2020年1月に一部の任意自動車保険料が値上げになるなど、自動車保険料が値上がりを続けている。
近年は台風や地震といった自然災害が多く発生しており、その被害による支払いなどが影響し値上がりを続けているのか? と思っている方は多いことだろう。もちろんそういった理由もあるのだが、しかしそれだけではない内情がわかった。
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今回は保険料値上げの裏にあった、今後の日本が避けて通ることができない理由についてお伝えする。
文/高根英幸
写真/Adobe Stock(japolia@Adobe Stock)
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■自動車保険料にも迫る高齢化社会の波
このところ自動車保険料が値上がりしている、と実感された方はいないだろうか。 筆者はすでに等級は20等級に達して20年以上が経過し、保険料はかなり低く抑えることができていた。しかし3年契約の保険を今年更新する際、2割近くも保険料が上昇することが判明したのだ。
具体的には2019年まで約3万7000円だった保険料(対人・対物は無制限、人身障害3000万円、車両保険はなく、個人賠償特約と弁護士特約を付帯)が、保険金の支払などの利用がないにも関わらず、約4万3000円にまで上昇した。
なぜ、優良ドライバーである筆者の保険料が値上がりしたのか? その理由を首都圏で保険代理店を営むS氏に尋ねてみた。S氏は筆者がお世話になっている保険代理店で、その知識と対応ぶりから信頼が置ける人物の一人。
そのS氏に今回の契約更新での保険料上昇について、訊いてみたのだ。
やはりここ数年、豪雨による水害が多いため水没車が続出し、その補償で保険金の支払いが増えているからなのだろうか。
近年、台風などによる豪雨災害が多く発生し保険料の支払いは増えている(Paylessimages@Adobe Stock)
「いやいや、そうではないんですよ。実はですね、高齢ドライバーの交通事故が増えていて、その保険金の支払額が上昇しているので、全体として保険料が上がってしまっているんです」
なんと、報道機関があおってオーバーに報じていると思っていた部分もあるのだが、高齢ドライバーによる交通事故の保険金の支払が自動車保険の損益を圧迫しているようなのだ。これは保険会社が公表する保険料改定の資料などをS氏が取り寄せ確認していることから、間違いないそうだ。
高齢者の事故がニュースなどでフォーカスされる昨今。報道機関があおっている…というという部分を除いても、保険料引き上げに影響しているようだ(Milan@Adobe Stock)
「保険会社としては高齢ドライバーの保険料を引き上げたいようですが、大手3社は公共性も求められるので、高齢ドライバーの保険料だけを大幅に引き上げる訳にはいかないようです。大手でも世代別の保険料が導入されてはいるんですが、あまり極端に保険料に差が付けにくい部分もあって、どうしても全体的に保険料が引き上げられています(S氏)。
だから通販型の自動車保険を販売している保険会社のなかには、高齢者の保険料を意図的に引き上げて、なるべく契約を遠慮しているようなところもあるそうだ。そんな差別ともなりそうなお客の選択をしていることは、保険会社としてどうなのか、と思われる方もいるのではないだろうか。
それは「保険」という商品に対する我々消費者のイメージからくるところが大きい。日本の保険会社は「保険=安心を提供する」という姿勢から保険商品を販売してきたことで、消費者から信頼を得て、そういうイメージを築いてきたからだ。統合、合併により日本に古くからある損害保険会社は3社にまで絞り込まれてしまったが、それらは長い伝統から公共サービスとしての保険という部分を維持しているのだ。
その点、外資系も多い通販型は、比較的新しい企業が多いこともあって、あくまで保険は金融商品という位置付けで、損保会社としての社会的責任よりも保険ビジネスという面を優先している感がある。企業規模が小さければ当然余裕は少なくなり、効率を追求することになるが、それは保険料を圧縮できるだけでなく、経営を健全にするための大きな要素だからだ。
ちなみに保険会社は、大災害などが起これば、多額の保険金を支払うことになる場合もある。そのために大手の損保会社もまた保険に入っているのだ。それでもその保険でカバーできないほどの大災害となれば保険会社は破産することもあり得る。そういった面から考えれば、大手保険会社の方が大災害時に確実な補償を受けやすい、と言えるかもしれない。
■自動車保険の保険料はどのように決められるのか
自動車保険の保険料については、損害保険協会が車両毎の料率や保険契約者の等級という制度を統一している。これは保険料算定の基準となっているだけでなく、ドライバーが損保会社を乗り換えても、これまでの実績を保険料に反映してもらえる。
同じドライバーや車種でも保険料は損害保険会社によって微妙に(あるいは大幅に)異なる。それは、保険会社毎にそのドライバーが運転することのリスクに対して異なる判断をしているからだ。それだけでなく、前述のように自社に都合がいい契約者を集めるために意図的な価格設定をしているところもある。
極端な話、保険会社としては、保険金の支払いリスクが低い契約者だけを安い保険料で集めたほうが儲かる。リスクの高い契約者は、その分高い保険料を払うことになるのだから、そっちのほうが儲かるのでは? という風に思う人もいるかも知れないが、やはりリスクが大きい契約は保険金の支払いも多くなり、長い目で見ると経営を不安定にしてしまうことになるのだ。
話を保険料の高騰問題に戻そう。高齢ドライバーの保険料高騰は、我々にとっても決して他人事ではない。自分の親や親類が高齢ドライバーとなって、交通事故を起こしたとすれば、保険会社によって手厚い補償をしてもらいたいと思うだろうし、自分もやがて高齢者になることは確実だからだ。それに高齢者だけ自動車保険の保険料が跳ね上がれば、無保険状態で走行する高齢ドライバーが増えてしまうことにもなりかねない。
そういった意味では自動車保険は、同じ保険金額までカバーする保険なら保険料が安いほどいいというモノではなく、万が一自動車保険の保険金支払を受ける必要が出てきた時に、スムーズに相手との交渉を行なってくれて、納得のいく保険金の支払をしてくれるような選択をしたいものだ。
そのためには保険会社選びだけでなく、保険会社と契約者の間に入ってサポートしてくれる保険代理店を上手く活用するのも賢い方法なのだ。
高齢者の事故が目立っているが、先の道交法改正でサポカーに運転を限定する免許証も新設された。免許の更新頻度の見直し(現在は75歳以上は3年毎に更新)など、様々な制度の改善を進めるとともに、クルマの運転支援システムで運転ミスをカバーする領域も高まっていく方向にある。
免許返納という方法もあるが、高齢者だからこそ、クルマがなくては生活ができない地域があるのも日本の実情だ(polkadot@Adobe Stock)
高齢化が進むということは、高齢者が一般的になるということでもある。高齢ドライバーから免許を取り上げることは簡単だが、高齢者が経済活動の一端を担わなくなれば、国内の景気はさらに冷え込むことになる。運転免許を持つ高齢者は、認知機能や身体能力を維持する努力をしつつ、運転を続けてもらうことも社会的には大事なことなのだ。
自動車保険はクルマ社会を支える補償制度のひとつ。損害保険会社とドライバーが一緒になって、安心してクルマを運転できる環境を維持していきたいものだ。
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