Porsche Macan × Macan S
ポルシェ マカン × マカンS
改良新型のポルシェ マカン、試乗を通じて「無印」と「S」の価格差約160万円を検証する【Playback GENROQ 2019】
生まれ変わった虎
マイナーチェンジを受け新エンジンを搭載したマカン。今やポルシェを支える大黒柱に成長したコンパクトSUVはエクステリアやインテリアはもちろんその中身も大幅に進化した。市街地から高速、ワインディングまで走って実力を確かめた。
「ワイドなボディながら日本でもぎりぎり持て余さない絶妙なサイズだ」
今や年間25万台を販売するというポルシェのビジネスにおいて、最も欠くことの出来ないピースへと成長したのがマカンだ。その数はフルモデルチェンジ直後のカイエンをも上回り、全体の約1/3に及んでいる。そのマカンがモデルライフ中盤のビッグマイナーチェンジを受けて、日本でも販売が開始された。
ここでまず断っておかなければならないのは、新型として現状投入されているグレードはマカンとマカンS、すなわちベーシックな側からの2つのみということ。これは何も日本だけの話ではなく中国や米国も、そしてドイツでさえ同様だ。現在、欧州メーカーは新たに発効したWLTP基準燃費測定への対応で新車展開のスケジュールが滞っており、ポルシェもその影響が911やこのマカンに現れているという。
外観については大型化されたグリルと4ドットのデイタイムライトを内包したヘッドライトが顔周りの印象を違えるほか、パナメーラや911などと同じく水平に繋がれたリヤコンビランプが新型の明快な識別点となる。正直なところ、カイエンとの差異がまた不明瞭になってしまったのは気になるが、ポルシェとしてはタイカンの発表というターニングポイントを目前に、ファミリーの遺伝性をより強いものにしておきたいという思惑もあるだろう。
「全方位カメラやApple CarPlay対応などユーザビリティも進化」
内装まわりでは10.9インチのタッチスクリーンをもつマルチコントロール型のインフォテインメントシステム「ポルシェコネクト」を採用。パナメーラやカイエン、992型の911などと同等のデジタル環境を手に入れたことになる。コネクティビティにおいてはApple CarPlayにも対応していることも少なからぬユーザーにとってはメリットとなるだろう。
パッケージまわりに変更はない。4700mmを切る全長はカイエンに対する明確な差異だが、1923mmの全幅はカイエン比で60mmナローとはいえ日本で扱うにはさすがに広い。それを前方の見切りの良さでフォロー、後退時や駐車時には全方位カメラも頼れるものとなるだろう。居住性は大人4人が乗るに必要十分な空間を有している。リヤウインドウの角度が寝ているため荷室容量が小さい印象を抱くが、実際は500~1500リットルと十二分な容量を備えるものだ。
「3.0V6ターボはロングストローク化が図られた全く異なるユニット」
ベーシックなマカンに搭載されるエンジンは従来型と同様、2.0リッター直噴4気筒ターボ。欧州仕様では排出ガス規制の関係からガソリン用のパティキュレートフィルターが装着されるが、日本の法規では必要がなく、欧州仕様より7ps高い252psを発揮する。ちなみに従来型に対しては15psと20Nmの向上をみている。
マカンSの側はエンジン形式こそ3.0リッター直噴V6ターボと変わらずだが、ロングストローク化が図られた全く異なるユニットを搭載している。ポルシェは独自のチューニングを施しているが、ベースは90度バンクの間にツインスクロールタービンをホットVマウントするアウディのそれだ。従来型のショートストローク・ツインターボに対しては額面上は14psと20Nmの向上を果たしており、0-100km/h加速も5.1秒(スポーツクロノパッケージ仕様車)と、速さも地道に向上してはいるが、ポルシェ設えだった従来型の小気味よいフィーリングが維持されているかは興味深い。
「新型は低回転域と高回転域との抑揚感にメリハリが持たされた印象」
マカン、マカンS共に標準ホイール径は18インチだが、今回の試乗車は前車が19インチ、後車が20インチへと変更されていた。装着銘柄はミシュラン・ラティテュードスポーツ3と変わりはない。それに加えて可変制御ダンパーPASMが組み込まれたマンバグリーンのマカンをまずはドライブする。
先んじて海外で乗った新型マカンの大きな進化点は快適性の向上にあって、特に静粛性をはじめとした音環境には大きな変化があったと記憶していたが、それは日本の路上でも十分に体感することができる。平時も4気筒特有のビート感が若干強く現れていた従来型に対して、新型は低回転域と高回転域との抑揚感にメリハリが持たされた印象で、高速巡航などの速度域では努めて平穏だ。
「マカンSはあらゆる場面でドライブモードを弄る必要を感じないほど快活」
エンジンの出力特性には大きな変化はなく、タウンスピードでは1500rpm付近からしっかりレスポンスを示してくれるが、高速域ではさすがに穏加速でもシフトダウンを余儀なくされる。6500rpm向こうまでドロップ感のないパワーは1800kg台と車格の割には軽量なボディを気持ちよく引っ張るが、総じての印象は必要十分といったところで、ポルシェという名前に期待する余剰感には乏しい。
対すればマカンSというグレードは、それを見事に補う存在ということもできるだろう。102ps、110Nmの差は大きく、マカンSはあらゆる場面でドライブモードを弄る必要を感じないほど快活にレスポンスしてくれる。直接比較できたわけではないが、ドライバーを高揚させるエンジンのサウンドやビートという点については、僅かながら先代の側に利があったように思えなくもない。
が、緻密な回転フィールや低中回転域での静かさはそれを補える魅力になり得ていると思う。低回転域のトルク感も滑らかかつ粘り強いもので、高速道路での加減速にも高いギヤを保持したままで応えてくれる。そういう場面では11万5000円で装着できるトラフィックジャムアシスト付きのACCも有用で、燃費も含めたロングツーリングに適性も優れている。実際、今回の試乗ではマカンとマカンSとの燃費差は1割に至るか否かというところだった。
「回頭性のマカンかパワーのマカンSか。頭を悩ませることになるだろう──」
エンジンを回して気持ちよくワインディングを走らせる、そんな領域では回頭性のマカンかパワーのマカンSかで頭を悩ませることになるだろう。不意にマスを感じることのないクルマの動きの軽快さや忠実さ、旋回姿勢の良さなど、マカンにはシャシーファスターならではの自在に遊べるという高揚感がある。対してマカンSには積極的に踏んで曲げていきたくなるエンジンのフィーリングの良さ、カチッと四肢が路面を捉えるコンタクト感の強固さなどが表立って伝わってくる。もちろんそう思わせられたのは、マカンSの側により積極的な後輪差動をかけるオプションのPTV Plusが装着されていたからだろう。と、ここでもキーワードとして思い浮かぶのは、ポルシェらしい刺激はどちらにあるかということだ。
乗り心地についてはエアサスの効能は認めるも、コストや耐久性などを重視する向きにはコイル+PASMも快適性と運動性能とのバランスポイントは非常に高い。無用なインチアップを避ければ不満なく日々のアシとして機能してくれる。一方で悪路へのアプローチを考えるなら、最低地上高が230mmまで確保できるエアサスの選択肢は欠かせない。
従来型の発売時は100万円だったマカンとマカンSの価格差は、装備変更等もあってか160万円に拡がっている。日常遣いを主とすると割り切れば確かに700万円を切るマカンの選択肢は魅力的だ。一方であらゆる場面でポルシェらしい手応えを適度に感じたいのなら、相変わらずベストな選択肢はマカンSの側ということになるだろう。
REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/山本佳吾(Keigo YAMAMOTO)
【SPECIFICATIONS】
ポルシェ マカン〈マカンS〉
ボディサイズ:全長4696 全幅1923 全高1624mm
ホイールベース:2807mm
トレッド:前1655 後1651mm
車両重量:1870〈1865〉kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ〈V型6気筒DOHCターボ〉
ボア×ストローク:82.5×92.8〈84.5×89〉mm
総排気量:1984〈2995〉cc
最高出力:185kW(252ps)/5000-6750rpm〈260kW(354ps)/5400-6400rpm〉
最大トルク:370Nm(37.7kgm)/1600-4500rpm〈480Nm(48.9kgm)/1360-4800rpm〉
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前235/60R18(8J) 後255/55R18(9J)
車両本体価格:699万円〈859万円〉
※GENROQ 2019年 10月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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みんなのコメント
マカン乗るならケチらずS選んでおくのが吉。
痛々しい。
乗ってる人をついつい見てしまう。