Ferrari Portofino
フェラーリ ポルトフィーノ
プレミアムコンパクトSUVの最右翼、アウディ Q3&Q3スポーツバック初試乗!
刺激的な高揚感
フェラーリの最新モデル、ポルトフィーノが日本上陸を果たした。オープンモデルとは思えないほど流麗なボディラインを実現し、そしてその走りはさらに刺激的に、より乗りやすく快適に進化。これこそ新たにフェラーリの世界を知るのに好適の1台だ。
「FRクーペとしてのプロポーションはため息が出るほど完璧だ」
これぞ、まさに流れるようなラインというものだ。
ボディを形作る線の一本一本が滑らかな曲線を描き出し、それらは川を流れる水のように自由に曲がり、合流し、そして消えていく。しかし、どれひとつとして無理にねじ曲げられたものはなく、見る者に清流のごとく清々しい心持ちを抱かせる。
そしてフロントエンジン・クーペとしてのプロポーションはため息がでるほど完璧である。
軽快で素早いラインのエンジンフードは端正な面持ちのキャビンへと連なり、ファットで筋肉質なリヤフェンダーまわりでぎゅっと凝縮される。その一連の流れには鮮烈で簡潔な短編小説にも通じるドラマ性がある。
「カリフォルニアTと比べ、明らかに流麗でスピード感がある」
ポルトフィーノのスタイリングは前作カリフォルニアTの流れを汲むものだが、比べてみるとポルトフィーノのほうが明らかに流麗でスピード感がある。そうした印象は、カリフォルニアTでは独立していたトランクがリヤウインドウから一直線に下っていくファストバック・デザインに取り込まれたことで、サイドビューを構成するラインが伸びやかになり、結果としてより勢いを増したことと深い関係があるはずだ。
ちなみにポルトフィーノの名はイタリア・ジェノバ地方の美しい漁村に由来する。この村はイタリア国内ではリゾート地としても有名だが、国際的な知名度は決して高くない。そんなポルトフィーノの名を世界的に知らしめたいという思いを込めて、フェラーリは新しい2+2オープン・モデルにこの名を与えたのである。
もっとも、外観はよく似ていてもボディ構造はカリフォルニアTとはまったくの別物。そのことはAピラーのパーツ数が従来の21から2まで削減され、リトラクタブルルーフの開閉方式が抜本的に改められたことからも明らか。この結果、80kgもの軽量化を果たした一方で、静的捻り剛性は35%も向上したという。
「優れたボディ剛性の価値を再確認することになった」
今回、日本にやってきたポルトフィーノにいの一番に試乗して、優れたボディ剛性の価値を再確認することになった。
抜群のアジリティを生み出すポルトフィーノのサスペンションは決してソフトとはいえない。しかし、タイヤとサスペンションを介して路面から受けた衝撃は、振動となってボディに分散されるのではなく、逆にタイヤが路面を強く押し返す力を生み出す。この結果、ロードホールディング性が高まり、これがタイヤのグリップ力を余すことなく引き出す一方で、ボディに振動を伝えないことが結果として高い快適性を生み出すのにも役立っているのだ。いずれも私の推論だが、ハンドリングや乗り心地を磨き上げるのに、オープンモデルとは思えないほど卓越したボディ剛性が大きく貢献していることは間違いないだろう。
国際試乗会に参加した際のインプレッションで、私はレスポンスが鋭敏なポルトフィーノのハンドリングについて「フロントがロールするよりも早く横Gが立ち上がる傾向が認められた」ため、当初はこれが軽い違和感に結びついたと報告した。しかし、今回、国内の走り慣れた道を走行して、このときとはいくぶん異なる印象を抱いた。
「ポルトフィーノのハンドリングが以前にも増して扱いやすく感じられた」
ステアリングを切った瞬間、すっと横Gが立ち上がるハンドリングは基本的に変わらない。その際のステアリング・ゲインが大きめで、慣れないうちは思った以上に大きな横Gを発生させてしまうことも、また横Gに対してロールが小さめなことも以前、報告したとおりだ。
けれども、なぜか今回は違和感を覚えなかった。もしかするとステアリング・ゲインやロール剛性が気づかない程度に小さくなり、これらの相互作用で自然な感触に近づいたのかもしれない。また、今回は私が慣れ親しんだ道での試乗だったために違和感が芽生えにくかったとの推測も成り立つ。いずれにせよ、ポルトフィーノのハンドリングが以前にも増して扱いやすく感じられたことは間違いない。
「スピードを上げたくなる誘惑は影を潜め、落ち着いてクルージングを楽しめる」
ポルトフィーノに搭載された3.9リッター V8ユニットは、相変わらずターボエンジンとしては出色の出来映えだ。ボトムエンドでも踏めば即座に分厚いトルクを生み出すのはいかにもターボエンジンらしいが、そのトルクの立ち上がり方に違和感がない。また、スロットル・ペダルを踏み込むと素早く回転数が立ち上がる様は、とてもターボエンジンとは思えない。さすが、あのフェラーリがNAエンジンの代替として世に送り出すだけのことはある。
ターボエンジンとしてはエキゾーストノートも魅力的だ。2000rpm以下こそ“べーッ”とマラネロ生まれらしくないサウンドを奏でるものの、これが3000rpmに近づくと“ボー”とやや抜けのいい音に変わる。さらに、そこから先は1000rpmごとに音程が上がっていき、6000rpmでは“ファーン”という典型的なフェラーリ・ミュージックを奏で始める。正直、その音色は488GTBよりも音階が高いうえに透明感があり、格段に魅力的だ。
とはいえ、かつてのNAエンジンに比べれば官能性は薄いかもしれない。また、回転が上がっていく過程でゾクゾクとするような快感を味わいにくいのも事実。ただし、ドライバビリティは最新のターボエンジンのほうが確実に一枚上手なほか、運転次第では燃費だって良くなる。NA時代のフェラーリは、高速巡航だろうとなんだろうと、とにかくスピードを上げたくなる誘惑が強かったが、ポルトフィーノではそうした傾向がすっかり影を潜め、落ち着いてクルージングを楽しめる。どちらがいい悪いと決めつけるつもりはさらさらないが、これが時代の要求であり、フェラーリが最新のテクノロジーでそれに誠実に応えたことだけは疑う余地がない。
「クルージングでこんな刺激を味わえるのは恐らくフェラーリだけだろう」
結論としてポルトフィーノは、カリフォルニアTよりもすべての面で動的質感が磨かれ、さらに美しくなり、より操りやすいグランド・ツーリズモ=GTに生まれ変わったといえる。ただし、そこはフェラーリ、巷によくあるGTのようにドライバーをリラックスさせることはない。なにしろ中立付近のステアリング・レスポンスが鋭く、ゲインも大きめだからハイウェイ・クルージングでも息を抜くことは許されず、常にドライビングに集中することを要求される。それは美しい貴婦人が「私と一緒にいるときは、いつでも私だけを見つめて・・・」と男性に求めるのによく似ている。さて、アナタはその求めを煩わしいと思うだろうか? それとも喜んで受け入れるだろうか?
答えは人それぞれかもしれない。ただし、取材を終えての帰り道、ルーフを開けて高速道路を流していると、様々な脳内物質が分泌されていつしか軽い躁状態に入り込んでいた。ステアリングに集中しながら五感を研ぎ澄ませ、ポルトフィーノが発信するあらゆる情報をキャッチするうちに、まるでランニングハイのような高揚感に包まれていたのだ。
クルージングしているだけでこれだけ強い刺激を味わえるのは、恐らくフェラーリだけだろう。その意味において、ポルトフィーノもマラネッロの正統な血筋を受け継いでいることは明白といえる。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)
【SPECIFICATIONS】
フェラーリ ポルトフィーノ
ボディサイズ:全長4586 全幅1938 全高1318mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1664kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3855cc
最高出力:441kW(600ps)/7500rpm
最大トルク:760Nm(78.5kgm)/3000-5250rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(8J) 後285/35ZR20(10J)
最高速度:320km/h以上
0-100km/h加速:3.5秒
車両本体価格:2530万円
※GENROQ 2018年 10月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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