目利きドライバーの支持を集めたACカーズ
90年ほど前の英国は自由だった。購入したてのスポーツカーをショールームで受け取り、そのままレースへ向かったドライバーも少なくなかった。真新しいフレイザー・ナッシュやジャガーの前身、SSカーズが、慣らしも終わらぬまま自走で会場へ走った。
【画像】デモ・レーサー AC 16/80 後年のアシーカと現代版コブラ 同年代の美しいクラシックも 全115枚
当時存在していたサーキットは、ブルックランズとシェルズリー・ウォルシュ程度。自動車愛好家が専ら楽しんでいたのは、林道などの特設コースを走るトライアル・イベントだった。グレートブリテン島の各地で夜通し開催されるお祭りに、多くの人が興奮した。
トライアル・マシンの典型といえたのが、大容量のスラブ・ガソリンタンクと2本のスペアタイヤをボディ後方に搭載するスタイル。今回ご紹介するACカーズのショートシャシー・コンペティション・スポーツ、16/80はそのなかでも美しい1台に数えられる。
スタイリッシュで速く、お手頃だったコベントリーのSSカーズの陰になっていたことは事実。だがロンドンの西、テムズ・ディットンに拠点を置いたACカーズのマシンも、控えめなマシンを求める目利きのドライバーから支持を集めた。
搭載するエンジンは、信頼性に優れる2.0L直列6気筒。そこに外部メーカーの高品質な部品が組み合わされていた。シャシーは、SSカーズと同じルベリー・オーウェン社製だったという事実が面白い。
1935年から1939年に、職人の手仕事で生み出された16/80は42台。その内の28台が、スラブ・ガソリンタンクを搭載していたという。
ラリーやトライアル・イベントで連勝
今回の1台は、2番目に製造されている。シャシー番号はL358で、近年丁寧なレストアを受けたばかり。ブリティッシュ・レーシンググリーンのボディに合わせたグリーンのレザーで仕立てられ、ACカーズのデモ車両として活躍した過去を持つ。
クルマが完成すると顧客の1人、WE.ケンドリック氏へ貸し出され、1935年12月27日から28日に開かれたエクセター・トライアルへ出場。当時は難関として知られていたコースを走破し、初戦で見事優勝を掴んだ。
続く1936年3月には、マーガレット・アラン氏のドライブでRAC(ロイヤル・オートモビル・クラブ)ラリーに参戦。クラス優勝を遂げている。
当時のAUTOCARも、このDPD 40のナンバーを付けたAC 16/80で試乗テストを実施。動力性能などを詳しく調べている。ブルックランズ・サーキットでは、0-400m加速で135.3km/hを記録した。
1930年にACカーズを買収していたハーロック兄弟は、トライアルやラリー・イベントを理想的なマーケティング手法として捉えていた。そのため、最も過酷として知られていたランズエンド・トライアルにも参戦。勝利でその強さを証明している。
1937年3月にもRACラリーで活躍した後、16/80はAUTOCARの売買広告枠で売りに出された。走行距離は1万2552kmで、価格は330ポンド。メーカーの保証も付いていた。ちなみに新車価格は445ポンドだった。
ベスト・サウンド賞に選ばれた排気音
その広告を見たのかどうか、勝利を重ねた16/80はトライアル・イベントにハマっていたセシル・デイ氏が購入。5月に開かれたランズエンド・トライアルや、約1530kmを走るコロネーション・スコティッシュ・ラリーを戦った。
彼は助手席に妻を乗せ、1939年のランズエンド・トライアルまで積極的に多くのレースへ出場。激しい走りに16/80は耐え抜き、第二次大戦の被害も免れた。
グリーンだったレザーはブラックに塗られていたものの、シャシーもボディもオリジナルが維持されていた。トランペット付きのキャブレターに合わせて、ボンネットは加工されたようだ。
しばらくの間を置いて、1985年にデビッド・ヘスクロフ氏が16/80を購入。ヴィンテージ・スポーツカー・クラブ(VSCC)主催のトライアル・イベントへ向けて整備を加え、レザーは磨き込まれオリジナルのグリーンが顕になった。
このイベントでも16/80は優勝。壮大な排気音は、ベスト・サウンド賞にも選ばれた。幾度もタフなコースへ挑んだ彼は、1995年に引退を決意。友人のナイジェル・フィリップス氏へ跡を継いだ。
フィリップスは英国の航空機メーカーを経て、クルマの特装を手掛けるロッド・ジョリー・コーチビルディング社でキャリアを積んだ職人。「8年間、素晴らしい仕事に携われました」。とこれまでを振り返る。
「MGミジェットとMGBを所有してきましたが、コーチビルダーでの仕事が戦前のクルマへの関心を呼び起こしたんです。デビッドさんは仕事仲間で、ACカーズに対する情熱のきっかけにもなりました」
再燃したクラシックカーへの情熱
「PDP 40の16/80は、ショートシャシーとして最初に作られたモデルで、戦前のトライアルやラリー・イベントで大活躍しています。デビッドさんは購入後にVSCCのレイクランド・トライアルへ参加し、一緒に素晴らしい旅を体験させてもらいました」
「これが見事な歴史を持っていることも知っていました。いつか自分もACカーズを所有したいと、考えるようになったんですよ」
フィリップスは自らのビジネスを立ち上げ、家族との時間も優先するため、2014年まではクラシックカーへの情熱を沈めてきた。それらが落ち着くと、再び過去の思いに火がついたらしい。「その頃には、ACカーズを購入できる余裕も生まれていました」
「候補は、ある程度の実用性も兼ね備える英国車。フレイザー・ナッシュやラゴンダ、アルヴィスなど、多くのブランドを考えました。デビッドさんが、自身の16/80を提案するまで」
「彼のACカーズは度重なるトライアル・イベントを経て、ガレージに眠っていました。基本的にオリジナル状態でしたが、エンジンブローしていて新しいエンジンブロックが必要な状態。良い提案だとは思いましたが、冷静に判断する必要はありましたね」
デビッドと取り引きが成立すると、フィリップスはトレーラーに積んで16/80を持ち帰った。しかし、レストアの方向性には数週間悩んだと回想する。「信頼性を高めつつ、ショーカーのようには仕上げたくなかったんです」
この続きは後編にて。
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