日産の昨年の販売台数の救世主がノートe-POWER。ワンペダルで加減速ができることを全面に押し出し、新感覚ドライブを展開したことで多くの消費者が「e-POWER」への関心を持ったことが大きい。そんな「e-POWER」が新たな車種への展開を始めた。それが売れ筋ミニバンのセレナへの搭載。セレナe-POWERが正式に発表になり、公道で試乗する機会を得た。いったいどんなクルマだったのか、そしてこのクルマの存在価値はいかに!? コスパにうるさい渡辺陽一郎氏がレポートします。
文:渡辺陽一郎/写真:池之平昌信
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■日産の救世主「e-POWER」をセレナに搭載
今の日産にとって、国内販売は少数精鋭だ。海外市場を重視して、ティーダ、プリメーラ、スカイラインクーペなどは廃止され、キューブやマーチも設計が古い。緊急自動ブレーキも装着されない。その結果、国内で堅調に売れるのは、ノート/セレナ/エクストレイル/デイズ&同ルークス程度に限られる。
国内のメーカー別販売ランキングも、トヨタ/ホンダ/スズキ/ダイハツに次ぐ5位にとどまる。世界生産台数に占める国内比率は、三菱が製造する軽自動車を含めても10%程度だ。残りの90%は海外で売る。この厳しい日産の国内状況に、昨年は明るい話題があった。2016年11月に発売されたハイブリッド車のノートe-POWERが好調に売れ、小型/普通車の月別販売ランキングで1位を取るなど業績を高めたことだ(編註:昨年後半は完成検査問題でガクッと売れゆきを落としたが、年間の車種別ランキングで2位を獲得)。
実際には先に述べたティーダやキューブのユーザーが、新型車の不作ぶりに呆れて仕方なくノートe-POWERに乗り換えた面もあったが、日産は喜んだ。そこで「e-POWERは意外にイケるかも」という話になり、大急ぎで開発したのがセレナe-POWERだ。
パット見はセレナと変わらないが、正面からだとグリルのブルーでe-POWERとわかる
セレナe-POWERは、ノートe-POWERのパワーユニットを移植している。発電機の作動に使われるエンジンは、ノートe-POWERと同じ直列3気筒1.2Lで、これにモーター、制御機能、駆動用リチウムイオン電池などを組み合わせた。
ただしそれぞれの性能はノートe-POWERよりも高められ、エンジンはオイルクーラーなどを追加して最高出力を7%向上させている。モーターは新旧リーフを含めて幅広く使われるEM57型だが、最高出力は136馬力、最大トルクは32.6kgmだ。ノートe-POWERに比べると25%アップした。駆動用リチウムイオン電池も容量が20%拡大されて1.8kWhになる。
今回は公道初試乗となったセレナe-POWER。今後の日産の販売台数を支える屋台骨になれるか!?
セレナe-POWERの車両重量は、e-POWERハイウェイスターVが1760kgだ。既存のベーシックなセレナハイウェイスターVセレクションに比べて70kg重く、ノートe-POWERに比べれば550kgの重量増加になる(比率に換算すれば145%)。従来のガソリンエンジン車の常識では、大幅なメカニズムの変更とパワーアップが必要になりそうだが、セレナe-POWERは制御の変更で乗り切れた。
JC08モード燃費は26.2km/Lだから、ステップワゴンスパーダの25km/L、ヴォクシー/ノア/エスクァイアハイブリッドの23.8km/Lよりも優れている。コンパクトなシエンタハイブリッドやフリードハイブリッドの27.2km/Lに近い。
■乗ってどうだ!? セレナe-POWERの魅力とは
そこでセレナe-POWERハイウェイスターVを試乗した。まず動力性能はノートe-POWERに比べると大幅に向上している。体感的には25%以上の向上率だ。駆動を担当するのがモーターだから、回転上昇に応じて駆動力を高めるエンジンよりも瞬発力が強い。
巡航中にアクセルペダルを踏み増した時の加速感は、ノーマルタイプのガソリンエンジンでいえば2.5~3Lクラスに匹敵する。これだけ加速できれば充分と感じた。モーター駆動だから加速感が滑らかで、各部の遮音を入念に行ったからノイズも小さい。セレナはミドルサイズミニバンだが、走りの質はLサイズ並みだ。
S/ECO(エコ)モードを選択すると、アクセルペダルを戻すと同時に、強めの回生充電を開始する。減速エネルギーを使って駆動用モーターが積極的に発電を行い、駆動用電池に充電する仕組みだ。効率が優れ、なおかつアクセルペダルを戻すことで強めの減速力が発生するため(従来のエンジン車でいえば、低いギヤを選んで強めのエンジンブレーキを利かせた時の感覚に近い)、アクセルペダルだけで速度を自由に調節できる。
ただし慣れないと、アクセルペダルを戻した時の減速力が強すぎる印象も受けた。この動きを好まないなら、Dレンジで走れば良いが、S/ECOモードほど積極的に回生充電しないから燃費が悪化する。このあたりが難しい。
ノートe-POWERに装着されない新機能としては、チャージモードとマナーモードがある。
チャージモードを選ぶと、エンジンが作動して駆動用電池を約90%まで充電する。この後でマナーモードに切り替えると、エンジンを停止させて、バッテリーの電気を使いながら約2.7km走ることが可能だ。深夜に帰宅する時などは予めチャージモードで充電を行い、自宅付近でマナーモードにすれば静かに走って車庫入れも行える。
また屋内の駐車場や倉庫の中を走る時も、マナーモードであれば排出ガスを発生させないからクリーンな走行が可能だ。
発表会に登場した藤本敏史さんと藤本美貴さん。二人ともセレナe-POWERの静粛性には驚いたという
試乗して意外だったのは、操舵感や走行安定性も向上していたこと。操舵感はベース車のセレナでは切り始めの反応が少し曖昧だが、e-POWERになると小さな舵角から比較的正確に車両が向きを変える。この後にカーブを曲がり始めた後も、旋回軌跡をあまり拡大させず、ベース車のセレナに比べれば良く曲がる。しかも曲がっている最中にアクセルペダルを戻すような操作をしても、後輪の接地性が削がれにくい。
ワンペダルでブレーキもかけられるe-POWER。クルマ酔いなどの軽減にもなりそう
タイヤサイズは15インチ(195/65R15)と細く、指定空気圧は280kPaと高い。タイヤの設定は燃費を重視するが、その割に走行安定性は良好だ。この点を開発者に尋ねると「走りのためにボディを補強するなど特別な対処はしていないが、1列目シートの下には、横向きに駆動用電池が搭載される。この影響でクロスメンバー(ボディの底面に配置された横向きの骨格)が強化されたような効果が生じた。また足まわりの設定は見直している」とのことだ。
乗り心地はベース車よりも少し硬いが、逆に粗さは抑えられていた。乗り心地は簡単にチェックできるから市街地で試乗した時に確認してほしいが、不満を感じることはないだろう。
■3列目は標準車より狭い!? 標準車との価格差は実質39万円
セレナはミドルサイズミニバンの中でも最高水準の広い室内を備えるが、居住性は確認したい。前述のように1列目シートの下に駆動用電池が搭載され、2列目に座った乗員の足が収まりにくいからだ。その分だけベース車に比べると、2列目のスライド位置が後方に寄り、3列目シートの足元を狭めている。
それでも車内が広いから多人数乗車が窮屈になる心配はないが、居住性がベース車と同じとはいえず、e-POWERは少し見劣りする。また1列目の下に駆動用電池を搭載したことで、運転席と助手席の間が持ち上がった。そこでトレイを設置したが、1/2列目間の移動はしにくい。
そしてベース車では2列目の中央部分が1列目の間までスライドして収納設備として使えるが、e-POWERでは前述の理由でこのロングスライド機能を設けられない。そこで2列目をセパレートタイプのキャプテンシートにした。ロングスライドが不可能なら、ベンチシートにこだわる必要もないからだ。
2列目はキャプテンシートになる。バッテリー搭載の影響で3列目の足もとは標準車比で少し狭くなる
従ってセレナe-POWERは2列目がセパレートの7人乗り、ベース車はベンチタイプの8人乗りとなる。シートの配列も含めて選び分けたい。このほかセレナe-POWERのメリットとして、安全&運転支援機能の向上もある。e-POWERにはハイ/ロービームの自動切り替え機能が備わり、道路標識をモニター画面に表示する機能は、進入禁止に加えて一時停止と速度表示にも反応する。つまり現時点では、安全装備もe-POWERが進んでいる。
価格は試乗したe-POWERハイウェイスターVが340万4160円、標準ボディのe-POWER・XVが312万8760円だ。ベースのセレナに比べるとe-POWERは46万円ほど高いが、減税額も含めると39万円に縮まる。この実質価格差を燃料代の差額で取り戻せるのは11万kmを走った頃だ。これはハイブリッドとノーマルエンジンの損得勘定では、短い部類に入る。
セレナe-POWERは、前述のようにベース車に比べて走行性能、加速の滑らかさ、静粛性も優れているので、予算に余裕があるなら積極的に選びたい。また標準ボディのe-POWER・XVを選べば、価格はベース車のハイウェイスターVセレクション(293万4360円)に近い。e-POWERを選ぶ代わりに、ボディをハイウェイスターから標準仕様に切り替える買い方も検討すると良いだろう。
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