チューブラーフレームに309psの4気筒ターボ
パワフルなエンジンと、二度見するほど長いサスペンションの組み合わせが、目からウロコな運転体験を生むことは実証されている。AUTOCARの読者なら、ランボルギーニ・ウラカン・ステラートとポルシェ911 ダカールのことをご存知だろう。
【画像】昆虫のような足さばき ノマド 2 過激なアリエルたち ウラカン・ステラートと911 ダカールも 全127枚
このレシピを、先んじて考案したといえるメーカーが、英国に存在する。グレートブリテン島南西部、サマセットに拠点を置くアリエルだ。サーキット前提のアトムを、オフロードバギー風にしたノマドは、2015年にリリースされている。
同社の実力を知る人は、チューブラーフレームでブロックタイヤを履く、ノマドの怪腕へ気づき魅了された。それから9年が経過し、Mk2へ進化する時が来たようだ。
納車待ちのリストは、既に2年以上に及ぶとか。ノマド 2は、少数精鋭の職人によって組み立てられている。1人が1台を担当する態勢で。
基本的なコンセプトを初代から受け継いでいるが、それ以外のノマド 2はまったく新しい。引き継いだ部品は、給油口のキャップと、アルカンターラ巻きのステアリングホイール程度らしい。
チューブラーフレームを構成するパイプは直径が太くなり、剛性は60%強化された。エンジンは、以前はホンダから購入する2.0L 4気筒ターボだったが、Mk2ではフォードから届けられる。マスタングにも載る、2.3L 4気筒ターボだ。
最高出力は、3段階に調整できるブースト圧を1番低くしても、263ps。最大トルクは39.1kg-mを発揮する。目一杯上げれば、309psと52.7kg-mを繰り出す。
パワーウエイトレシオは911 ターボSに匹敵
車重は715kgしかなく、263psでもパワーウエイトレシオはポルシェ911 ターボSに匹敵する。車体の寸法は、全長3220mm、全幅1850mm、全高1420mmと、驚くほど小さい。オールテレーン・タイヤが、巨大に見える。
トランスミッションは、フォード由来の6速マニュアル。挙動を読みやすい、クワイフATB社製のリミテッドスリップ・デフを介し、後輪が駆動される。
サスペンションはダブルウィッシュボーン式で、標準では、ダンパーは固定レートのK-テック社製。そこにアイバッハ社製のスプリングが組まれる。オプションで、ソフトなビルシュタイン社製や、調整式のオーリンズ社製ダンパーも選択できる。
アリエルは、サーキットやオフロードを豪快に飛ばしたいなら、オーリンズを推奨する。試乗車にも組まれていた。
Mk2では、初代以上にサスペンションのストロークが長くなり、最低地上高も高められた。繰り返される激しいジャンプへの耐性も、高まったという。それでも、本来の個性は変わらない。
「アンチスクワットとアンチダイブ性を改善し、クルマの精度が少し向上しています。従来より運転しやすくなった一方、コーナーでのロールや、加減速時のダイブの動きは失っていません」。同社のヘンリー・シーバート・サンダース氏が説明する。
複雑に組まれたチューブラーフレームのおかげで、乗り降りは少々難しい。フレームの上から飛び降りるか、パイプの間から体をねじり込むしかない。
適度に重く落ち着いたステアリングへ自信が湧く
ダッシュボードの雰囲気は、少し大人っぽくなった。空間にもゆとりがある。運転姿勢は、相変わらず完璧。シートの位置はボルトを緩めて変更できる。ペダルボックスは動かない。
運転席の正面には、カラーLCDのメーターパネル。スイッチ類が整然と並ぶ。自分がノマドと一体になったような、ピタッとハマった感覚が好ましい。
斜め前方には、ゴールドに染まったダンパーのリザーバータンクが見える。背もたれのすぐ後ろで、リアサスペンションが動く。
スタートボタンを押すと、2.3Lユニットがズバンと始動。クラッチペダルは滑らかに動き、ハードコアな見た目と一致しない。正確でしなやかな、ノマドの運転体験と重なる。
オールテレーン・タイヤを履くから、ステアリングホイールの感触は、ケータハムのように生々しくない。しかし反応は正確で、適度に重く落ち着いている。すぐに、操る自信が湧いてくる。
濡れたワインディングは、通常なら抑えて走りたいもの。フロントタイヤが不意に流れることがある。ところが、ノマド 2なら緊張感は低い。小柄だからライン取りには自由度があり、リカバリーもしやすい。
そして圧巻なほど速い。エンジンの印象を探るため、309psを開放する場面もあったが、263psでも充分すぎるほどパワフルだ。
路面がドライなら、ブロックパターンのトレッドは不足ないトラクションを生み出す。それでも、7段階から選べるトラクション・コントロールはうれしい機能。ABSも標準装備で、スタビリティ・コントロールは開発中らしい。
昆虫のような足さばき Vの字を描くような旋回
エンジンの吹け上がりはさほどシャープではなく、エグゾーストノートは低音が中心。中回転域になるとターボノイズが重なり、豊かなトルクが湧き出る。その特徴は、ノマド Mk2の個性にマッチしている。
レッドラインが迫ると、徐々にパワーはフェードアウトしていく。それでも、退屈さは微塵もない。ノマド Mk2を飛ばしていると、人生が素晴らしく思えてくる。純粋でおおらかなマシンで、地上を移動するという時間へ夢中になる。
ホイールは、16インチも選択できる。18インチでも、長大なサスペンション・ストロークと高度なダンパーが、路面の不整を吸収。その足さばきは、昆虫のようだ。
大きな荷重移動と程々のグリップ力、舞うような身のこなしを身体で覚えたら、ノマド 2の真価へ迫れる。控え目にブレーキングし、ステアリングホイールを切り、アクセルペダルを徐々に傾けていれば、穏やかなアンダーステアでカーブをすり抜けるだけ。
思い切りブレーキペダルを押し込み、手首を弾かせ、直後に右足を蹴り出す。ノマド 2は、喜んでVの字を描くように旋回してみせる。
バランスとタイミングが一致すれば、エンジンの荷重が載るリアは、フロントノーズを軸に僅かにスライド。その瞬間にトルクを展開することで、爽快な脱出加速を引き出せる。しなやかな姿勢制御で、一連を簡単に導ける。
速さを犠牲に、意のままに操る楽しさ
シャシーにはミドシップらしい安定感があり、懐が深く扱いやすい。ゆったりサスペンションが屈伸する時間で、考え、反応できる。公道の速度域でも、素晴らしい体験を享受できる。
ちなみに、3段階のブースト圧マッピングと、クワイフATBのリミテッドスリップ・デフ、トラクション・コントロールなどはオプション。シャシーの個別塗装も。試乗車の価格は、8万5538ポンド(約1652万円)だった。
アリエルは、消火システムやサーキットでのラップタイム計測ソフト、触媒バイパスパイプなどを開発中。シーケンシャル・ミッションも、選べるようになる予定だ。
確かに初代と比べると、かなり高価なマシンになってしまった。とはいえ、職人によるハンドビルドで、これに似たクルマはほぼ他に存在しない。中古車になっても、価値は殆ど下がらないだろう。
アトムも魅力的だが、ちょっとシリアス過ぎるとお感じなら、ノマド 2を検討してみて欲しい。スピードを犠牲にしつつ、意のままに操る楽しさが身近にある。英国なら、公道で没入体験できるはず。
最後に1つ。2024年の後半には、オフロードでノマド 2を解き放つ予定。どんな衝撃体験が待っているのか、今から楽しみでならない。
◯:気持ちを抑えきれないほどの楽しさ ドライバーズカーとしての素晴らしい操縦性 傷んだアスファルトを物ともしないサスペンション
△:オプションを付けると8万ポンド(約1520万円)を超える価格 3年近い納車待ち 気を抜けないオールテレーンタイヤのグリップ
アリエル・ノマド 2(英国仕様)のスペック
英国価格:8万5538ポンド(約1652万円)
全長:3220mm
全幅:1850mm
全高:1420mm
最高速度:215km/h
0-100km/h加速:3.4秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:715kg
パワートレイン:直列4気筒2267cc ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:309ps/5950rpm
最大トルク:52.7kg-m/2850rpm
ギアボックス:6速マニュアル(後輪駆動)
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