近年大きく評価を上げた自動車メーカー、マツダ。その核となっているのがSKYACTIV(スカイアクティブ)技術と呼ばれる新しいパワートレーンと鼓動デザインで、最新のマツダ車は、この2つの核に基づくクルマ作りがおこなわれている。
その端緒が、2012年に登場したSUVの「CX-5」であり、同車は販売面でも成功を収めたほか、日本カーオブザイヤーなどにも輝き、「マツダのクルマ作りが変わった」、「最近のマツダ車は良いらしい」と評価を高めるきっかけの1台ともなった。
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しかし、今はCX-5が誕生した当時と比べると、ややマツダのそうしたイメージ・定評が薄れてきている印象もある。
CX-5誕生時と今でマツダは何が変わったのだろうか。渡辺陽一郎氏が解説する。
文:渡辺陽一郎
写真:MAZDA、編集部
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欧州メーカー流に舵切ったマツダのクルマ作り
2018年に生産終了となったプレマシー。マツダらしく走りにも定評あるモデルだったが、ビアンテと合わせてミニバンはラインナップから消滅している
クルマに対する好みはユーザーによってさまざまだが、好みが分かれるとすれば欧州メーカーで、メルセデスベンツやBMWが挙げられる。
欧州メーカーの好みが分かれるのは、ブランドの個性がハッキリしているからだ。運転感覚にも全車に通じる特徴があり、機能を表現する外観やフロントマスクも、メーカーやブランドごとに統一されている。
こうした日本メーカーのなかで、欧州メーカーのような発展を見せているのが今のマツダだ。
マツダの2000年時点での世界生産台数は78万台、国内販売台数は31万台であったが、約10年間で海外・国内ともにマツダ車の売れ行きは半減していた。
そこで生み出された復活プランが、今のマツダ車を支える魂動デザインとSKYACTIV技術だ。デザインとメカニズムを絞り込み、2005年頃から開発を開始した。
エンジン、プラットフォーム、サスペンションなどを同時に開発することで、すべてを刷新させる新しいクルマ作りに取り組んだ。
2017年時点のマツダ車種ラインナップ。左からデミオ、CX-3、CX-5、ロードスター、アテンザ、アクセラ。ソウルレッドのボディカラーなど同一のイメージを訴求
ただし、複数のメカニズムを同時に開発すれば、投資が一時期に集中するから、経営的に大きなリスクが生じる。そこで採用した方法が、マツダの「モノ造り革新」であった。開発と生産の合理化によってコストを抑え、同時開発に対応した。
デザインとメカニズムを絞り込むクルマ造りにより、商品ラインナップも変わった。ミニバンのプレマシーやビアンテ、空間効率の優れたコンパクトカーのベリーサなどは、すべて生産を終えた。
魂動デザインとSKYACTIV技術に基づく車種ラインナップは、いずれも走行性能が優れ、外観は格好良く、クルマ好きのユーザーに適した商品だ。いい換えればミニバンのプレマシーなどは、新しいマツダ車の性格に合わないから廃止された。
魂動デザインの外観は、フロントマスクの形状も含めて、マツダ2からCX-8まで共通化されている。マツダのホームページの「カーラインナップ」を開くと、同じクルマがたくさん並んでいるように見える。これは狙い通りで、マツダ全車に通じる魂動デザインをストレートに表現したわけだ。
初代CX-5で始まった新しいマツダは成功しているのか
2012年登場の初代CX-5。このモデルがいわゆるフルSKYACTIVの第一弾とされ、2013年には年間3万8520台を販売
魂動デザインとSKYACTIV技術に基づくクルマ造りを最初に確立させたのは、2012年2月発売の先代CX-5であった。同年11月には、現行マツダ6(アテンザ)も登場して、車種をそろえていった。
マツダ車の売れ行きを振り返ると、魂動デザインとSKYACTIV技術を確立する前の2010年は、世界生産台数が131万台、国内販売はOEM軽自動車を含めて22万台だった。
CX-5やマツダ6を発売した2012年は、世界生産台数が119万台/国内販売台数は22万台に下がっている。
しかし、2013年には126万台/23万台に回復して、2015年は154万台/25万台、2017年は160万台/21万台、2019年は149万台/20万台と推移している。
このように見ると、世界生産台数は2010年が131万台、2019年は149万台だから、魂動デザインとSKYACTIV技術の採用で18万台増えた。比率に換算すれば14%増加している。
逆に国内販売は、2010年が22万台、2019年は20万台だから2万台減った。比率にすれば10%のマイナスだ。
つまり、マツダの新しいクルマ造りは、海外では成功したが、国内ではあまり高く評価されていない。先に述べたとおり、2010年の時点では、ミドルサイズミニバンのプレマシーとビアンテ、さらにLサイズのMPVも販売されていた。
コンパクトカーのベリーサ、ロータリーエンジンを搭載するRX-8もあり、これらの廃止が販売低下に結び付いた。
現在のCX-5はなぜ以前より台数が減っている?
2019年発売のCX-30。CX-3とCX-5の間を埋める車格で、なおかつ全高は低く、使い勝手も良いのが特長。それがCX-5のユーザーと一部重なっていると渡辺氏は指摘
魂動デザインとSKYACVTIV技術に基づく今のマツダ車で、代表的な存在はCX-5だ。
誕生翌年の2013年には日本国内で3万8520台(月平均で3210台)を登録。2015年には2万7243台(同2270台)に下がったが、2016年12月に現行型へフルモデルチェンジされ、2017年には再び4万1622台(同3469台)に増えた。
当時の販売店からは「堅調に売れた先代CX-5のお客様が新型に乗り替えている。またフォルクスワーゲンなど、欧州車のお客様がCX-5を購入されるケースもある。先代CX-5に注目しながら、様子を見ていた他メーカーのお客様が、2代目にフルモデルチェンジしたのを見計らって購入されている」というコメントが聞かれた。
この後もCX-5は、2018年に3万8290台(3191台)を登録したが、2019年には3万1538台(2628台)に下がった。2018年比で18%減っている。2019年にはマツダの国内販売が前年比7.8%のマイナスとなったが、CX-5の減り方はそれ以上だ。
CX-5の登録台数が下がった背景には、複数の理由がある。
まず2019年には、マツダ3とCX-30という新型車が加わったことだ。特にCX-30は、CX-3とCX-5の中間的なサイズのSUVで、日本の市場環境に合っている。
売れ行きも堅調で、1か月に3000~4000台を安定的に登録している。CX-5は少なからずユーザーを奪われ、2020年の1か月の登録台数は2000~3000台だ。
CX-30にユーザーを奪われた理由として、CX-5の価格が以前に比べて高まったこともある。先代CX-5の後期型(2016年)は、2.2Lディーゼルターボを搭載する「4WD・XDプロアクティブ」が316万4400円だった。
それがフルモデルチェンジを経た今は、同じグレードが340万4500円になる。安全装備が充実して商品力と価格が高まり、2%の消費増税も加わって割高感が強調された。
筋の通る値上げだから不満はないが、人気の高いディーゼル搭載車の大半が300万円以上になると、感覚的に先代型の買い得な印象は薄れてしまう。
CX-30の価格は1.8Lディーゼルターボの「4WD・XDプロアクティブ」が312万4000円だ。ボディとエンジン排気量はCX-5より小さいが、外観デザインと基本設計は新しい。
CX-30の価格をCX-5と比べると、「4WD・XDプロアクティブ」同士の比較で28万円程度の違いだ。それでもCX-30の外観や運転のしやすさに魅力を感じるユーザーは少なくないだろう。このような経緯もあって、CX-5の売れ行きが下がった。
大きく変わったマツダを取り巻く環境
2017年にモデルチェンジして販売された現行モデルのCX-5。SUVは以前にも増して車種も増え、激戦区となっており、他社との違いや優位性を打ち出すのは至難の業だ
また、CX-5の属する全長が4500~4600mm、売れ筋価格帯は280~340万円というミドルサイズSUVは、人気も高く競争が激しい。RAV4、エクストレイル、フォレスターという具合に強豪がそろう。
このほか直近では、コンパクトSUVのライズも加わり、登録車の販売1位になった。「CX-5のようなミドルサイズSUVではなく、コンパクトなライズで充分」と考えるユーザーも増えているだろう。
以上のように、CX-5を含めてマツダを取り巻く市場環境は大きく変わっている。先代CX-5が発売された2012年頃に比べると、今では目新しさや買い得感が薄れた。当時売られていたミニバンも廃止されている。
今のマツダ車は優れた商品に成長したが、車種のラインナップ、価格、売り方などでユーザーの気持ちを逆なでしている。非常に惜しいところで失敗しているわけだ。
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