BYDの新ブランド「仰望(Yangwang)」が投入する「U8」と「U9」は、これまでの中国車とは一線を画し、注目を集めている。自動車評論家の今尾直樹が両モデルを解説、そして中国車の未来を考えた。
100万元クラスの中国車
4月18日に開幕した「オート上海2023」が日本でも多くのメディアで報じられている。
中国はいまや世界一の巨大な自動車市場であり、EV先進国で、しかも、中国メーカーがメキメキと実力をつけてきているのだから、テレビのニュース番組で取り上げられたりするのも当然だろう。
このオート上海2023でひときわ目立っていた新車が、BYDが展示した仰望(Yangwang=ヤンワン)の「U8」と「U9」である。じつはこの2台、本年1月にBYDがその概要を発表している。
BYDが高級NEV(New Energy Vehicle)のサブブランドとして創設したのが仰望で、中国の量産車として初めて100万元(約1950万円)クラスになる。いわば中国版レクサス、と考えると、わかりやすいかもしれない。
仰望とは中国語で「仰ぎ見る」という意味だそうで、日本語でも、「仰ぎ見て望むこと」「尊敬して慕うこと」とネットの辞書にある。
写真でご覧のように、ランドローバー「ディフェンダー」やメルセデス・ベンツ「Gクラス」といったハードコアな本格オフロード・ヴィークルをライバルとする全長5m超のEVがU8、2座のスーパースポーツのNEVがU9だ。
技術的な特徴は、「e4 プラットフォーム」、中国語だと「易四方(Yisifang)」という、独立式の4モーター駆動である。仰望ブランドではすべてe4 を基本にするという。なるほどなぁ。独立の4モーターだから、こんなことができるのである。
前述したように、U8はオフロードSUVで、U9は2座のスーパーカー。もしもこの2台を内燃機関でつくるとなると、かたやフロント・エンジンで、プロペラシャフトがあって4輪を駆動する。こなたはエンジンをミッドに置いて、後輪なり4輪なりを駆動することになる。つまり、まったく別物になる。
ところが、独立式4モーター駆動なら、エンジンの搭載位置は関係ないし、プロペラシャフトもいらない。理論的には、同じプラットフォームで、セダンだってミニバンだって、できる。革命的大転換である。
4輪それぞれを駆動する4つのモーターが、走行状況に応じて瞬時にトルクを変えるシステムだから、いわゆるトルク・ベクタリングは自由自在だ。YouTubeには、U8のプロトタイプが精緻なグリップコントロールによって砂漠の急斜面を登り切る動画や、タイヤが1本バーストしても姿勢を乱すことなく走り続ける動画、360度の「タンクターン」、戦車みたいにその場でグルグルまわる動画もアップされている。
水上をぷかぷか浮かんで進む動画もある。U8は完璧な防水処理が施されていて、おそらく3t近い車重だろうに、水の上に浮くことができるのだ。その様子もYouTubeで見られて、もうビックリである。水陸両用SUV!
しかも、である。公表されたスペックによると、U8の最高出力は1100ps以上で、0~100km/は3.6秒。ランボルギーニ「ウルス・ペルフォルマンテ」とかアストンマーティン「DBX707」とかで3.3秒だから、それよりは遅いにしても、スーパーSUV並みの、夢のような速さを備えている。
もうひとつビックリは、価格だ。U8は109万8000元(およそ2140万円)から、と発表されている。どう考えても、大バーゲン価格である。日本でも販売すればいいのに……と。筆者なんぞは、買えもしないけれど、思っちゃう。詳細は不明ながら、U8はリリースに「NEV」とあって、ということはPHEVだと推測される。ますます日本向きではないか。
エレクトリックスーパーカーのU9は、0~100km/hが2秒という、ハイパーカー並みの加速性能を豪語している。それでいて、サーキットでも市街地でも快適に運転できるという。BYD独自のエアサスペンションを備えていて、ボディをダンスさせるどころか、ジャンプすることだってできるらしい。その様子も、もちろんYouTubeにアップされている。ビックリ、である。ショーカーならともかく、市販版でもできるのでしょうか? きっと、できるのでしょう。踊るスーパーカー、ヒップホップのレペゼンも手に入れたいと思うにちがいない。
4モーターのスーパーカーというと、リマック「ネヴェーラ」が思い浮かぶ。クロアチアの新興EVスーパーカー・メーカー、リマックのネヴェーラは4モーターで、最高出力1914ps。0~100km/h加速1.97秒。最高速度は412km/hで、限定150台。価格は240万ドル(約3億2200万円)という。
U9の価格は未発表ながら、おなじ易四方プラットフォームのU8が109万8000元なのだから、U9がその10倍する、ということはないはずだ。仮に10倍したとしても約2億円。ネヴェーラより1億円も安い! こちらも価格破壊級の大バーゲンである。
このように、未知の部分はあるものの、BYDの仰望(ヤンワン)のU8とU9は、仰望したくなる、世界第一級のスーパー高性能EVであることは疑いない。
100年に1度の大変革期最後に、ここへきてBYDがどうしてこのようなハイエンドの仰望ブランドの2台を送り出してきたのか、についてである。もちろん、それはGDP世界第2位の超大国、中国には富裕層がいっぱいいるからだ。
クレディ・スイスの「グローバル・ウェルス・リポート 2022」によると、いわゆるミリオネア、資産100万ドル以上の富裕層は、2021年の時点で、3位の日本は336.6万人。2位の中国は619万人という。1位の米国は2448万人で、それが2026年には、それぞれ479万人、1219.7万人、2766.4万人に増えると予想されている。中国の増加率は2倍近い。日本は1.4倍、米国は1.1倍に過ぎないことにも、ちょっとビックリである。
別の資料、ヘンリー&パートナーズというアメリカの投資会社が先般発表した2022年12月時点でのミリオネアの住む都市のランキングを見てみよう。1位がニューヨークで34万人。2位が東京で29万300人。ずっと下がって、8位が北京で12万8200人、9位が上海で12万7200人だそうである。さらに見ていくと、24位が深圳で4万5700人。大阪が25位で4万4900人、京都が27位で4万400人。35位が杭州で3万400人、42位が広東で2万3500人だ。中国の大都市に香港(7位、12万9500人)を加えると、合計48万4500人になる。
同調査でビリオネア(10億ドル以上)の数も載っている。それによると、米国サンフランシスコのベイ・エリアがいちばん多くて63人、ついでニューヨークの58人、東京は14人、北京43人、上海40人とある。
これだけ富裕層が存在し、5%前後の経済成長率を誇る超大国・中国のメーカーが、高級車づくりに乗り出すのも自然な流れだと思える。BYDの2022年の中国国内の販売台数は186万9000台で、前年比212.8%だそうで、つまり、驚異的な勢いで成長している。勢いがあるからこそ、新しいチャレンジができる。あるいは、新しいチャレンジをしているからこそ、勢いがある、というべきか。
BYDはさらなる成長を目指し、上から下までフルラインで対応していく戦略で、オート上海2023では、BYD「シーガル」という新しい小型EVの価格を7万8800元(およそ150万円)から、と発表して話題になった。軽EVの日産「サクラ」より100万円も安い。ビックリである。
BYDはもともと電池が得意分野だし、メルセデス・ベンツ、トヨタとも合弁事業を行なっている。クルマづくりのノウハウも習得済みなのだ、おそらく。
2008年に北京オリンピックが終わってから、はや15年。単純に1964年の東京オリンピックの15年後というと1979年である。その年、出版されたのがご存じ『ジャパン・アズ・ナンバーワン』であり、もうちょっとすると、ニッポンにとって黄金の1980年代を迎えることになる。あの頃の日本車を思い出してほしい。日産「レパード」の初代の発売が1980年、トヨタ「ソアラ」の初代が翌1981年……。
100年に1度の大変革期に、中国の自動車メーカーが、かつてニッポンが自動車界で成し遂げたような奇跡を起こしたとしても、筆者は驚かないのである。
文・今尾直樹 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
你的鶏巴太小了!!吻我的屁股
日本メーカーは終わったのだ