2021年も、ファンのために熱いレースを展開してくれるスーパーGTドライバーたち。SNS等でも散見されますが、所属するチームやメーカーによって差はあれど、多くのドライバーが“繋がり”をもっています。そんなGTドライバーたちの横の繋がりから、お悩みを聞くことでドライバーの知られざる“素の表情”を探りだす新企画をスタートしちゃいました! 今回はArnage Racingの柳田真孝選手からバトンが繋がった、GAINERの星野一樹選手に突撃です。
しばしばSNS等でも見られる、気になる2ショット。「へえ、あのドライバーたち、仲良いんだ」とファンの皆さんも驚くこともあるのでは。そんなGTドライバーの繋がりをたどりつつ、ドライバーたちの“素”を探るリレートークのようなものができないか……? という企画が編集部内で出てきたのが2月。第1回の石浦宏明さんから阪口晴南さん、新田守男さん、高木真一さん、さらに片岡龍也さん、柳田真孝さんと繋がっています。
スーパーGTドライバー勝手にお悩み相談ショッキング Vol.6 柳田真孝さん
そして今回繋がったのが星野一樹さん。このふたりと言えば、長年ニッサンドライバーとして活躍し、2010年にはコンビでGT300チャンピオンを獲得。また同じように名ドライバーを親にもち、ニッサン車のチューニングショップを営む家の出身です。柳田さんのお悩み、一樹さんはどう答えるでしょうか?
* * * * *
■マーならできる!
──(企画の趣旨を説明しつつ……)前回マーさん(いちおう編集部注:柳田真孝さんのこと)が片岡の悩みを解決(?)したのですが、マーからのお悩みとして、『忙しくて、あまり子どもとの時間をとることができない』ということと、『そろそろ将来のことについて悩んでいる』というふたつが出てきたのですよ。
星野一樹さん(以下星野さん):………遅い(笑)。
──要は『セントラル20』を継ぐのかどうか? ということなんです。一樹さんはすでにインパルに入っていろいろなことを学ばれていると思うのですが、一樹さん的に、マーさんはどうしたらいいでしょうか。
星野さん:ほほう。でもそれ、最近の悩みなのかな。マーとはそのことについてはもう10年、いやもっとかな。直接本人とも話してたと思うんですよ。僕は7~8年くらい前にインパルに入りましたけど……いや入ったというよりも、若いときにも一度やっていたので『戻った』という感じなのですが、自分がイギリスに行っていたり、それこそレーシングドライバーとして独立してやっていたので、インパルからは一度離れていました。
でも、僕も7~8年前に将来のことを考えたりしたんですよね。その頃は『自分のやりたいことをやるんだ』とフイていたけど、『結局やりたいことってクルマのことだよな』と思ったんです。プロ野球選手が急にラーメン屋をやってもなかなか難しいと思うし、やっぱり僕も、クルマで育ってきたので『クルマでいくしかないじゃないか』と自分のなかで思ったので、インパルに入るのを決めたんです。
その頃からマーとはそういうことを話すようになって、たまに『マーはどうすんだよ』と話したり、逆にマーから『一樹さんはなんでインパルに戻ったの? 俺も悩んでいるんだよね』という感じで、けっこう相談を受けてたんですよね。軽くだけど。
それについては、『自分がやりたい、やりたくない』ということも分かるけど、もう『俺たちがやらないといけない運命なんじゃない』と思う。うん。無理にやることが美学ではないけど、とりあえずやってみないことには、それがやりたかったことかどうかも分からない。やってみて違うんだったら、そこで違ければいいんじゃないの? というね。
──そこからラーメン屋に軌道修正してもいいですもんね。
星野さん:そうそうそう。だから、ラーメン屋なのかなんなのかと“枝”を探しているうちは見つからなくて、とりあえずひとつのことに打ちこんでやってみたら、違っても戻って別の道に行けばいいというだけなんです。俺はそう決めたんだよね。だからマーにも一緒にやってみて、『今度は俺たちの代で盛り上げようよ』という話をしたことはあります。
──一樹さんがインパルに入るときは、お父様に話をされたんですか?
星野さん:いや、そのときインパルを回していた人に相談して、『イチからやり直させてください。タイヤ交換から始めるのでお願いします!』と戻ったんです。親父にも後から報告しましたけど。
──そういう意味ではマーさんは悩みすぎですか。
星野さん:う~ん。ここまで悩んでいるんだったら、ホント悩んでも決まらないと思う。これが1年前から悩み出したんだったら『大いに悩め!』と思うけど、こんなに長い時間悩んできたのなら、『とりあえず始めてみよう』と俺は思う。
──新型フェアレディZも出ることですしねぇ。
星野さん:そう! そうなんすよ。良いタイミングじゃないですか! 新型のZを親父さんにやらせてる場合じゃないですよ。マーのセンスでやらないと。それこそ、親の代ではなかったけど、セントラル20とインパルでコラボレーションしてパーツを出してみようとか、そんなこと俺たちならできないわけじゃないと思うし。お互いに絶対ダメなことではないし、やってほしいとも思うけどね。まあでも、いろいろとマーにも悩みがあるんだと思う。
──いろいろと抱えてることも個々人でありますからね。
星野さん:そうですよね。うん。でも、できる。マーならできる!
■星野一樹さんの悩みはちょっと深いカンジ
──なるほど。あとマーさんは『家族と時間がとれない』ということなんですが、一樹さんは家族との時間はとれてます?
星野さん:やっぱりとれないですね。朝は仕事に出かけて、帰ってきたらお風呂に入れて寝る時間なので、一瞬でも早く家に帰って、空いた時間が子どもをお風呂に入れる時間しかない。なので、あとは寝顔を見ているだけなんです。それで週末はサーキットに行っちゃうでしょ? 最近土日はスーパーGTが延期になってしまったことで、逆になんとか時間もできたので、触れ合える時間も増えるとは思うけど、なかなか僕も時間がないので、逆にその悩みは俺がマーに相談したいくらい(笑)。
──逆に相談聞くって言ってましたよ。
星野さん:マジっすか(笑)。
──で、一樹さん、最近その他に悩みはありませんか。
星野さん:自分の悩み? あるね~。あります。
──なんすかそれは。
星野さん:正直、なかなか勝てない。一昨年勝ったけど、自分の“100”を出せるスイッチが自分で見つからなくなっちゃうことがある。別にまわりが『(一樹は)落ちた』と言うなら別に落ちたでいいけど、自分ではその感覚がないじゃないですか。自分で“100”を出せないタイミングがあるということを自分でも分かっているんです。でも、それもマックスが“90”になってしまったというわけではなく、“100”は“100”で残っているんだけど、単純にその“100”を出せないときが増えてきたんですよね。
──う~ん。それは“守りに入っちゃう”という感じではないんですか?
星野さん:やっぱり悩みだから答えは分からないんだけど、でも結局、カートに乗りに行ったりシミュレーターで練習して自信をもってサーキットに行くと、それなりに良い結果が出せたりするんです。この間のスーパーGT第2戦でもいろいろなことをして、Q1で良い結果を得られたので、『やればできるんだ』というタイミングもまだ一応あるので、途方に暮れているわけではないけど、ときに『自分はこんなに攻めているのに、なんでこんなにタイムが出ないんだ』というタイミングがたまに出てくる。
──少し話は変わりますが、今季GAINER TANAX with IMPUL GT-Rはダンロップにタイヤが変わりましたが、その点はいかがですか?
星野さん:それは第2戦富士からすごく良くなりました。鈴鹿でダンロップさんとテストをしたりで、そこは特性をかなり掴んでいるので、もう迷ってないです。第2戦の決勝レースではタイヤチョイスを間違えてしまって良くなかったですけど、予選ではすごくパフォーマンスを出すことができたので、そこは今後楽しみしかないです。
──けっこうお悩みが抽象的な部分もあるのですが、ドライバーとしては『自分の“100”を出せない』と言ったら、伝わるものですか?
星野さん:自分の“100”をいつも出せなくなったというか……。うーん。カッコ悪いかなぁ? 正直に言っちゃうと。でもまぁ、ウソをついても仕方ない。でも、経験とかベテランの引き出しでごまかせちゃうときもあるじゃないですか。
──ありますねぇ。
星野さん:自分では『経験やセットアップ面で頑張ればいいじゃん』と精神的に逃げてきた部分もあるけど、やっぱり自分の“100”をいつも出すことができなければ、それはプロじゃないと思うタイミングもたまに出てくるので、それに向き合わないとやっていけない。
結局はモチベーションの問題なんだよね。『もっと攻めてたじゃん』、『もっとカートやシミュレーターや、トレーニングしていたじゃん』と思うんすよ。でもそれが自分では、親父からしたらこんなだけど、自分の中の“レーシングドライバーの星野一樹”と、“インパルの星野一樹”が両立できないわけじゃないと思っているのに、両方に“100”を出せていなくて、どちらかが下がってしまうことがあるのが、少し悩みです。
■その相談、誰にします?
──悩ましいですねぇ。
星野さん:でも、それはきっと言い訳だし、『別にそんなの両方いけるでしょ』と、こっちが悪かったからもう片方のせいにしているだけなので、自分の中では微妙に解決していて(笑)、ただの弱音なんだけど、仕事については自分だけのせいではなく時代の流れもあるし、もちろんコロナの影響もあるけど、でもこっち(レーシングドライバー)の仕事は僕次第なんですよね。
──なるほど。それは同世代としては共感するところがありますねぇ(一樹さんは筆者のひとつ上なもんで)。
星野さん:マジですか?
──なんというか、“守るもの”じゃないですけど無茶ができないといいますか。
星野さん:そうなんですよ。別に楽な道に行っているわけではないけど、もっと茨の道を突き進んできたこともあったじゃん、と後から思うときがあるんですよね。
──ワタクシももっと昔は無茶やって、その分スキルつけてきたじゃん、ということもあるので分かります。40代は難しいっすね。
星野さん:そうっすね(笑)! やっぱり結婚もして、子どもが産まれたりして、丸くなったり、落ちたと思われるタイミングでもあるので、『ここでもう一発頑張らないと!』と思っているんですよ。
だからインパルの仕事ももっといかないといけないし、レーシングドライバーとしても、一流からしたら自分のマックスはたかが知れてるだけかもしれないけど、自分のマックスすら引き出せないことはダサいので。だからもう一回自分のマックスに戻りたいです。
──なるほど。それでですね、この悩みを誰にぶつけましょうか?
星野さん:おほ~(笑)。
──こういう悩みなので、やっぱりベテランになってしまうのかなと思いますが……。GTドライバーでお願いします。
星野さん:そうすか。誰かな……。
──僕の中ではひとり出てるんですが。
星野さん:ドキ。だれ?
──やっぱり本山さんじゃないですか?
星野さん:いや~、そうだよね。そこはやっぱり本山さん……。でも僕の悩みの次元と違うんじゃないかと思ってしまうんじゃないかな。なんというか、本山先輩は100%レーシングドライバーのことだけを考えて生きてきたというか……。でも最近はチームを持ち始めてきたから同じなのかな……。ちょっと待ってくださいね(笑)。
──……(割と長い間)
星野さん:そうだね。ニッサンだしね……。本山さんかな。あとは平中(克幸)かな、と思ったんだけど。
──それはなぜに?
星野さん:別の仕事はやっていないけど、ドライバー一本だけじゃなく、いろいろ考えている時期だと思うんですよね。でもみっつ下で後輩だしな……。先輩だよな……。やっぱり本山さんで!
* * * * *
というわけで、次回はスーパーGT三度のチャンピオン、今季復帰を果たした帝王・本山哲さんに繋がりました。取材済みですが、けっこう緊張しました(笑)。次回もお楽しみに!
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毎回、文章は長いですが(笑) 楽しく読んでます。