いよいよ7月9日にデビューを果たしたダイハツの新型タント。
本誌おなじみの流通ジャーナリスト遠藤徹氏によれば、商品説明で現物を見た首都圏ダイハツディーラーの営業担当者も「これならイケる」と大きな期待を寄せているという。
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今回の新型タントが初採用となる新開発プラットフォーム「DNGA」、全面新設計のCVT(無段変速機)「D-CVT」、着実に進化を遂げた安全パッケージの「スマアシIII」…などなど、見るべきところが盛りだくさんだ。
正式な発表、発売を前に開催された新型タントプロトタイプの事前試乗会。果たしてその進化度はいかほどか、ふたりの評論家の評価を聞いた!
〈新型タントの注目ポイント!〉
●新開発プラットフォーム「DNGA」採用
●世界初、パワースプリット技術採用のD-CVT採用
●曲げ剛性30%向上&約40kg軽量化達成
●小型ステレオカメラの改良で「スマアシIII」も進化
●スマートパノラマパーキングアシストで並列、縦列駐車に威力発揮
●新開発「DNGAエンジン」で走り、燃費、環境性能向上!
※本稿は2019年6月のものに適宜修正を加えています
文:小沢コージ、鈴木直也、渡辺陽一郎/写真:平野 学
初出:『ベストカー』 2019年7月10日号
■乗り心地のしっかり感はもはや「登録車」!
(TEXT/小沢コージ)
うーむ、相当な気合の入りっぷりじゃないの! ついに乗れた今夏登場予定の4代目タントのプロトタイプである。
今回、小沢に課せられたテーマは、「新型タントはホンダN-BOXを超えたか?」だ。
標準モデル。新世代プラットフォーム「DNGA」初採用モデルだけに開発陣の新型タントへの意気込みはかなりのもの
カスタムモデル。鈴木直也氏はパールブラックカラーでターボエンジン搭載のカスタムRSに試乗。袖ヶ浦フォレストでのインプレッションは、レスポンス、パワー感、吹け上がりのスムーズさなど、どの評価項目でも不満の出ない出来だったと高評価を与えた
なんせ2003年生まれのタントは長らく軽スーパーハイトワゴンの王座に君臨。最強ライバル、スズキが競合パレットを出しても足元にすら寄せつけなかった。
なぜならタントが初代で打ち出した全高1.7m台の常識破りの背高ボディに、開口部が異様に広い助手席側ピラーレス構造が圧倒的。あの時タントはニッポンの軽を「乗りもの」から「走る部屋」に確実に変えたのだ。
ところが2011年デビューの伏兵ホンダのN-BOXが奇跡の大逆転!
同じスーパーハイトとして外寸はほぼ同じだが、タントを上回る室内長と圧倒的質感、圧倒的な走りのよさでタントどころか、かつての軽乗用の頂点、ワゴンRをも抜き去り、軽乗用車の銘柄別販売ナンバーワンに輝いた。
それどころか以降約8年、軽トップをほぼキープするのはもちろん、昨年登場した2代目N-BOXは登録車よりも売れ今や「ニッポンの新国民車」となり、ついに小沢もマイカー購入。よって独断と偏見のオーナー目線ジャッジを請け負うことになったワケ。
さっそく袖ケ浦フォレストで試してもしやN-BOXに迫った? 一部超えたか? と思われたのはボディ全体の剛性感としっとり感だ。
4代目タントは新世代プラットフォームの「DNGA」初採用。エンジンから革新的CVTからシャシーまで一気に刷新しただけじゃない。この世代から軽のみならず、コンパクトのA&Bセグメントで共通の物作り思想を採用。圧倒的合理化を達成し、安い軽でも高い剛性、走行性能をリーズナブルに実現できている。
新開発の「DNGAプラットフォーム」
ここは確実に効いていて、乗り心地のしっかり感としっとり感はズバリ登録車並み。
同時に電動化を含む「CASE(編集部註:ケース。コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化といった技術革新群の呼称)」や新モビリティサービスのMaaS(編集部註:マース。"Mobility as a service"の略)にも対応。
プラットフォーム的にモーター搭載はもちろん、親会社トヨタの「THS」搭載まで想定し、とりいそぎ新型タントは現行先進安全機能のスマアシIII用の単眼カメラとミリ波レーダーを使いつつ自動運転性能アップ。
ベルト+ギヤで変速する世界初のパワースプリット技術を採用した「D-CVT」
高速で車線中央をキチンとトレースできるうえ、渋滞時は追従オートクルーズでの完全停止も実現。再発進に独特な手間もかかるが、半自動運転性能でも小沢所有のN-BOXのホンダセンシングを一部超えている。ホンダ流は完全停止はもちろん車線中央キープもできないのだから。
加速性能に関しては現時点でスペック不明ながらもターボ、ノンターボともにN-BOXと同等。それでいてエネルギー伝達効率のいいスプリットモード付きCVTがゆえ燃費はよさそう。発売されたらN-BOXを超えるかも?
一方、拍子抜けなのはデザインとインテリアで外観はスッキリしたとはいえN-BOXのボクシー感はないし、インパネもよくなったけどチープ。全体的にみると正直「買い換えたい」とはならない。
だが開発担当役員に聞いてわかった。「実はアチラは登録車からの買い換えも多い。生きる道が微妙に違います」。
試乗会でタントにかける意気込みを語ってくれたダイハツの開発陣の方々
同カテゴリーがゆえに走り、デザイン、質感、機能ともに競っている。だが客層もかけられるお金も実は違う。新型タントはN-BOXを超えてるけど、超えてない!? のである。
■新開発CVT採用で大幅グレードアップ!
(TEXT/鈴木 直也)
6年ぶりにモデルチェンジした4代目タントは、パワートレーン/プラットフォームに新しいアーキテクチャを導入した点に注目だ。
親会社トヨタにならって“DNGA”と名乗るこのアーキテクチャは、軽のみならずA/Bセグメントまでカバーする技術プラットフォーム。ダイハツがグローバルで担当する車種すべてをこれでカバーするワケで、まさに社運をかけた渾身作といっていい。
まずエンジンだが、NAもターボも第一印象は上々だ。発表前ということで今回の試乗は袖ヶ浦フォレストで行われたのだが、そんな環境下でも、レスポンス、パワー感、そして吹け上がりのスムーズさ、どれをとっても優等生。NAですらさしたる不満もなくスイスイとラップを重ねてゆける。
スペックを見ると、デュアルインジェクター化や集合エキゾーストポートなど、最新トレンドを取り入れながらきめ細かい改良を実施している。まるで乾いた雑巾を絞るように、モデルチェンジのたびに少しずつ性能を向上させてくることに感心させられる。
この新エンジンに加えて、新しいアイディアを盛り込んだ新型CVTがタントのドライバビリティをグレードアップしている。
ダイハツが“デュアルモードCVT”と名づけたこのCVTは、遊星ギアを使ってトルクをふたつのルートでタイヤに伝達するユニークなメカニズム。変速比幅の拡大とベルトの負荷低減の一石二鳥で、ドライバビリティと燃費をともに向上させている。
このCVTの優れた特性が、新型タントのドライバビリティに大きく貢献している。激戦区の軽自動車でライバルから抜きん出るのは難しいが、この新型エンジンと新型CVTのコンビネーションはアタマひとつ抜けた印象。ぜひ一般道でその走りと燃費をテストしてみたい。
タントはモアハイト系軽ワゴンの元祖だが、1.75mという高い全高によって操安性とのバランスをとることに苦労してきた。
このテーマに新型は80kgの軽量化と思い切ったシャシー性能のグレードアップで対処している。前述のとおり、DNGAはA/Bセグまでを視野に入れたアーキテクチャゆえ、サスペンションにもそれなりの対応が必須。シャシー剛性の強化をはじめ、足回り部品一つひとつのグレードにいたるまで、従来モデルより一歩踏み込んだ作り込みが感じられる。
重心高が高く決してサーキット向きとはいえないクルマながら、VCSがガンガン作動するような状況でもぜんぜん不安なし。タイヤのグリップ限界がそれほど高くないからVCSは早めに介入するが、そこに至るインフォメーションやステア操作による回避余力は充分に合格点。
欲を言えば、ブラシレスモーターを驕って電動パワステの操舵フィールを改善したいところだが、コストの関係でそこまで手が回らなかったようだ。
先進安全装備については、全車速ACC(アダプティブクルーズコントロール)やレーンキープアシストなど、最新トレンドはひと通り標準装備している。
ここでも、パーキングブレーキが足踏み式のため、停止維持ができないのが画竜点睛。あとひと頑張りしたらこの分野でもトップに立てたのに、惜しい!
試乗をしてくれた、鈴木直也氏(左)と小沢コージ氏
【番外コラム】 軽超ハイトワゴン市場が激変? 新型タントはN-BOXの牙城を崩すか??
(TEXT/渡辺陽一郎)
タントは人気が高く、発売から5年以上を経た今でも、販売台数はN-BOXとスペーシアに続いて国内の総合3位だ(今年4月)。
このタントのフルモデルチェンジが近づき、プロトタイプを試乗した。ライバル車のN-BOX、スペーシアと比べたい。
左が今回の新型、右は先日までの現行車
新型タントの内装は現行型より上質だが、ライバル2車を大きく上回るほどではない。特にN-BOXはメーター周辺の作りがていねいで、タントと差がつきにくい。
シートの座り心地は、現行タントでは後席が不満だ。座面の柔軟性が乏しく、床と座面の間隔も不足して、足を前側に投げ出す座り方になる。
そこを新型では床と座面の間隔を16mm広げて着座姿勢を向上させ、柔軟性も増した。プロトの座り心地は少し柔らかすぎるが、背もたれは腰を包む形状でサポート性はいい。
上が標準モデル、下がカスタムモデルの内装だ
スペーシアのシートは少し硬いが、N-BOXは体が適度に沈んで快適。タントの室内の快適性はスペーシアを少し上回り、N-BOXと同程度。
前後席の頭上と足元の空間も、タントとN-BOXは互角だ。
身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は、タントとN-BOXが握りコブシ4つぶん、スペーシアは3つ半になる。Lサイズセダンのクラウンがふたつ半だから、スペーシアを含めて充分に広い。
使い勝手では、タントに装着された左側のスライドドアに特徴がある。現行型と同様、中央のピラー(柱)をスライドドアに内蔵させ、前後両方を開いた時は開口幅がワイドに広がる。乗降性がいい。
「ミラクルウォークスルー機構」を持つのも新型タントの大きな魅力のひとつ
動力性能は、ノーマルエンジンの場合、タントは実用回転域の駆動力が増した。CVT(無段変速AT)のギヤ比がワイド化され、エンジンは少し高回転指向でも加速は滑らかだ。
現行型のパワー不足を解消した。ライバル車と比べても、タントは比較的余裕がある。スペーシアは実用回転域の駆動力が少し足りない。N-BOXはパワフルではないが扱いやすい。
DNGAエンジンは日本初の「複数回点火」などで、燃費と走り、環境性能を大幅向上させている(画像左がターボ、右がNA)
ターボはパワフルで、10.0kgm前後のトルクが幅広い回転域で持続される印象。1L前後のエンジンを搭載する感覚で運転可能でノイズも小さい。
スペーシアのターボも動力性能は充分。アクセルペダルを踏み増した時のノイズは少し粗いが、吹け上がりが活発で加速はいい。
走行安定性は現行タントでは操舵感が鈍い。高重心のボディで安定性を確保するためだ。そこを新型はプラットフォーム、サスペンション、タイヤまで新開発して自然な印象に改めた。操舵に対する反応も正確になっている。
上が標準モデル、下がカスタムモデル
たとえば車線を変える場合、ボディの傾き方は小さくないが、挙動の変化が穏やかに進むから不安定になりにくい。カーブを曲がる時はボディの内側が持ち上がるというより、外側が沈む印象。唐突にフラリと傾く不安感も抑えてある。
スペーシアは少し安定指向で車両の動きは穏やかだが、そのぶんだけ後輪の接地性が高い。N-BOXは機敏ではないが重厚感が伴い、4輪がしっかりと接地する。タントとは互角だ。
なおターボのタントカスタムRSは、足回りが少し硬い。15インチタイヤと相まって操舵感は機敏だが、乗り心地は路上のデコボコを伝えやすい。14インチは快適だ。
軽超ハイトワゴンの王者に君臨するN-BOX
スペース的にライバルよりやや不利なスズキ スペーシア
装備では運転支援機能に注目したい。
新型タントに車間距離を自動調節できるクルーズコントロールが用意され、デイズのプロパイロットと同じく全車速追従型になる。N-BOXは30km/h以下でキャンセルされ、スペーシアにはこのタイプのクルーズコントロールがないから、タントがリードする。LEDヘッドランプは、部分的に消灯して、ハイビームを保ちながら相手の眩惑を抑えられる。
以上のように新型タントは、先代型の欠点を払拭させ、居住性や走行性能はN-BOXに近い。決め手に欠ける印象もあるが、運転支援機能と安全装備は最も先進的だ。開口幅のワイドな左側のスライドドアも、依然として大切な魅力になっている。
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