日本人なら誰もが知っているあの伝統的なスポーツの大事件。とりあえずその事件は置いておこう。この企画でフォーカスしたいのは「先輩が後輩を殴り飛ばした」というところなのだ。これは人類にとって普遍的な事象なのではないか。野心ある若者が年長者にかみつき、怒られるという。こういうおもしろい、もとい、興味深い出来事に遭遇すると、クルマ界に置き換えなくては気がすまないのがベストカー。生意気な後輩を殴り倒した先輩グルマという図式がきっとあるはず! と調査に乗り出した。その成果をお見せする。
文:ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部、Shutterstock.com
ベストカー2018年1月26日号
【15年早かったクルマたち】今こそこういうクルマがほしい! 絶版車6選
■ウェイクが殴り飛ばされた事件
最近の例で最もわかりやすいのは、史上最大級の1835mmという全高で登場したダイハツウェイクが、並み居る先輩ハイトワゴン軽自動車たちに殴り飛ばされた事件ではないだろうか。ウェイクは「もうあなたたちの背は低いですよ」といって2014年に登場。タントやスペーシアなどの先輩たちを文字どおり見下しながら、「これからは俺の時代だ!」と息巻いていた。
これには先輩たちも「もしかしてやばいかも……」とアセったはず。しかし、蓋を開けてみればそれほどの勢いはないまま今に至っているという状況。相撲でいえば、鳴り物入りで角界入りした学生横綱が、前頭十枚目あたりでくすぶっているという感じか。
たしかに画期的な企画のウェイクだが、走るとなかなか乗り心地に厳しいものがある
登場後しばらくは頻繁に流れていた玉山鉄二のテレビCMもあまり見なくなり、ユーザーも意外と冷静に「ここまでの高さいらないんじゃね?」と判断。また、若干無理のある背の高さゆえ、コーナリングでの転倒を避けるためにサスペンションが固く、乗り心地に難があるという評価がされたのも土俵際に追い込まれる要因となった。
公にはされていないが、どこかの先輩たちに個室居酒屋で「てめー生意気だ!」とボコボコにされた疑惑がぬぐいきれない。今後、後輩ウェイクの反撃はあるか?
■オデッセイ以外が殴られた、5ナンバーBOXミニバン事件
今、我が世の春を謳歌している5ナンバーBOX型ミニバン。ノア3兄弟、セレナ、ステップワゴンの御三家のことだが、これらのクルマたちも後輩を殴り飛ばし続けて、今の地位を確立したとはいえまいか。「もう四角いミニバンの時代じゃないですよ」と言って出てきた後輩たちをことごとく潰してきた。
古くはイプサム、プレサージュ、ナディア、ガイア、グランディス。最近ではウィッシュ、ストリームなどBOX型にボコボコにされた乗用車型ミニバンは枚挙にいとまがない。オデッセイがしぶとく残っているが、御三家が「まぁひとりくらいは許してやるか」と、見逃してやっている雰囲気が感じられて怖い。オデッセイは盆暮れの付け届けだけは忘れないようにしないと、いつ排除されるかわからないぞ。
5ナンバーミニバンの世界はかなり怖い世界のようだ
ミニバンというジャンルはベテランが強烈に幅をきかせている世界のようで、野望を持って乗り込んでくる新参者はほぼ間違いなく潰される。前述のクルマたちのほか、2列シートで多人数乗車を目指した日産ティーノ、ホンダエディックスなどの潰されようは目を覆うばかりだ。もうひとつ言えばトヨタ、日産、ホンダの大手三社だけでこのジャンルを独占しようとしているらしく、そのほかのメーカーが参入してくると、こちらも無慈悲に殴り飛ばす。
マツダなどはそれでビアンテがやられて「もうミニバンは作らない」と白旗をあげてしまったし、かつてトラヴィック(独オペルのOEM車)で悲惨な目にあったスバルもそこには近づかない。「家族の幸せ運びます」みたいな顔をして、裏では恐ろしいことになっているのが5ナンバーBOX型ミニバン界の特徴と言えよう。
■セダン界、レジェンドをクラウンがぶっ飛ばす事件
セダンで先輩に殴り飛ばされた後輩グルマといえば、2001年に華々しく登場したトヨタヴェロッサが真っ先に思い浮かぶ。コンセプト、デザイン、そしてPR方法まで、すべてイタリア。車名からしてVERO(真実)とROSSO(赤)というイタリア語からの造語だったのだから、どんだけかぶれてんだって話。
とはいえ中身はマークIIで、その内外装をトヨタ流解釈のイタリア風にしたというクルマだったから、先輩たちも穏やかではいられない。当時のマークIIといえばサラリーマン御用達車で、すべてにおいて中庸を心がけていたクルマである。そんなところに「あなたたちはダサすぎますよ」とばかりにイタリアかぶれが登場したら、日馬富士じゃなくてもブチ切れるだろう。先輩マークIIが後輩ヴェロッサを、個室居酒屋でどんな目に遭わせたのかは想像するだけで震えてしまいそうだ。
また、セダンといえばホンダレジェンドも先輩のクラウンに殴り飛ばされ続けたクルマだ。古くはウイングターボ、最新モデルではSH-AWDと常に新しい技術を身につけ、それこそ「もうあなたたちの時代じゃないですよ」という風情で登場するのだが、そのたびに先輩クラウンにぶっ飛ばされるという悲しい運命。ホンダの高級セダンがトヨタに勝てる日はいつかくるのか。草葉の陰で本田宗一郎氏が歯ぎしりしている姿が目に浮かんでしまうのである。
レジェンドはいいクルマなのだが、そこにたちはだかるクラウンの壁が高すぎる
■ジムニーはパジェロミニを殴ったのか?
日本が誇る小型オフローダー、ジムニーにも後輩を殴り飛ばした疑惑がある。相手は三菱パジェロミニ。1994年に初代が登場、1998年にモデルチェンジし、2013年に2世代かぎりで終わってしまったクルマである。ジムニーほどの確固たる地位を築いた名車ともなれば、新参者にいちいち神経質になる必要はないはずだが、パジェロミニはその名前がまずかった。ジムニーと双璧をなすビッグネーム「パジェロ」を名乗っていたからだ。
とある街の個室居酒屋。ナリは小さいが態度が大きいクルマがいる。聞けば、世界的に有名な人物の子息だという。まだたいした実績も残していないのに、すでに何かを成し遂げたような顔をしている。そう「パジェロ」というだけで俺は特別だと思っているのだ。パジェロはパジェロでも「ミニ」なのに。
この業界で長くメシを食い、絶大なる人気と信頼を得ているジムニーとしては心穏やかではいられない。なるほどパジェロ一族だけに実力はありそうだが、明らかに勘違いをしている。どこか浮ついたところがあり、謙虚に先輩から学ぼうという姿勢が感じられないのだ。そこに危うさを感じながらも「俺も若い頃はこうだったかもしれないな」とジムニーは思う。若い力は必要だ。
かつてはパジェロミニの登場の余波を受けてか、JA12でリーフサスからコイルサスへ変更したこともあるジムニーだが……
出る杭は打たれるというような業界にはしたくない。できれば成長を見守ってやりたい。しかし、周囲から聞こえてくるパジェロミニの噂は芳しくなく、「一度先輩として、生活態度を注意してやる必要があるな」とも考えている。その時だった。酔って上機嫌になったパジェロミニは、ジムニーに対し「もうあなたたちの時代じゃないですよ」と言い放ったのだ。しかもスマホをイジりながら!
その後のことはよく覚えていない。我に返った時にはカラオケのリモコンを手にしていた。横にはシャンパンのボトルが倒れている。俺は何をした!? 目の前ではパジェロミニが頭から血を流してうめいている。まさか殴った? 俺がヤツを殴ったのか?
数分後、パジェロミニは何も言わずに店から出ていった。その後のゆくえはわからない。あれからもう5年が経つ。パジェロミニはそのまま生産中止となって業界から姿を消し、ジムニーはもうすぐ4代目にモデルチェンジしようとしている。
誰も知らない、そして、自分自身も記憶がないジムニーの後輩暴行疑惑。数年前に週刊誌が嗅ぎつけたこともあったが、決定的な証拠を見つけることができず、取材を断念したともいわれている。その真実はいまだに闇に包まれたままだ。いつかパジェロミニが復活し、あの時のことを語ることはあるのだろうか?
※ ※ ※
以上、後輩を殴り倒したクルマたちというお話でした。ごめんなさい。
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