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【トリノの上級志向】フィアット2300Sとフィアット・ディーノ V6はフェラーリ製 前編

掲載 更新 3
【トリノの上級志向】フィアット2300Sとフィアット・ディーノ V6はフェラーリ製 前編

麗しいリビエラを想起させるクーペ

執筆:Martin Buckley(マーティン・バックリー)

【画像】フィアット・ディーノ2000と2300Sクーペ フェラーリの最新V6エンジンマシンも 全55枚

撮影:Max Edleston(マックス・エドレストン)

翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)


1960年代の華やかなイタリア映画、「追い越し野郎」や「太陽が知っている」。麗しいリビエラでの暮らしを描いた映像作品を再現したような、2つのモデルが同時期に存在していた。フィアット2300Sクーペとディーノ2000クーペだ。

これに乗れば、地中海に降り注ぐ太陽を疑似体験できそうだ。何をするでもなく、ゆったりと午後を過ごすのがイイ。助手席にはスリークな美女が一緒なら、完璧だろう。

そんな夢想は別として、妖艶なグランドツアラーはアペニン山脈を爽快に駆けるために生み出された。市民的なブランドから。

イタリアを代表するカロッツエリア、ギア社が描き出した2300Sと、ベルトーネ社が手掛けたディーノ2000。フラッグシップ・モデルなだけでなく、1960年代のフィアットの野心も表現していたといえる。

第二次大戦で荒廃したイタリアの奇跡的な経済復興を支えた、欧州最大の自動車メーカーだったフィアット。国内のものづくり産業を独占するような規模で、冷蔵庫からジェットエンジンまで幅広く手掛けていた。美しいクーペも。

マラネロの作品に並ぶ容姿をたたえているが、フェラーリではないためか、2台を2021年に記憶している人は多くないだろう。だが実は、フィアット・ディーノにはエンツォ・フェラーリが少なからず関わっている。

フォーミュラ2マシンに向けて、4カム1.5L V6エンジンのホモロゲーション取得を考えていた当時のエンツォ。限定的な規模で実現する方法は、フィアットへ搭載モデルを設計してもらい、ユニットを量産することだった。

フェラーリ製の2.0Lエンジン

そして2種類のクルマが作られる。最初に発売されたのは、1966年のディーノ2000スパイダー。ピニンファリーナによる美しい容姿から、500台という必要な台数は時間をかけずに売れた。

続く1967年に登場したのが、ホイールベースを伸ばした2+2のクーペだ。デザインはベルトーネに在籍していたジョルジェット・ジウジアーロ。1963年に取り掛かったが、最終的に仕上げたのはベルトーネを後継したマルチェロ・ガンディーニだった。

ディーノの2.0Lエンジンには、1.5Lや1.6Lのレーシングユニットと同じ合金製のクランクが用いられている。だが、重いクルマを充分に走らせるうえで、排気量は2000ccが妥当だと判断された。

エンジンの基本設計は、ヴィットリオ・ヤーノとフランコ・ロッキという2人の腕利き技術者。それを、フェラーリでエンジニアを務めていたアウレリオ・ランパルディの指揮でボアアップし、扱いやすさを高めている。

着想から2年でディーノ・スパイダーとクーペを量産するべく、フィアットは巧妙に策を練った。シャシー構造は124スパイダーをベースとし、フロント・サスペンションは125譲り。リーフスプリングとリジッドアスクル、4ダンパーのリア側も同様だった。

ディーノには、ボルグワーナー社製のLSDが組まれている点が特長だろう。

1968年までの2000クーペの生産台数は3670台。やや値段の張ったスパイダーより多く売れている。1969年以降はエンジンが2.4Lへ拡大され、130譲りのリア・サスペンションを獲得。フィアット2400として、1973年まで生産が続いた。

プアマンズ・フェラーリと呼ばれた2300

純粋主義者は1968年以前の前期型、ディーノ2000を好む傾向が強い。フィアットとしてはポルシェ911のライバルを狙っていたようだが、ランチア・アウレリアB20の後継モデルとして見るファンも少なからずいた。

同時に、1961年に登場したフィアット2300の後継モデルでもあった。1950年代の希少なフィアットV8以来のエキゾチック・モデルといえた2300は、アルファ・ロメオやランチアといった、上級ブランドの領域へ挑戦したクーペだった。

プアマンズ・フェラーリという呼称を得てしまうが、値段は当時のフェラーリ330GTの3分の1だったから仕方ないだろう。少なくとも1967年までに7000台が生産され、狙いは達成できたといえる。

実際、最高出力106psを発揮した2300Nより、高価で137psを発揮した1300Sの方が遥かに多く売れている。当時で84ポンド程度の価格差しかなかったから、当然ともいえたのだが。

2300クーペのデザインを手掛けたのは、ギア社のトム・ジャーダ。2100サルーンをベースとした少量生産モデルとして、1960年のトリノ自動車ショーで提案された。

フィアットの上層部は、クーペの可能性を理解し生産を決定。2300ベルリーナの駆動系を流用することで、翌年に販売がスタートした。ボディはギアとフィアットとの共同で、1日に25~30台のペースで組み立てられた。

2300のSでは2279cc直列6気筒の圧縮比を上げ、ハイリフトカムにツインチョーク・ウェーバー・キャブレターを搭載。対向バルブと半球型の燃焼室を備えたシリンダーヘッドの性能を引き出し、Nに30psをプラスしている。

モンツァで3日間平均177km/hを達成

またアバルト社は2300Sのエンジンをチューニング。専用エグゾーストと冷却フィン付きのアルミ製サンプを与え、モンツァ・サーキットで3日間平均177km/hという記録を達成した。エンジンの耐久性を証明するものだった。

Sの137psでは満足できないドライバー向けに、アバルトはその167ps版を提供。最高速度は212km/hに届いたという。

フィアット2300Sクーペは英国にも輸入されているが、価格はジャガーEタイプより1000ポンドも高かった。それでも1968年1月までに、70台の右ハンドル車がドーバー海峡を渡っている。

英国の自動車メディアはフィアット2300Sを暖かく迎えた。ル・マン優勝経験を持つポール・フレールも、個人的にポルシェ356から2300Sへ乗り換え、仕上がりを賞賛。6年間も大切に乗ったようだ。

今回ご紹介するシルバーのフィアット2300Sクーペは、左ハンドル車。オーナーのマーティン・ニールが、英国でデビッド・ホニーブンが営むイタリア車専門店から購入した1台だ。

1965年以降のモデルで、通称シリーズ2と呼ばれる。複雑なデザインのホイールカバーに、ボディサイドのクロームモール、フロントフェンダー後端のグリルが見た目の特徴。エンジンにはオルタネーターが組まれている。

ドアはしっとりと閉まり、フロントヒンジのボンネットにも支持用のスプリングが付く。2300Sの作りの良さや装備の充実ぶりを、そこかしこから感じ取れる。

この続きは後編にて。

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みんなのコメント

3件
  • 「カウンタック」のままでいいではないかと言う声もあるが、今時「タイレル」なんて言ったら笑われるし、「ムスタング」などと言おうものなら「昭和か!」と突っ込まれるのがオチだ。

    例えば時計の世界でも、「バセロンコンスタンチン」は、「ヴァシュロンコンスタンタン」だし、「チュードル」は「チューダー」だし・・・

    だからまあそのうち、「クンタッシ」なり「クンタッチ」なりを、どこか影響力のある雑誌社なり人間なりが使い出して、ふと気づいたら、これが定着してるってことになるんじゃないかな。

    でも、「クゥンタッチ」ってのは初めて聞いたぞ!
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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