試乗会場でズラリと並ぶマイナーチェンジ版新型ヴェゼル。どれどれ、と外観各部をチェックすると、「e:HEV Z」の18インチタイヤにはミシュラン・プライマシー4とブリヂストン・アレンザの2種類ある。ま、一般的に新車装着タイヤは複数メーカーから納入するようにしているから特に気にすることではないのだが、現行型ヴェゼルのデビュー時、18インチタイヤはミシュランだけの設定だったことが強く印象に残っていたため、「ん? アレンザも入ったんだ」と私の「気になるセンサー」がアラートを発したのだ。しかし、調べてみるとこのタイヤのチョイスには意外な秘密が隠されていたのだった。
文:梅木智晴(ベストカー編集委員)/写真:平野学
新型ヴェゼルの足元は2種類あるってマジ? 純正採用タイヤから見えたホンダのガチ開発力
マイナーチェンジを施されたヴェゼルは、従来型よりもスッキリとした乗り心地と操縦性を手に入れた
ブリヂストンのアレンザを履いたヴェゼルその「理由」とは!?
マイチェンした新型ヴェゼル、なんかパッと見た印象がスッキリ洗練されて、いい雰囲気。グレード構成が整理されて、1.5リッターガソリンエンジンを搭載する「G」(4WDのみでFFの設定はない)をボトムとして、「e:HEV X」→「e:HEV Z」(e:HEVモデルには全グレードFF&4WDが設定される)という構成だ。従来グレードとしてラインナップされていた「PLaY」は「e:HEV Z」にパッケージ仕様として設定されるようになった。また新たな仕様として、アウトドアのタフなイメージをアピールする「HuNTパッケージ」が「e:HEV X」に設定された。
最上級グレードの「e:HEV Z」のタイヤは225/50R18だ。「PLaYパッケージ」を選択してもタイヤサイズは変わらない。
ここで冒頭の話に戻るわけだが、この18インチタイヤには「ミシュラン・プライマシー4」と「ブリヂストン・アレンザ」の2種類が設定されている。
最上級グレードの「e:HEV Z」は225/50R18サイズのタイヤを装着。ミシュランのプライマシー4はマイチェン前のモデルから採用されていた
最初は基準車の「e:HEV Z」がミシュランで、「PLaYパッケージ」を選ぶとブリヂストンになるのかとも思ったのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「e:HEV Z」の225/50R18サイズにはブリヂストンのアレンザが新たに採用されているのを発見した
試乗を終えて操安担当のエンジニア氏に話を聞く。
「タイヤの違いに注目していただいたんですね。いやあ、嬉しいなぁ~」と我が意を得たり!といった表情のエンジニア氏。
標準装着タイヤの選定と併せたシャシーチューニングでヴェゼルを改良
「18インチタイヤを履くe:HEV Zでは4WDモデルにはミシュラン・プライマシーを装着し、FFモデルにはブリヂストン・アレンザを履かせています」
なんと! FFと4WDでタイヤを使い分けているのだという。そのような使い分けだとは知らぬままに試乗を終えて感じたのは、「ミシュランはトレッドがしなやかに粘るような操舵感なのに対し、ブリヂストンはトレッド剛性が高く、操舵に対しノーズの反応が機敏だな」というものだった。
この写真は「e:HEV Z」のPLaYパッケージのFF仕様。なのでタイヤは225/50R18サイズのブリヂストン・アレンザを履く
いや、これはタイヤの特性というよりも4WDとFFの特性の差異なのかな? 4WDとFF(2WD)では車重が80kg違う。当然、前後軸重配分も異なる。これらが操縦性に差異をもたらすのは当然だ。たまたま最初に乗った4WDにはミシュランが、あとに乗ったFFにはブリヂストンが装着されていたのだとこの時点では思っていたため、タイヤの差異なのか、駆動方式の差なのかがイマイチ自信を持ってつかみきれなかったのだ。
そこで再び前出のエンジニア氏。
「実は4WDはダンパーやスプリングを含め、シャシー関係は特に変更はしていないんです。いろいろな論議はありましたが、さまざまな角度から検討をして、4WDモデルの操縦性バランスは現状がベストだと判断しました。ならば手を入れることでバランスを崩すことになるので、敢えて手を入れませんでした」と。
こちらは「e:HEV Z」の4WD仕様。タイヤは従来型同様、ミシュラン・プライマシー4を履く。4WD仕様では足回りの変更はいっさいしていないという
さらにエンジニア氏は「一方、FFは操安と乗り心地のバランスに改善課題を見出していたため、まずはブリヂストンのアレンザを装着することを前提にして、タイヤとシャシーをトータルでチューニングすることにしたのです」と続ける。
改善課題として俎上に上がったのは、フロントがややバタつく場面があり、ターンインで接地荷重が抜けてアンダーステア傾向がある、という点だった。
そこでマイチェンモデルではフロントダンパーの伸び側減衰力を緩めて路面追従性を高めるとともに、縮み側減衰力をやや強くして接地荷重の乗りを高めた。これにバランスさせるようにリアダンパーの微小入力領域の動きをよくして、コツコツと突き上げるような硬さを滑らかにしたという。同時にブリヂストン・アレンザのチューニングも合わせ込んで、トータルで軽快でシュッと反応する操縦感を作り上げたのだ。
じゃ、FFモデルにミシュランを履かせたらどうなる?
純正装着タイヤ(OEタイヤ)はチューニング領域の多寡はあれど自動車メーカーとタイヤメーカーの共同で開発される。スポーツモデルなどでは「専用開発タイヤ」などと大きくアピールすることもあるけれど、現在の新車開発現場では、どんなモデルでもタイヤは「専用開発」だ。タイヤメーカーがリプレイス用(一般市販用)に開発したタイヤをそのまま採用するニューモデルなどはない。
ちなみに1.5リッターガソリンエンジンを搭載する「G」のタイヤサイズは215/60R16。ダンロップのエナセーブを装着する
今回のヴェゼルのマイナーチェンジにあたり、ホンダはe:HEVの18インチタイヤはFF用はブリヂストン、4WD用はミシュランと共同開発をしたのだ。
ではFFにミシュラン・プライマシー4を履かせたらどうなのか? 逆に4WDにブリヂストン・アレンザを履かせたらどうなのだろう。
「開発側の気持ちとしては、新車装着タイヤを装着していただきたい、という思いはあります。でも、仮にFFにプライマシー4を履いたからといって操安性や乗り心地が大きく崩れるということはありません。実際、タイヤを入れ替えた試験も実施しています」と前出のシャシー担当エンジニア氏は言う。
前後重量配分やバネ&ダンパーの合わせ込みを新車装着タイヤの開発と併せて行っているので、開発陣としては交換時にも新車装着タイヤを履かせてほしいというのがホンネだという
でも、ベストな組み合わせは新車装着タイヤだというのは開発陣の偽らざる本音だろう。そういう思いでベストな合わせ込みを作り上げているのだから。ちょっとマニアックなお話でした。
今回のマイチェンで新設定された「HuNTパッケージ」は「e:HEV X」がベースなのでタイヤサイズは215/60R16。ハンコックタイヤを装着する。もちろんこれも専用チューニングだ
【画像ギャラリー】新型ヴェゼルはタイヤで走りがガラリと変わるってどういうこと?(8枚)
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