ジウジアーロの息吹も込められていた独創性が魅力な「いすゞ」のクルマたち
2000年代に入るまでは、ガールフレンドとドライブデートを楽しむときに大きな武器となったのが「スペシャリティカー」だ。ファミリーセダンなどをベースに、スタイリッシュなクーペに仕立てた「スペシャリティカー」は若者からの人気を集め、トヨタ・セリカなど人気モデルを生み出した。とくにホンダの2代目&3代目プレリュードや日産S13型シルビアなどは、いまや死語となった”デートカー”の称号を得たほどだ。そんな「スペシャリティカー」を今はトラックメーカーである「いすゞ」も作っていたのだ。
「チームタイサン」がスカイラインGT-Rなど往年の名マシンをオークションに出展
いまやセグメント自体が消滅しつつある「スペシャリティカー」だが、旧車ファンにとってはいまだに高い人気を誇る。そんな彼らから支持を集めるのが、いすゞの「スペシャリティカー」たち。その草分けとなったのが『ベレットGT』である。
1963年にデビューしたベレットは、1500ccガソリンエンジンと1800ccディーゼルエンジンを搭載するファミリーカーとしてデビュー。コロナやブルーバードをライバル車に想定し開発されたベレットは、4輪独立懸架、バケットシート、ラック&ピニオン式ステアリングなど当時としては先進的な装備を採用。このサルーン(4ドア)をベースに車高を落とし、1600ccのSUツインキャブエンジンを積むスポーツクーペとして1964年に登場したベレットGTこそ、いすゞ初の「スペシャリティカー」だった。
セダンとはプラットフォームを共有しながらも、華やかな佇まいの2ドアクーペボディを身にまとったベレットGT。国産車初となるセンターコンソールや木製リムステアリング、前輪ディスクブレーキなど走りに重きを置く装備を採用していたのが特長だ。
最高出力88psを発揮した「G160型」1600ccエンジンは、デビューから2年後にパワーアップ。「G161型」へと進化したエンジンは、最高出力が90psへアップしたほか最大トルクをアップしながらも、発生回転数の引き下げを実現している。
1969年には最上級モデルの「ベレットGTR(その後はGTタイプRに名称変更)」がデビュー。最高出力120psを発揮する「G161型」エンジンをベースとしたDOHCエンジン(G161W型)を積むベレットGTRは、ブラックマスクやツートーンカラーなど外観を個性的に仕立てていた。
デザイン性を優先しすぎてパネルは手作り
ベレットGT登場から4年後の1968年には、旧車好きの憧れともいえる「117クーペ」がデビュー。ジウジアーロがデザインした優美なエクステリアが特長の117クーペは、ベレットGTとくらべ高級パーソナル指向が強い。デザインに強いこだわりを持ちすぎたことで、発売当時はほぼハンドメイドで生産された。
1973年以降、プレス成型による生産が可能となったことで量産体制へと移行したが、旧車ファンにとって価値が高いのは過剰とも言える品質を手作業で実現していた前期型。しかし、117クーペは複数のマイナーチェンジを行いながら1981年まで生産が続けられたが、ピアッツァ登場により、その幕を閉じた。
斬新な発想で注目を集めたサテライトスイッチ
そして、1981年に登場した「初代ピアッツァ」は、117クーペ同様、ジウジアーロがデザインを手がけた美しいフォルムが魅力のスペシャリティカー。外観だけでなく、エレクトロニック・ディスプレイ・デジタルメータや空調関係やライト類のコントロールスイッチをまとめたサテライトスイッチなど、当時としては斬新で未来的な機能を揃えた内装も注目を集めたのである。
いまでもその美しいフォルムが人気のピアッツァだが、そのベースとなった「初代ジェミニ」にもスペシャリティカーが設定されていた。初代ジェミニはGMと提携(1971年)したことで生まれた、ベレットの後継モデル。元々はGMグループのオペル・カデットをベースに開発されたジェミニは、2ドアと4ドアの2タイプのボディを有した。
ベレGアールを彷彿させる1.8Lツインカムモデル
1979年追加設定されたホットモデルがジェミニZZ。このモデルには「G180型」1800ccSOHCエンジンをツインカムに換装し、電子燃料噴射装置を備えたパワーユニットを搭載。最高出力130psを誇るツインカムエンジンにより、「ベレットGTRの再来」といすゞファンから高い人気を得た。
これらの、いまだに旧車ファンの心を掴んでいるいすゞの「スペシャリティカー」は、モデルライフが長いうえ、細かい手直しこそされたが、ビックチェンジを行わなかったのが共通している。それゆえ、発売当時は販売的に大きな成功を収めることができなかったが、ファンにとって一台一台に思い入れが強く残った。
旧車ファンの根強い支持をいすゞがいまだに集めているのは、それが理由なのだろう。
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