現在位置: carview! > ニュース > ニューモデル > BMW Z8はスティーブ・ジョブズも愛したエロティックなスポーツカーだった

ここから本文です

BMW Z8はスティーブ・ジョブズも愛したエロティックなスポーツカーだった

掲載 3
BMW Z8はスティーブ・ジョブズも愛したエロティックなスポーツカーだった

もう一度甦ってほしいBMW Z8


岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第194回

価格は31億円!? 「ロールス・ロイス」が製造した究極のフルオーダーモデルとは?


最近、ちょっと古い雑誌を見ていたら「Z8」の記事が載っていた。Z8とは「BMW Z8」のこと。懐かしくて一気に読んでしまった。

僕が初めてZ8のステアリングを握ったのは、大好きなLA。すごくハッピーで、ワクワク、ドキドキだったことを思い出した。

なので、当時の資料やメモを探したら出てきたので、振り返ることにした。

BMW Z8は、5ℓV8を積んだスポーツカー。1999年に発表され2003年で生産終了。生産台数は5703 台とされる。

短命だったものの、BMWらしい中身を、実力を持ったスポーツカーだった。

日本での新車価格は1660万円だったが、販売終了後、しばらくしてからジワジワ人気は上がり始めた。今では3000万円前後で取引されているようだ。

5年ほど前、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズのZ8がニューヨークでのオークションに出品された。

たしか、30数万ドルほどで落札されたと記憶しているが、クルマ好きの間ではけっこう話題になった。スティーブ ジョブズの感性と美意識に選ばれたという事実は、Z8にとって誇らしいものだろう。


Z8のルーツを辿ると、1955年生まれの「BMW 507」に行き着く。日産の「初代シルビア」をデザインしたアルブレヒト ゲルツの作品だ。

BMW 507も初代シルビアも、ダイナミックで、美しく、かつエレガントでもあった。

507の生産台数は252台に過ぎない。商業的には失敗作だった。だが、BMWがプレミアムブランドとして成長してゆく過程で、重要な役割を果たしたことは多くが認めるだろう。

僕は、そんな507のステアリングを握り、アウトバーンを全開で走るという「夢のような体験」をしている。1985年頃だったと思う。

それも「BMWミュージアム」のガレージから引き出された、まさに貴重な1台のステアリングを任されたのだ。当然のことながら、あらゆる点でコンディションは最高だった。

ミュージアムのメカニックが助手席に同乗したが、彼曰く、「自由に、好きなように、アクセルを踏んでいただきなさい、、と伝えられています」とのこと。

僕はその伝言を有難く受け入れ、アウトバーンを全開で走った。スピードメーターの針が200km/hを超えたことを覚えている。

55年生まれの507で追い越しレーンを走り、最新(85年頃)のメルセデスやBMWの高性能モデルと並走し、追い越しもした。

オープンで走ったので、コクピットに巻き込む風はかなりすごかったはず。高速域でのスタビリティも十分ではなかったはず。だが、ネガティブなことはまるで覚えていない。

「ミュージアムから引き出した507でアウトバーンを自由に走る!」、、という夢物語に浸りきり、ただただハッピーなだけだったということだろう。

そんな経緯もあってか、Z8を初めて見た時、僕はすぐ507を思い出した。そしてイメージを重ねていた。Z8のプロポーションは明らかにクラシックなものであり、507を思い出させるものだった。

そのことをBWWに問うと、「デザインモチーフは507」であることを明快に、というか、誇らしげに認めた。

Z8には507ほどのエレガントさはない。その代わり、ダイナミックであり、エロティックともいえる雰囲気 / 佇まいを持つ。端正かつ抑制の効いたセダンやクーペのイメージとはかなり違う。

すでに触れたように、初めてZ8に乗ったのはLA。明るくて、おおらかで、カラフル、そして豊か、、そんな背景にZ8はよく馴染んだ。

巨大なアメリカ車の中に混じっても埋もれない存在感を示し、とても官能的にも見えた。

好き嫌いは分かれるかもしれないが、、クラシックとモダンが溶け合ったインテリアは個性的だ。

ソフトトップはもちろん電動式。幌を上げた時の居住性と耐候性は万全。ただし、オープンにした時の、コクピットへの風の巻き込みはかなりのもの。髪の乱れを嫌がるようなガールフレンドを誘った時は、トップを閉めるしかない。

ロールバーに取り付けるネットタイプのウィンドウディフレクターもあるが、あまり効果はない。

僕は風が好き。なので、LAのフリーウェイを走りながら、カントリー路を走りながら、南カリフォルニアの風を大いに楽しんだ。

スリーサイズは4400×1830×1315mm。

5ℓV8は400hp/500Nm。6速MTとの組み合わせで、250 Km/h(リミッター作動)に達し、0~100km/hを4.7 秒で走り抜ける。23年前には、間違いなく超弩級のスーパースポーツだった。

スペック表を見ていて驚いたのは重量。たったの1585kgでしかない。この軽量さが、Z8の様々なパフォーマンスに少なからぬプラスをもたらしていたのは間違いない。

軽量にするために採用したのはアルミスペースフレーム。その結果、同じ5ℓV8を共用するBMW M5より200kg軽くなっている。

オープンモデルながら、高いボディ剛性が確保できたのも、このアルミスペースフレームあってのことだろう。

Z8はMTしか用意されなかった。だが、たとえ渋滞に出会っても、フレキシブルなV8はドライバーの負担を最小限に抑えてくれる。

例えば3速以下なら、700~800rpmといったアイドリング領域の回転数でスルスル走る。そこから踏み込めば実用的な加速もする。

クラッチも、並の脚力の持ち主なら、渋滞でも耐えられる程度の重さ。しかも、つながりはスムースでありながら、ストロークは短くメリハリもある。

ちょっとラフな鼓動感と低く野太い音は「強さ!」を実感させるし、0~100km/hを4.7秒で駆け抜ける加速は「熱い!」。

LAの街でも、フリーウェイでも、山岳エリアでも、Z8は扱いやすく、楽しく、そして刺激的だった。

タイヤはBSポテンザのランフラット。ランフラットをもっとも早期に装着したクルマだったが、不快なショックや振動は見事に封じ込められていた。これには驚いた。

ちなみに、僕が2003年に買ったBMW Z4もランフラットを採用していた。だが、Z8とは対照的に「ひどい乗り心地」だった。

ハンドリングも上々。素直でナチュラル。「シャープな身のこなしを意図的に演出する」といったものではなく、あくまでも基本性能を追い求めた結果としてもたらされたものだ。だから、懐が深い。

DSC(ダイナミック スタビリティ コントロール)が装備されていたが、介入ポイントはたっぷり余力を残したところ。

なので、空いた山岳エリアなどではDSCをカットして走ったが、限界領域の挙動はコントロールしやすい。わずかにリアを滑らせながら、ニュートラル感覚で中速コーナーを抜ける、、大いに楽しませてもらった。

ただ、一点だけ気に入らないところがあった。ブレーキだ。日常走行にはむろん支障などない。だが、ホットなスポーツ走行領域に入るといまいち物足りなくなる。

「一流のスポーツカーには一流のブレーキ性能がマスト」、、これは僕の持論であり、譲れない。なので、けっこう残念だった。

Z8は一級の性能を持ちながら、誰もが乗りやすく、日常性も高い。なので、もしATモデルがあったら、人気も、販売台数もグンと上がったのではないか。

もちろん、BMWもそれはわかっていたはず。でもそうしなかったのには、BMWなりのスーパースポーツへの拘りがあったのだろう。

でも、アルピナ版Z8はATが許された。というより、アルピナ版Z8にはATしかなかった。ちょっと不思議な話ではある。

エンジンがいつまで生き続けられるかはわからない。でも、「もしも終わりがあるのなら」、BMWにはお願いしたいことがある。

どこよりも魅力的なエンジンを創り続けてきたBMWには、、その集大成となるような、、後々まで語り継がれるようなエンジンで最後を締めくくってほしい。

そして、そんなエンジンを積むモデルに、僕は「Z8」を指名したい。BMWエンジンの記憶を永遠に遺すという意味で、「Z8 999」といったネーミングもいいかもしれない。


● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト


1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

クルマ好き必見!! 溝呂木先生の参加する作品展開催

溝呂木陽水彩展2022
~ルマンクラシック2022 in watercolor~


年に一度、2003年から溝呂木先生が続けている個展の季節がやってきました。今年のテーマは7月に訪ねたルマンクラシック2022。このところ描きためているルマンクラシックの車たちです。パリで描いた水彩画も展示するそう。25-30点ほどの水彩画、模型、その他いろいろ展示されるので、みなさまぜひ訪れてみてください。

開催日/10月21日(金)~26日(水) 会期中無休 毎日在廊
時間/12:00~19:00
場所/原宿ペーターズギャラリー
住所/東京都渋谷区神宮前2丁目31-18
TEL/03-3475-4947

こちらの記事も如何ですか?
● RX-7とはいかに素晴らしいクルマだったのか?


Club LEONの最新情報から人気・最新記事などお得な情報をお届け! 

LEON.JP公式ニュースレター

【キャンペーン】マイカー・車検月の登録でガソリン・軽油7円/L引きクーポンが全員貰える!

こんな記事も読まれています

【ファイヤー!】1,365馬力では物足りない?エンジンチューンナップで大失敗「BMW M4」ドラッグレーサーが煙に覆われる・・・
【ファイヤー!】1,365馬力では物足りない?エンジンチューンナップで大失敗「BMW M4」ドラッグレーサーが煙に覆われる・・・
AutoBild Japan
【利便性向上と選択肢拡大】 2025年モデル発表のランドローバー・ディスカバリー・スポーツ 新グレード導入
【利便性向上と選択肢拡大】 2025年モデル発表のランドローバー・ディスカバリー・スポーツ 新グレード導入
AUTOCAR JAPAN
ブラックでコーディネートされた「焚き火台4点セット」が MOMTAG から発売!
ブラックでコーディネートされた「焚き火台4点セット」が MOMTAG から発売!
バイクブロス
車中泊に最適&最強! 日産の「巨大ベッド搭載車」が完成度高すぎ! 「キャラバン マイルーム」何がスゴい?
車中泊に最適&最強! 日産の「巨大ベッド搭載車」が完成度高すぎ! 「キャラバン マイルーム」何がスゴい?
くるまのニュース
日本でドゥカティの世界にどっぷり浸かる1DAYイベント『DUCATI DAY 2024』開催
日本でドゥカティの世界にどっぷり浸かる1DAYイベント『DUCATI DAY 2024』開催
バイクのニュース
【ゴールデンウィーク渋滞予測2024】全国の道路別・渋滞予測まとめ!
【ゴールデンウィーク渋滞予測2024】全国の道路別・渋滞予測まとめ!
くるくら
PHEVモデル促進へ レンジローバー・イヴォーク2025年モデル発表 価格改定とオプション見直し
PHEVモデル促進へ レンジローバー・イヴォーク2025年モデル発表 価格改定とオプション見直し
AUTOCAR JAPAN
先代からはデザインを一新!! 7代目セリカは中古平均価格80万円も190馬力って十分すぎない???
先代からはデザインを一新!! 7代目セリカは中古平均価格80万円も190馬力って十分すぎない???
ベストカーWeb
ベントレー最後のW12!「バカラル」「バトゥール」に続く第3の特別仕様車のディザー映像を公開! 5月7日の正式発表が待ち遠しい
ベントレー最後のW12!「バカラル」「バトゥール」に続く第3の特別仕様車のディザー映像を公開! 5月7日の正式発表が待ち遠しい
Auto Messe Web
フィアット500(チンクチェント)に新グレードを追加。オシャレなブルーの限定車も発売
フィアット500(チンクチェント)に新グレードを追加。オシャレなブルーの限定車も発売
Webモーターマガジン
福岡の春祭り「博多どんたく」に花自動車が彩り 5月2-4日
福岡の春祭り「博多どんたく」に花自動車が彩り 5月2-4日
レスポンス
トヨタのスゴい「小さな高級車」現る! 6連スロ&MT搭載の「コンパクトFRセダン」 羊の皮を被った狼とは
トヨタのスゴい「小さな高級車」現る! 6連スロ&MT搭載の「コンパクトFRセダン」 羊の皮を被った狼とは
くるまのニュース
特定小型原付「SS1」対象のショッピングローン取り扱いがスタート!
特定小型原付「SS1」対象のショッピングローン取り扱いがスタート!
バイクブロス
『スカイラインGT-R(BCNR33型/1997年編)』2年連続の逸冠を喫してしまった熟成版【忘れがたき銘車たち】
『スカイラインGT-R(BCNR33型/1997年編)』2年連続の逸冠を喫してしまった熟成版【忘れがたき銘車たち】
AUTOSPORT web
アオシマの1/12 完成品バイクシリーズに「Yamaha Vmax」が登場!
アオシマの1/12 完成品バイクシリーズに「Yamaha Vmax」が登場!
バイクブロス
2024年ル・マン24時間の詳細スケジュール発表。ハイパーポール進出は各クラス8台、スタートは16時
2024年ル・マン24時間の詳細スケジュール発表。ハイパーポール進出は各クラス8台、スタートは16時
AUTOSPORT web
カーエアコンの「フィルター」なぜ価格がピンキリ? 「交換フィルター」高い・安いで何が違う? 交換時期の目安は?
カーエアコンの「フィルター」なぜ価格がピンキリ? 「交換フィルター」高い・安いで何が違う? 交換時期の目安は?
くるまのニュース
「“普通二輪免許”で乗れるトライアンフ」の魅力とは? アンダー70万円のプライスタグだけじゃない!「スピード400」は走りもスゴかった
「“普通二輪免許”で乗れるトライアンフ」の魅力とは? アンダー70万円のプライスタグだけじゃない!「スピード400」は走りもスゴかった
VAGUE

みんなのコメント

3件
  • ヤフコメ民のマルコム・セイヤー、急にヤフコメ欄から居なくなったけど死んだのか?ざまあみろ!笑笑
  • 発売当時は不人気で一代限りで消えたのに今ではプレミア価格って希少性のおかげですね。

    ちなみに初代シルビアのデザインはゲルツ氏のデザインをもとにした日産の社内デザインというのが今では定説です。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

BMW Z8

4.4 5件

新車価格(税込)

1660.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

2358.04390.0万円

中古車を検索
Z8の車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1660.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

2358.04390.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村