イアン・カラムの理想のデザインを追求
text:Steve Cropley(スティーブ・クロップリー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
初代アストン マーティン・ヴァンキッシュのデザイナー、イアン・カラム。彼はヴァンキッシュの存在を誇りに思っている。ゼロから手掛けたデザインとして、彼のキャリアの初期に生まれたモデルでもある。
ヴァンキッシュは、現代的なブランドへとアストン マーティンを導いた。タイムレスなデザインは、20年以上を経た今でも美しく感じられる。
一方、デザイナーとして気に入らない部分も含まれていたらしい。ローテクなヘッドライトに、DB7譲りのフォグライト。控えめなホイール。大胆なホイールアーチより、だいぶ内側に収まるタイヤ。ノーズやテールの造形も、彼の意図より大人しい仕上がりだった。
特にカラムが落胆したのが、インテリア。デザインテーマは明確だったが、投入された職人技術は限定的。既存部品が、多く用いられていた。
その後カラムは、ジャガーのデザイン責任者に就任。20年ほどのキャリアを積んだ今、新たなデザイン・ビジネスをスタートさせた。最初のプロジェクトとなるのが、このカラム・ヴァンキッシュだ。
カラム・ヴァンキッシュは、英国ウォリックの新しいスタジオで生み出される。クルマ以外にも、高品質なビスポーク製品を手掛ける、スイスのRリフォージド・グループが力添えしている。
インテリアやトリム・オプション、シャシーやエンジンのアップデート内容は、技術面でのトップを務める、イアン・カラムとアダム・ドンフランチェスコによって決められた。すでにカラム・ヴァンキッシュの生産は始まっている。
エンジンもボディも、すべてをモダナイズ
英国編集部は、ウォリックの本社へ招かれた。ソーシャル・ディスタンスを保ったミーティングを終えると、クルマを披露してくれ、試乗の機会を与えてくれた。
「全体で350か所の変更を加えています。通常のスーパーカーにはない水準での、クラフトマンシップも投入されています」。と話すカラム。
「細部に至るまで、アイデアを落とし込んでいます。オリジナルと同じ部分は、ボディのパネルワークのみ。わたしたちの考えは、お客様それぞれのショーカーを生み出すことです」
ヴァンキッシュに近づいてみる。その品質の高さに、見入ってしまう。
深みのあるボディの光沢。ブラック・クロームのウインドウ・トリムも美しい。大径のホイールが、フェンダーに絶妙なスタンスで収まる。すべてが、モダナイズしてある。
カラムが説明する。「初代ヴァンキッシュを手掛けてから、20才も歳を取りました。その間の変化は大きい。ライフスタイルもファッションも異なります。クルマを再び考える機会を得たとき、何をするべきか、すぐに見極めることができました」
アストン マーティン製の5.9L V型12気筒エンジンにも、軽い手直しが施された。最高出力は60ps増しの、588psへ引き上げられている。吸気系統は、美しい特別仕様だ。
トランスミッションは、6速MTか8速ATが選べる。あるいは、純正の6速セミATのままでも構わない。当時の評判は良くなかったが、一部のドライバーはそれを好むらしい。
ベース車両抜きで6300万円
3万2000kmのテスト走行を経て、サスペンションもチューニングされている。スプリングやアンチロールバーは新設計で、ダンパーはビルシュタイン製。車高は10mm低く設定された。
タイヤは、ドンフランチェスコご推奨のミシュラン・パイロットスポーツ。最高の性能を引き出せる足まわりに、仕上がっているという。
ステアリングホイールは一度すべて剥がされ、カラムが最も正しいと感じる形状へ、リムが加工し直されている。直径もやや小さく修正されている。
手間ひまの掛かった内容だから、安くはない。カラム・ヴァンキッシュを手にするには、自分のヴァンキッシュSを持ち込んだとして、45万ポンド(6300万円)が必要だ。チームにお願いして、最適なベース車両を探してもらうこともできる。
受注予定の台数は、25台に限られている。すでに予定台数の半分は、契約済みだという。このまま順調に、25台が売り切れるのだろう。
今回筆者が試乗したのは、カラムがオーナーの、6速MTのクルマだった。
インテリアの基本的な骨格は、もとの姿がわかる。しかし、すべての表面の質感は大幅に高められている。テクスチャーやカラーは、幅広い選択肢から選べるという。
シートは、完全にデザインし直されている。着座位置も低い。オリジナルのヴァンキッシュも、こうあるべきだった。
背もたれやドアパネルには、カラム・アブストラクト・タータンと呼ばれる、上品なグラフィックがあしらわれている。今後のカラム・モデルにも展開されるのだろう。
グランドツアラーとして性能を高める
ダッシュボードには、ブレモント製の懐中時計が収まり、取り外して持ち歩くこともできる。荷室には、マルベリー製のラゲッジセットが、コーディネートされる。
走り始めてすぐ、底なしと思えるほど豊かなパワーとトルクに気づく。V12が発するサウンドは、オリジナルのヴァンキッシュとは大きく異る。
エグゾーストは完全に新設計。その高音と低音に、バルブギアのクラシカルなメカノイズと、カムシャフト・ドライブ系統からの鳴き声が混ざる。4種類のサウンドが重なり、和音のように響いてくる。
エグゾーストの形状は、アンダーボディのディフューザー機能も果たしているという。
カラムとドンフランチェスコは、グランドツアラーとしての機能性と、ドライビング品質を拡張させたと話す。彼らが一番に目指した部分でもある。
エンジンは回転数を高めない限り、存在感はとても控えめ。そして、素晴らしいサウンドで楽しませてくれる。
ハードウエアは現代化され、乗り心地は引き締まっていながらも、フラット。グリップ力もターンインの応答性も、従来よりはるかに良い。
ブレーキは最新の、大径なカーボンセラミック製ディスク。見事に速度を落とす。
そんなカラム・ヴァンキッシュだが、筆者は2点、際立つ動的性能を挙げたい。1つは、素晴らしいステアリング。見事なまでに精度が高く、確実な手応えがある。新次元と呼べる洗練性を得ている。その結果、大幅に安定性が高められている。
ブランドとなったイアン・カラム
もう1つは乗り心地。先にも触れたが、減衰力の設定が素晴らしく、フラット。ロードノイズを積極的に抑えこんであり、少し新鮮なほどに静かでもある。
ドライバーが得られる達成感と、グランドツアラーとしての性能という、2つの目的は見事に達成されている。
イアン・カラムは、次のビジョンを明確には示していない。カラム・ヴァンキッシュを仕上げるには、数か月もの時間を要する。
しかし、さらに特別なヴァンキッシュが生まれる可能性があることは、間違いないだろう。また、ほかのモデルのプロジェクトも視界には入っているようだ。
イアン・カラムは、かつては1人のデザイナーだった。しかし今は、ブランドそのものなのだ。
アストン マーティン・カラム・ヴァンキッシュ25 バイ Rリフォージド(英国仕様)のスペック
価格:55万ポンド(7700万円)
全長:4665mm(標準ヴァンキッシュ)
全幅:1923mm(標準ヴァンキッシュ)
全高:1318mm(標準ヴァンキッシュ)
最高速度:305km/h
0-100km/h加速:4.5秒(予想)
燃費:-
CO2排出量:-
乾燥重量:1835kg(予想)
パワートレイン:V型12気筒5935cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:588ps
最大トルク:非公表
ギアボックス:6速マニュアル
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