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ドライバーvsコンピュータ! F1チームはどちらの”意見”を信用するべきなのか?

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ドライバーvsコンピュータ! F1チームはどちらの”意見”を信用するべきなのか?

 F1はドライバー同士の戦いというイメージを持っている人もいるかもしれないが、データが大いに重視される。マシンのパフォーマンスは厳密に数値で示されるため、各チームはテレメトリーやデータ分析、シミュレータなどを駆使している。これら大量のデータを遅延なく処理するために、最新式のコンピュータ・システムに、多額に資金を投じている。

 マシンがどれだけ変わっても、物理の法則は変わらない。そのため、最適なセットアップを見つけるための鍵となるのは、データに基づいた数字である。そしてコンピュータが進歩するに連れ、扱えるデータは増していく。チームはできるだけ多くのデータを収集し、数値でセットアップを決定する。そのため、セットアップの精度は時々刻々進歩している。

■シーズン前半戦奮闘の角田裕毅、フィジカル面の課題は完全に克服「今がキャリアで最も良い状態」

 エンジニアとドライバーは、マシンのパフォーマンスを最大限に高め、システムに予期せぬ事態が発生したり危険が起きる可能性を最小限に抑えるべく、コンピュータの指示に従っている。コンピュータが「ノー」と判断すれば、その選択肢が実行されることはない。

 しかし2022年にF1マシンのレギュレーションが大きく変更され、グラウンド・エフェクトカーが”復活”すると、コンピュータが弾き出したデータと、実際にコース上を走るために最適な状況の間に乖離が生じ始めている。

 その最も大きなものは、昨年話題となったポーパシングだ。コンピュータの計算上では、最大限のダウンフォースを発生させるためには、地面からできるだけ近いところを走った方がいいという結論だった。しかし実際にそれを再現してしまうと、フロア下の空気が抜けたり、詰まったりすることでダウンフォースの発生量が安定せず、マシンが激しく上下動するポーパシングが発生してしまうことになったのだ。

■コンピュータを信用しすぎたために発生したポーパシング?

 この現象に特に悩まされたのは、2021年までのチャンピオンチームであるメルセデスである。メルセデスのチーフ・テクニカル・オフィサーであるマイク・エリオットは、次のように語った。

「古いレギュレーションに戻れば、我々は置きたいところにマシンを置くことができる。サスペンションの動く量が大きく、コーナーでのバランスを整えることができたのだ。その剛性によって制限されることなく、空力性能がレギュレーションのどこに隠れているのか、それを追い求めることができた」

「今のマシンは、空力的に路面に近いところを走った方が良いと考えている。ただ路面の近くを走らせる場合には、サスペンションを硬くする必要がある。それが、我々が昨年陥った罠のひとつだ」

 FIAは多くのチームがポーパシングに悩まされたことで、フロア端の高さを15mm引き上げるようレギュレーションに手を入れ、ポーパシングが発生するリスクを軽減させた。

 実際にコンピュータは、現行のマシンを走らせるための最適の方法は、マシンを低く、硬くすることだと算出しているという。そうすることで、ダウンフォースの発生量が最大化され、マシンが最適な状態になると指摘するのだ。

 しかしこれはあくまで理想論であり、現実の状況と完全に一致するわけではない。また、サスペンションを硬くすることで、サーキットには当然のように存在する段差や縁石をクリアするのに苦労する。その上、タイヤのデグラデーションやドライバーが自信を持つことができるか……という部分に影響を及ぼす可能性もある。

■コンピュータを信頼すれば、一番速く走れる。しかし……

 この状況について、マクラーレンのチーム代表であるアンドレア・ステラは次のように説明する。

「データが何を物語っているかという点について話すと、それは風洞実験で作られる空力マップを意味する。これを空力シミュレーションで試すと、それが1周を通して最適な車高であり、最大のダウンフォースを発生し、最速のラップライムで走れることが分かる」

「そうすると、セットアップを非常に硬くする可能性がある。そうすれば、適切な車高を維持できるからだ。そのレベルの剛性を保つと、バンプなどで適切なパフォーマンスについて妥協する必要がある」

「ラップタイムに対する乗り心地の影響を考慮するために、その後シミュレーションにかける必要がある。そうなると、事態は複雑化していく。そしてシミュレーションでの走行と、実際にコースを走るドライバーの感覚とが、完全に一致しない可能性もあるのだ」

「マシンを実際にコースで走らせる時にも、ある程度の調整が必要だ。グリップ力が非常に高い状況なら、少し硬めのセットアップでも問題ない。でも、グリップ力が低い場合には、より柔軟なセッティングにする必要がある」

「これらのことは、どのチームにとっても通常の活動だと思う。そして間違いなくシミュレーションでは、実際にコースを走るよりも硬いマシンで走らせることになるだろう」

■サインツJr.のフィードバックを重視しはじめたフェラーリ

 このコンピュータで算出された方程式に加えるべき要素のひとつ、それはドライバーだ。現在のマシンは、前述の通りセッティングを硬くしていることで、ドライブしやすいクルマであるわけではない。つまり、データで示されるセットアップの最適なアプローチが、ドライバーが望むモノと一致しない場合があることを意味する。

 そんな中フェラーリは今、データに頼るだけではなく、カルロス・サインツJr.のフィードバックも積極的に取り入れているという。

 コンピュータが算出したデータを完全に参考にするのか、あるいは無視してドライバーのニーズに応えるのか。その難題こそが、今年のフェラーリの一貫性の低さを解決する糸口であるかもしれない。

 フェラーリは今季マシンSF-23に存在する欠陥を発見。このマシンは1周では素晴らしいパフォーマンスを披露するものの、レースを走るとなると苦戦することになった。その問題解決を追求した結果、ベルギーGPでは表彰台に返り咲くことになった。これは、問題解決に向けた答えが見えつつあるということと関係がゼロではないだろう。

 シーズン初め、チームは理論的にはもっとも速いはずの、車高が低くてサスペンションの硬いセットアップのマシンを走らせた。しかしサインツJr.からは、コンピュータのデータを無視し、より車高を高くし、より柔軟なサスペンションにしようという要求があったようだ。

 サインツJr.の要求に従えば、理論上での最大限のダウンフォースを発揮できないなどといったマイナス面も当然生じる。しかし、ドライバーが安心してマシンをコントロールできるようになったり、ハンドリングが向上することでタイヤのデグラデーションが抑えられるなど、マイナス面を補うだけのメリットもあった。

 データよりもドライバーからのフィードバックを信頼するというこの変化は、チームにとっては大胆な一歩。しかし、現時点ではデータを無視することはできない。

 ただその反面、ドライバーのフィードバックを得て、それをコンピュータに落とし込んでいけば、データの精度が上がっていき、さらにデータと現実世界の乖離を縮めていく道筋に繋がるはずだ。

 フェラーリのジョック・クレアは、次のように語る。

「これは、我々がどの方向に進むのかを決める必要があるもののひとつだと思う」

 そうクレアは語った。

「その自信のレベルがどんなモノをもたらすのか……シミュレータでは正確な情報は得られない。本当に忠実なドライビングシミュレータを得るためにはどうすればいいか……それがおそらく次の展開になるだろう」

「そうすれば、その開発を推進できるようになる。現時点では、『多くのダウンフォースを発生させることができるけど、計算上はおそらく運転しにくいだろう』ということについて、判断を下す必要があるんだ」

「その答えを教えてくれるのはドライバーだけだ。シミュレータ、タイム、そしてフィードバックの組み合わせに頼らなければいけない」

 F1の世界は目まぐるしく進化している。現時点ではまだ、シミュレータとドライバーの感覚の間には乖離が生じている。しかし、その乖離はいずれ埋められることになるはずだ。そして最終的には、全てがデータで判断できる時がやってくるはずだ。

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