ラリードライバーも注目した1台だった
幾分クラシカルで、何よりも質実剛健の生一本だったコルト1000やコルト1500から、大げさに言うなら三菱自動車の企業風土を一新したコルト・ギャラン。ただし、ボディサイズがひとまわり以上も大きくなっていたために、コルト1000や1500の後継モデルとしては1973年に登場するランサーまで待たねばなりませんでした。
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今回紹介するギャラン・クーペFTOは、ギャランGTOの弟分にも位置付けられていますが、じつはランサーの2ドアクーペモデルであり、本流の4ドアセダンよりもひと足早くデビューした、そんな出自のモデルです。
GTOの弟分でセダンに先行したランサーのクーペ版
ギャラン(初代のみはコルト・ギャラン)にランサー、そしてミラージュは、三菱の乗用車ブランドとして“三本の矢”となりました。ただし、派生モデルとしてギャランGTOやランサー・セレステが登場し、本シリーズもランサーEXやギャランΣ(シグマ)、ギャランΛ(ラムダ)とサブネームが追加されたモデルもあれば、ΣとΛにはバッジエンジニアリングで兄弟モデルのエテルナΣやエテルナΛも登場しています。
さらにボディサイズもさまざまで、一時期的ではありましたが、ある意味カオスな状態が繰り広げられていました。基本的にはギャランはミドルクラスからアッパーミドルクラスで、ランサーとミラージュはコンパクトクラスからミドルクラスに分類されています。
そして派生モデルのギャランGTOはコルト・ギャランのファストバック・クーペ、ランサー・セレステは初代ランサーのハッチバック・クーペという位置づけでした。今回の主人公であるギャラン・クーペFTOは、名前とは裏腹に初代ランサーの2ドアクーペです。
立ち位置でいうならギャランGTOの弟分ということになりますが、1973年の2月に登場する初代ランサーよりも1年ちょっと前の1971年11月にデビューを果たしています。そのためでしょうか、本来ならランサー・クーペFTOと名乗るべきところをギャラン・クーペFTOと名乗ることになりました。
その辺りも、カオスな印象を深める大きな要因となってしまったようです。車名に関して付け加えておくと、FTOは三菱のウェブサイトによるとFresco Tourismo Omologare(新鮮なクーペスタイルのツーリングカーの意)の頭文字を繋げたものですが、前年にリリースされたGTOのGrande Tourismo Omologare(GTカーとして正式に承認された車。伊)の頭文字を繋げた言葉(同)に倣ったもの。
続いてはFTOのメカニズムについても紹介しておきましょう。ボディ形式としては2ドアのハードトップ・クーペですが、リヤウインドウの両サイドに“峰”を立てたことにより、サイドビューで見た以上にリヤウインドウは立ち、ルーフやトランクリッドとは完全にノッチがついています。
三菱のウェブサイトではこれを「特徴的なファストノッチスタイルの採用により、ファストバックスタイルにありがちな、後方視界とトランク開口部の制約を一挙に解決。バックスタイルの尻下り感を取り除いており、フロントウインドウの傾斜角34度30分、曲率50インチのサイドウインドウガラスの採用などと相まって、他社の意表をつくユニークなスタイリングでした」としています。
“ファストノッチスタイル”の造語はともかく、このデザインが意図していたところは容易に理解できます。つまりファストバック・クーペの風情を持ちながらも、リヤウインドウを立てる(寝かせ過ぎない)ことでリヤシートの乗員のヘッドスペースを確保することを目指したものでした。
またトランクが独立したデザインとすることで大きなハッチゲートを設けるよりもボディの剛性確保が容易になることも大きな副産物でした。ボンネットやドアなどの外装パネルをギャラン・シリーズと共用し、短いけれども幅広な、特徴的なスタイリングとなっています。
具体的なサイズは全長×全幅×全高が、3765mm×1580mm×1330mmで、一部外販パネルを共用していたコルト・ギャランと比べても315mm短く20mm幅広い、特徴的なサイズ感となっていました。2300mmのホイールベースも、コルト・ギャランよりは120mmも短く、サイドビューからは前後方向に大きく切り詰めた印象が伝わってきます。
サスペンションはフロントがマクファーソン・ストラット式、リヤがリーフ・リジッド式と当時としてはコンサバなレイアウトでしたが、コルト・ギャランや後に登場するランサーと同様に、巧みなセッティングが施され、素直な操縦性能がセールスポイントとなっていました。
用意されたエンジンは、コルト1500などに搭載されていたKE型系の後継として開発されたプッシュロッドの1378cc直4エンジンの4G41(ボア×ストローク=76.5mmφ×75.0mm)。ベーシック系には“ネプチューン86”の愛称を持った最高出力86ps版が、トップグレードのGIIIには“ネプチューン95” の愛称を持った、ツインキャブ装着チューンした最高出力95ps版が、それぞれ搭載されていました。
ホットモデルのGSRがオーバーフェンダー付きで登場
プッシュロッドの“ネプチューン”エンジンでスタートしたギャラン・クーペFTOでしたが、デビューから1年ほどで初めてのマイナーチェンジを受けています。変更点の第1はエンジンの変更で、1600ccモデルが追加されたこと、そして待望の“GSR”の登場でした。
エンジンはプッシュロッドの“ネプチューン”から、三菱として初のOHCエンジンであり、コルト・ギャランでそのパフォーマンスに高い評価が集まっていた“サターン”へのコンバートでした。もう少し詳しく紹介していきましょう。
新たなエンジン・フォーメーションは1.4L版と1.6L版の2種3仕様で、前者は初代のコルト・ギャランにも搭載されていた1439cc(ボア×ストローク=73.0mmφ×86.0mm。最高出力は92ps)の4G33型。後者はギャランGTOにも搭載されていた1597cc(ボア×ストローク=76.9mmφ×86.0mm)の4G32型で、最高出力はSU式のシングルキャブ版が100ps、SU式のツインキャブ版が110psでした。
この4G32型の110ps版を搭載したモデルがGSとGSRでしたが、ほかのモデルでも最強モデルに与えられているGSRを名乗るトップグレードには、オーバーフェンダーを装着しています。ちなみにハイパフォーマンスカーの“証”とされていたオーバーフェンダーは、1970年10月に登場した日産のスカイライン・ハードトップGT-Rが先駆けとなりました。
その後1971年11月には日産が、それまでダットサン240Zの名で輸出専用だったフェアレディ240Zを国内販売した際に設定した最上級モデル、240Z-Gにもオーバーフェンダーが装着されています。さらに1972年3月にはトヨタがカローラ/スプリンターにテンロク・ツインカムの2T-Gエンジンを搭載したカローラ・レビン/スプリンター・トレノをリリースしていますが、こちらにもオーバーフェンダーが装着されていて、広く認知されることになりました。
さらに1973年1月にはギャランGTOに、マイナーチェンジに合わせて登場したGTO 2000 GS-Rがビス止めのFRP製オーバーフェンダーを装着。なお、グレード名のGS-RはGrand Sports and Rallyの略でハイフンのないGSRとは関係ありませんでした。そうした流れを受けて1973年3月にはギャラン・クーペFTOにもオーバーフェンダーを装着したGSRが追加設定されたのでした。
ギャラン・クーペFTO GSRの特徴は、もちろんオーバーフェンダーだけではありません。フロントがマクファーソン・ストラット式、リヤがリーフ・リジッド式と当時としてはコンサバなレイアウトだった前後サスペンションもヘビーデューティに強化され、リミテッド・スリップ・デフ(LSD)も組み込まれていましたし、当時としては超扁平・高速型ラジアルという位置づけだった175/70HR13 タイヤを装着していました。
そのサイズにはあらためて時代経過を感じさせられずにはいられませんが、この辺りにも三菱の“本気”が感じられます。もっともオーバーフェンダー自体は「若者の暴走を助長する」との理由から4年ほどで保安基準が改正されてしまい、“安全対策”を名目にオーバーフェンダー付きGSRは、1974年の8月にはモデル(グレード)廃止となってしまいました。
それでも三菱は、2カ月と短いインターバルでオーバーフェンダーを取り去ったGSRを復活させています。こうした三菱の“本気”に応えたのがラリードライバーたち。1973年シーズンまではエンジンのチューニングが許されていて、三菱ワークスもコルト・ギャランに続いてランサーを主戦マシンとしていたためにエンジンのチューニングが大きく制限された1974年シーズンからは、ギャラン・クーペFTOの軽量さに注目するドライバーも増えてきました。
もっとも、その一方で短いホイールベースによるシビアな(シビア過ぎる)ハンドリングは功罪半ばするところで、全日本クラスでは三菱系有力ドライバーのひとりである菅野茂選手の活躍が目立った程度でした。その一方で、学生時代に某モータースポーツ専門紙の地方レポーターとして幾戦も取材に訪れた西日本エリアの地方戦クラスでは、60台のエントリーのうち、大抵1台か2台、馬鹿っ速いFTOがいました。クイックな動きは明らかにほかとは一線を画していたことが記憶に残っています。
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