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トランプ大統領からの衝撃波 日本車の輸出は? 環境規制はどうなる?

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トランプ大統領からの衝撃波 日本車の輸出は? 環境規制はどうなる?

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雑誌に載らない話vol.291

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世界を相手に大太刀回りを演じ、様々な問題を引き起こしているアメリカのトランプ大統領は、年末から2019年にかけて、日米物品協定(TAG)に関する協議(実質はFTA:自由貿易協定)が開始される。

日本の自動車メーカーにのしかかる関税問題

トランプ大統領の指示によりアメリカ側は、日本製の乗用車に20~25%の関税をかけるという強烈な圧力のもとで、農産品を始め幅広い業種での門戸開放、関税ゼロを要求すると予想されている。

しかし、日本は米や牛肉、乳製品などに関して関税を守り抵抗する構えで、そうなるとアメリカが主張する日本製の乗用車に対する関税が現実味を帯びてくる。いうまでもなく、20~25%の関税がかかれば日本の自動車メーカーのダメージはあまりにも大きい。そのため日本側は関税の代わりに輸出台数制限をアメリカ側に提案するのではないかといわれている。


関税か、輸出台数制限か? いずれにしても対米輸出台数が多い日本の自動車メーカーにとっては、これまでとは次元が異なる危機を迎えることになる。短期的には営業利益の半分以上が吹き飛び、長期的にはアメリカでの車両価格を高くせざるを得ず、価格競争力を失うことが予想される。日本の自動車メーカーは今後の「日米物品協定(TAG)」に関する協議を、息を呑んで待つことになる。


ZEV規制、環境政策の大幅転換?

アメリカ国内ではトランプ大統領は、これまでの民主党の政策をことごとく覆そうとしている。2018年8月、トランプ政権は自動車の燃費規制(CAFÉ:企業平均燃費)を緩和する案を発表している。これは合衆国環境保護庁(EPA)、運輸省の燃費規制を緩和することと、カリフォルニア州独自のZEV(Zero Emission)規制の撤廃を提案したのだ。

政府としての燃費規制は、オバマ政権が2012年に平均燃費を2025年までに1ガロンあたり約47マイル(約20km/L)を目指し、段階的に改善するように自動車メーカーに求めていた。もし達成できなければ罰金が課せられることになっていた。しかし、トランプ政権はこれを2020年の基準(1ガロンあたり約37マイル=16km/L)で凍結するというのだ。

政府の担当部署の環境保護庁長官は「オバマ政権の決定は間違っていた」と語り、運輸省長官は「燃費規制を緩めることで車両の価格が下がり、より安全な装備を持つ新型車が消費者に渡りたすくなり、死亡事故が減るなどと主張。燃料の消費は2~3%増えるが、大気汚染への影響は無視できるとしている。運輸長官は「より現実的な基準にすることで、新しく安全で燃費の良いクルマが普及し、健全な経済につながる」と述べている。

つまりトランプ政権は、環境政策をなくするとまでは、さすがに断言できず、大きな投資を要する電動化車両より、「より安全で燃費もほどよい、手頃な価格のクルマの普及を目指す」ということが大義名分になっている。

燃費規制はオバマ政権による環境政策の柱だったが、自動車業界は基準に不満を漏らしていた。トランプ大統領は地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」からの離脱をすでに表明しており、自動車業界の望み通りに燃費規制を緩めようというわけだ。

また興味深いのは、運輸省と環境保護庁(EPA)が試算した、ハイブリッド、マイルドハイブリッドの普及率だ。オバマ政権時に決めた燃費規制の強化を続けると2030年にハイブリッド、マイルドハイブリッドの普及率は56%に達するとされたが、今回の規制緩和により、それらは3%程度にとどまるという。つまりトランプ政権は事実上、電動化車両は必要ないと宣言したようなものだ。ただ、8月に登場した新燃費規制はまだ提案段階にあり、2018年の年末~2019年前半頃に最終決定する予定だ。

トランプ政権は、この政府の燃費規制の緩和だけではなく、カリフォルニア州の大気資源局(ARB)が勧めているZEV(排ガスゼロ)規制も認めないとしている。ARBは政府の燃費規制などとは別の、独自のZEV規制をこれまで推進してきており、他の20州も同調している。しかし、トランプ政権はそのZEV規制を否定したのだ。当然カリフォルニア州、ニューヨーク州を始めZEV規制を支持してきた州は政権案の撤回を求めて訴訟を起こす方針だ。

アメリカの自動車メーカーが抱える矛盾

アメリカ自動車工業会(AAM)は、トランプ政権の政策を支持している。アメリカの自動車工業会は、従来から政府の燃費規制とZEV規制の2重基準に反対の立場だったし、燃費規制が緩和されれば大型・大排気量のクルマを売りやすくなり、そうした大排気量車の方が利益率は高まるからだ。

ちなみにアメリカ自動車工業会には、GM、フォード、FCAのデトロイト3に加え、BMW、ジャガー・ランドローバー、メルセデス・ベンツUSA、ポルシェ、フォルクスワーゲンUSA、ボルボUSA、トヨタ、三菱、マツダが加わっている。

しかし、その一方でクルマの電動化を国家政策として推進しているのが、世界最大の乗用車マーケットである中国、そして次世代の巨大マーケットのインドだ。アメリカのデトロイト3はいずれも中国市場でのシェアを重視しており、中国の電動化政策(新エネルギー車=NEV規制)に合わせてEVを始め電気駆動モデルを投入するとしている。そのため、アメリカでは電動化を推進する必要がないとしても、中国市場向けには電動化の手を抜くことはないのだ。

ちなみに中国のNEV規制は、「中国で年間3万台以上を生産・輸入する完成車メーカーが対象で、中国での内燃エンジン車の生産や輸入量に応じて、NEVの生産実績で付与される「クレジット」を獲得しなければならない。目標は2019年に10%、20年には12%と引き上げられる。未達成の場合は他社からクレジットを購入することになる。NEV適合車両は電気自動車(EV)やPHEV、燃料電池車(FCV)などでハイブリッド車は含まれないというもの。カリフォルニア州のZEV規制をお手本とした政策だが、中国の場合は排気ガス汚染の低減と同時に原油輸入量削減の目的もある。

もうひとつ、激震をまともに受けているのがEVメーカーのテスラだ。テスラはEVモデルの販売以外に、EVクレジットの販売で300億円~400億円という大きな利益をあげてきた。このクレジットはEVやPHEVのラインアップを持たない他の自動車メーカーに対して、CO2排出ゼロ権を販売できる権利だ。

もしZEV規制撤廃となればテスラのクレジット収入はゼロになる。こんなわけで、テスラの株価は乱高下、つまり企業評価が大きく揺らいでおり、イーロン・マスクはテスラを非上場化することを模索している。

テスラだけではなく日産もリーフの販売によってクレジット収入を得ているが、もちろんZEV規制撤廃となれば、テスラほどの影響は受けないだろうが、それでも影響はある。

日本の自動車メーカーの苦悩

アメリカの自動車メーカーは、例えZEV規制が撤廃されても中国市場があるので電動化技術をストップさせる気はないというのが現実だが、日本の自動車メーカーも大きな問題に直面せざるをえない。

というのも、日本の自動車メーカーで、アメリカでシュアの高いメーカーはすでにカリフォルニアARBと様々な交渉を行なっており、それぞれの自動車メーカーごとにZEV規制に対応することを約束してきた。

例えばスバルは2019年内にPHEVを発売し、2021年にはEVを発売することをARBと約束しており、このタイムスケジュールに合わせて車両開発を行なってきている。また、2018年3月にトヨタ、マツダはこのZEV規制に対応するため、電動車の生産を本格的に行なう新たな合弁会社「マツダ・トヨタ・マニュファクチャリングUSA」の設立を発表し、この新工場を2020年に稼働させる計画だ。

当然ながら、PHEVなど電動化車両の開発も行なっている最中で、もしZEV規制の撤廃となれば、アメリカでの戦略を大きく軌道修正する必要がある。もちろん日本の自動車メーカーも中国市場やインド市場を重視しているので、電動化車両の開発を止められないのはいうまでもないのだが。

日本の自動車メーカーにとっては頭の痛い、アメリカにおける自動車関税、あるいは輸出台数制限案の問題と、アメリカでの燃費規制緩和とZEV規制がどうなるのか、いずれも、やきもきせざるを得ない大きな問題が2019年に待ち構えている。

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