステアリングに備わる。車重はカタログ値で1920kgある。絶対的には重い。にもかかわらず、そういう重さを感じさせない。軽々しくはない範囲でのステアリングを含む各種操作系の軽さと、なによりマイティな12気筒が4座の4WDシューティング・ブレークという異形のプラシング・ホースを、名門一族の一員たらしめている。
進化したV12+4WSの相乗効果思う存分アクセルを開けられるワインディング・ロードにいたれば、GTC4ルッソは雷雲を呼んで大地を駆けまわる龍となる。大舵角が必要なコーナーだって、しなやか、かつスムーズに曲がる。曲がることを嫌がらない。ルッソのなかに抵抗勢力は存在しない。
静止状態から100km/hまでに要する時間は3.4秒。2011年に登場したFFから、その5年後の2016年に発表されたGTC4ルッソへの進化のひとつは、V12エンジンである。94×75.2 mmのボア×ストロークはそのままに、直噴のヘッドまわりに手を入れ、最高許容回転を8000から8250rpmへと上げている。最高出力は660psから690psへと30psアップ。絶対的な数値もすごいけれど、パワーとトルクが織りなす濃密さに陶然となる。エンジン音はストラディバリウスもかくやの、これぞ名器である。バイオリンとはもちろん音質が異なるけれど、それはさておき、ともかく5000を超えるとクオオオオオオオッとやや甲高い叫びをあげる。マラネロの神々がつくりたまひしV12の爆発音ほど、男子の、もしかして女子の感情をも揺さぶるものはない。感涙。
アナログの回転計をセンターに、左右に液晶画面を配したメーターパネル。助手席側のダッシュボードに埋め込まれている液晶画面は、エンジン回転数や速度を表示する。とりわけ、マネッティーノをスポーツ・モードに切り替えてのダウンシフトでのブリッピングときたら、爆発は芸術だ! 12本のシリンダーによる芸術には、単なる爆発の連続ではない、抑制された美とエレガンスがある。4シーターのV12は一方的に猛り狂ったりはしない。そこが2座GTと異なるところで、4座のGTC4ルッソはあくまで優雅にフェラーリ・サウンドを奏でるのである。
GTC4ルッソは車高調整機能を搭載する。バックカメラおよびクリアランスソナーを搭載。もうひとつ、FFからGTC4ルッソへの進化が、足まわりにくわえられた4WS(後輪操舵)である。4WSは、ヴィークル・ダイナミクスを向上させるべく、4WDの前後トルク配分にE-Diff、SCM-Eサスペンション・ダンピングを含めて統合制御する電子制御システム「4RM」に組み込まれ、「4RM-S」と新たに呼ばれる。
この複雑なシステムによって、GTC4ルッソは龍の如く大地を走る。ホイールベース3m近い巨体を違和感なく曲げることで。
静止状態から200km/hまでに要する時間は10.5秒。前後重量配分が47:53と、フロント・エンジンなのにリアの方が重たいのも貢献しているだろう。重量物のV12をフロント・アクスルの後ろのいわゆるフロント・ミドに搭載し、7速DCTをリア・アクスルの後ろに配置する。フロント・ヘビーに感じないのはフロント・ヘビーではないから、という単純な事実にもよるのだ、おそらく。
インパネ上部にあるエアコン吹き出し口は、電動開閉式。エアコンのオン・オフに応じ、自動で開閉する。GTC4ルッソの車両本体価格は3470万円。人生100年時代、金融庁の試算によれば、男性が65歳以上、女性が60 歳以上の夫婦で、年金がちゃんと出ても、毎月約5万円の赤字となり、男性が95歳まで生きるとすると、夫婦で2000万円が不足するという。
この金融庁の報告書は、結局、麻生太郎大臣が受け取らなかったので、なかったことになっているけれど、われわれ庶民も投資というものについて考えておくべきなのは自明である。
JBLのサウンド・システムも選べる。フェラーリほど投資効果の期待できる自動車はない。GTC4ルッソはおそらく、最後の自然吸気V12を搭載する4シーターになる。となれば、EVが本格化する頃、その人気は大いに高まる……かもしれない。筆者はなんの責任も持てませんが、日本国の国債より費用対効果が期待できる……かもしれない。
いや、投資効果を期待するのだったら、おなじフェラーリでも2座を選ぶべきだというご意見もあるでしょう。狙うは458“イタリア”である。けれど、GTC4ルッソはおとな4人が乗れて、荷物も積める。4WDだから、雨にも雪にも強い。モノよりコト消費のミレニアル世代のかたにオススメといえる。
問題は、庶民が3470万円のクルマをどうやって買うか。それは私も知りたい。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
【連載:29歳、フェラーリを買う】
Vol.25 運命の車検<後編:整備ミス複数発覚!>
Vol.24 運命の車検<中編:車検費用判明!>
Vol.23 運命の車検<前編:いざ、正規ディーラーへ!>
Vol.22 中古フェラーリが新車に戻る!? 人生初!ボディコーティングの必要性を考えた
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