現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > クアトロポルテへの道(後編)──イタリアを巡る物語 vol.17

ここから本文です

クアトロポルテへの道(後編)──イタリアを巡る物語 vol.17

掲載 3
クアトロポルテへの道(後編)──イタリアを巡る物語 vol.17

社運をかけた5代目クアトロポルテは大成功を収めた。しかし、マセラティ社は利益をコンスタントに生み出す経営基盤を追求すべく、年間数千台の生産台数を数年で5万台、いや7万5000台に拡大するという常識外れなステートメントを発表したのだ。その先鋒となったモデルこそ、6代目のクアトロポルテであった。

常識外れのステートメントを実現させる“秘密兵器”

“テラノ”復活ではありません──新型ニッサン・テラ登場!

2003年フェラーリのもと、まさに社運をかけてデビューした5代目クアトロポルテはその使命を十二分に果たした。それは年間生産台数の変移を見て頂ければ一目瞭然である。1998年の620台が、5代目デビューの翌年にはなんと4590台を記録している。さらに2008年にはマセラティとして過去最高の8586台を達成したのだから。

しかし、前回の中編で述べたように、マセラティは利益をコンスタントに生み出す経営基盤を追求し、2005年にはフェラーリ傘下を離れ、フィアット(現ステランティス)のもとへと再び戻っていた。そう、マセラティにフィアット・グループの資金を集中的に投入しようという、願ってもないハナシであったのだ。

その指揮を執ったのが故セルジオ・マルキオンネだ。2009年にフィアットのCEOとなり、フェラーリのマネージメントにも大きく、くい込んでいった彼は、フェラーリのファシリティを上手く活用しながらマセラティに対する大胆な投資をするというプランを作り上げた。とはいっても当時のフィアット・グループに充分な資金があった訳ではないから、マルキオンネは投資家達へマセラティに対するバラ色の夢を語り、資金調達を進めた。こういったビジネス・ストラクチャー作りに関する彼の手腕は素晴らしいものであった。

いくら高額なモデルをラインナップするとはいえ、年間数千台の販売規模ではハナシにならない。そこで、彼は驚くべきプレスリリースを用意した。数年のうちにマセラティを年間5万台規模の会社へ変身させるというのだ。しかし、それだけではなかった。続けざまに、“いや、5万台なんというのは少な過ぎた。7万5000台に訂正します”という追加のリリースまで流したのだ。

その常識外れのステートメントを実現するための秘密兵器として開発が進められたのが6代目クアトロポルテであった。もちろん1930年代に起源を持つ小さなマセラティ本社工場でそれだけの台数を作れる訳がない。そこでまず彼らが手がけたのは工場を作ることであった。しかし、5年後には遅くともニューモデルを市場へ導入していなければならないというタイトなスケジュールの中、工場など作っている場合なのだろうか? そう、新たにプラットフォームから開発するニューモデルの場合、それにかかる期間は5年どころではないのが常識だ。

5年後の導入を目指し、工場設立からスタート

しかし、結果的に彼らはそれをやり遂げてしまった。まずは工場設立だが、ランボルギーニ ミウラなどが作られたベルトーネ社の本拠であるトリノのグルリアスコ工場に白羽の矢が立った。破綻したベルトーネ社の工場を買収し、アッセンブリーラインを突貫工事で全面改装した。ここが、マセラティの量産ラインとなり、シャシーやボディパネルのプレスから組み立て、ペイントなど全ての作業が完結することとなった。

エンジンはフェラーリの資源を最大限に利用した。燃費向上や排ガス対策などを考慮した新世代の直噴ターボエンジンF154Aがフェラーリと共同開発された。これは後にフェラーリ8気筒モデルに採用されるもので、生産効率も高められた将来を見据えたものだった。さらに新世代6気筒エンジンも同時に開発され、これはマセラティ専用のエンジンとなった。基本構造は前述の8気筒と同じくするモジュラータイプであるが、製造プロセスはより効率化され、マセラティの量産エンジンと位置づけられた。その製造はマラネッロにあるフェラーリのエンジンアッセンブル棟で行われたが、その中に設けられた6気筒製造ラインはフィアットにより全てがコントロールされ、いわばフェラーリの中にある飛び地のような存在であった。その成り立ちから、この6気筒エンジンがフェラーリに導入されることはないだろうと当時、予想されたものだ。

シャシー開発も急がなければならない。チーフエンジニアに任命されたロベルト・コラーディはフェラーリからマセラティに転籍したエンジニアであり、彼は先代のクアトロポルテのチーフエンジニアでもあった。このようなフェラーリとの緩やかな連携は継続していたから、資本系列が変わったとはいえ、混乱無く開発を進めることが出来た。プラットフォームの基本となる部分はFCAとしてグループ内にあったクライスラーの資源が活用されたが、ほとんどの部分は新設計であった。

新世代マセラティDNAを体現するラグジュアリーサルーン

さて、この手のラグジュアリーモデルにおいては、コンセプト・メーキングとそれが如何にスタイリングへ反映されているかが重要なポイントとなる。この点において6代目はかなり難易度が高かった。1つには、先代が確立したハイパフォーマンスでスタイリッシュな4ドアサルーンというカテゴリーは、既にブルーオーシャンではなくなっていたからだ。ドイツのコンペティター達はこのニッチなカテゴリーを充分に研究し尽くして、既に競合モデルをマーケットに送り込んでいた。そして何より、先代があまりにスタイリング面で高い評価を得ていたことも難易度を高める要因であった。さらに、先代末期から早いペースで市場を拡大してきた中国マーケットの大きな存在感というマーケットの変化も考慮しなければならない。これまでのように北米マーケットだけを見据える訳にもいかなくなっていた。こういった環境においてニューモデルの提案は相当に難易度が高かったと言えるであろう。

デザイン開発プロセスも当時、大きな変化が見られた。それまでは社内に開発全てのプロセスを包括するデザイン部門は存在せず、その多くを外部のデザイン会社(カロッツェリア)へ委託していた。先代はピニンファリーナがそのプロセスの多くを担当した訳だ。しかし、この6代目でそれは内製化され、トリノに新設されたマセラティ・デザインセンターが担当することとなった。しかし、そこは狭いカーデザインの世界だ。トップとなったラマチョッティ、チーフデザイナーのテンコーネは共にピニンファリーナにて活躍した人材であり、新組織の開発スタイルやデザイン言語は限りなくピニンファリーナに近いものであった。「ダイナミックな躍動感を出すために、複雑なラインではなく、はっきりとしてシンプルなマセラティとすぐわかるキャラクターラインをボディに描きました。そして、低くスラントしたフロントノーズとの一体感を生み出すことを目標にしました」と、スタイリング開発の総指揮をとったラマチョッティは語った。そして、まだ世界的にみて認知度が不足しているマセラティというブランドイメージを強化するためにも、先代との“キープコンセプト”戦略を取るということも併せて語ってくれた。

特にコンベンショナルなセダンのイメージを好む中国マーケットからは、後部座席への充分なスペース確保の要望が高かったこともあり、開発途中でロングホイールベース版のクアトロポルテとショートホイールベース版ギブリの2モデル開発体制で進むという決断が下された。水面下ではSUVモデルの開発も進んでいたから、先行してデビューするクアトロポルテは新世代マセラティデザインのDNAを表現する必要もあった。ヘッドライト形状や存在感あるフロントグリル、新しい意匠の3連フロントフェンダー・オーナメントなどが、その意図を反映している。

「まごうことなきクアトロポルテ」に

2013年、前述したとんでもなく高いハードルを乗り越えてクアトロポルテはついにデビューを飾った。筆者は早速、プリプロダクションに近い最初期ロットをモデナにてテストドライブした。安定感のあるシャシーとマセラティらしい荒々しいテイストを残したV8エンジン、独特のエグゾーストノートを実感し、安心したことを思い出す。“ああ、これはまごうことなきクアトロポルテだ”、と。

より量産を目指したギブリやSUVのレヴァンテといった“光り物”達に隠れて、日本では現在少々地味な立ち位置にはあるが、このクアトロポルテが新しいマセラティ・ストーリーの序幕となった味のあるモデルであることは間違いない。

文と写真・越湖信一、EKKO PROJECT 編集・iconic
Special Thanks:・Maserati S.p.A.

こんな記事も読まれています

アウディ 京都の町で「Q8 e-tron」を体感!宿泊付き試乗モニターが当たるキャンペーン
アウディ 京都の町で「Q8 e-tron」を体感!宿泊付き試乗モニターが当たるキャンペーン
グーネット
『勝てるぞ!』思わず叫んだ無線を恥じるメルセデスF1代表「感情的になり本当に愚かなことをした」
『勝てるぞ!』思わず叫んだ無線を恥じるメルセデスF1代表「感情的になり本当に愚かなことをした」
AUTOSPORT web
真空ロック付き吸盤でしっかり貼り付く!車載スマホホルダーアタッチメント シズカウィル
真空ロック付き吸盤でしっかり貼り付く!車載スマホホルダーアタッチメント シズカウィル
グーネット
日陰の駐車場を表示!カーナビアプリ「ナビタイム ドライブサポーター」に新機能【動画あり】
日陰の駐車場を表示!カーナビアプリ「ナビタイム ドライブサポーター」に新機能【動画あり】
グーネット
ポイントリーダーのサウターが2勝、レイシーが初優勝飾る/フォーミュラ・リージョナル第3大会岡山
ポイントリーダーのサウターが2勝、レイシーが初優勝飾る/フォーミュラ・リージョナル第3大会岡山
AUTOSPORT web
「トミカ」×「プロ野球」12球団勢ぞろい! 野球ボール風のオリジナルカー発売 タカラトミー
「トミカ」×「プロ野球」12球団勢ぞろい! 野球ボール風のオリジナルカー発売 タカラトミー
グーネット
新型「ディフェンダー オクタ」ついに発表!シリーズ史上最もタフ&ラグジュアリーなSUV
新型「ディフェンダー オクタ」ついに発表!シリーズ史上最もタフ&ラグジュアリーなSUV
グーネット
高額なアルファード/ヴェルファイアをなんでこんなに見かけるの? 実は残価設定ローンの残価率がすごいことになってるのよ!
高額なアルファード/ヴェルファイアをなんでこんなに見かけるの? 実は残価設定ローンの残価率がすごいことになってるのよ!
ベストカーWeb
いまや「手洗い=正義」じゃない!! 洗車機の正しい選び方、見極め方
いまや「手洗い=正義」じゃない!! 洗車機の正しい選び方、見極め方
ベストカーWeb
メルセデスがこだわる「知覚安全性」とは? 周囲のクルマや歩行者にアピールすることが安全につながるベンツ神話を紹介します
メルセデスがこだわる「知覚安全性」とは? 周囲のクルマや歩行者にアピールすることが安全につながるベンツ神話を紹介します
Auto Messe Web
【24’ 7/1最新】レギュラーガソリン平均価格、2週連続値上り 0.8円増の175.6円
【24’ 7/1最新】レギュラーガソリン平均価格、2週連続値上り 0.8円増の175.6円
グーネット
宮田莉朋の代役が決定。WECでアルピーヌをドライブするシャタンがELMSイモラ参戦へ
宮田莉朋の代役が決定。WECでアルピーヌをドライブするシャタンがELMSイモラ参戦へ
AUTOSPORT web
フォルクスワーゲン 一挙5モデル!新型モデル同時発表!「Tクロス」「ティグアン」など
フォルクスワーゲン 一挙5モデル!新型モデル同時発表!「Tクロス」「ティグアン」など
グーネット
「V8」を置き換える直6+モーター メルセデスAMG E 53 ハイブリッドへ試乗 新たな強みを獲得!
「V8」を置き換える直6+モーター メルセデスAMG E 53 ハイブリッドへ試乗 新たな強みを獲得!
AUTOCAR JAPAN
イソッタ・フラスキーニの2台目は別陣営がオペレートか「いくつかの重要なチームからリクエストが来ている」
イソッタ・フラスキーニの2台目は別陣営がオペレートか「いくつかの重要なチームからリクエストが来ている」
AUTOSPORT web
ピンクのトライトン見参! 竹岡圭がトーヨーとミツビシの支援を受けXCRスプリントカップ北海道参戦へ
ピンクのトライトン見参! 竹岡圭がトーヨーとミツビシの支援を受けXCRスプリントカップ北海道参戦へ
AUTOSPORT web
勝田が訪問先のル・マン24時間で感じた新しい視点と刺激。初挑戦WRCポーランドは難渋の8位
勝田が訪問先のル・マン24時間で感じた新しい視点と刺激。初挑戦WRCポーランドは難渋の8位
AUTOSPORT web
ウイリアムズF1、イギリスGPのFP1で育成ドライバーのコラピントを起用。サージェントのマシンをドライブ
ウイリアムズF1、イギリスGPのFP1で育成ドライバーのコラピントを起用。サージェントのマシンをドライブ
AUTOSPORT web

みんなのコメント

3件
  • マセラティ全体が、最近パッとしない印象。
    そこそこ見かけるレヴァンテすら、ひたすら地味オーラ全開である。
  • これの前のモデルはかなり好きだったけど、マセラティのクアトロポルテって値段もかなりするし、なんかこのモデルはギブりと比べると間延びしたようなデザインで、さらには信頼性とか、いまいち踏み込めない車のような気がする。
    これ買うならベントレーかAMGに行ってしまう人がほとんどじゃないかな。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1515.02569.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

79.01999.9万円

中古車を検索
クアトロポルテの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1515.02569.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

79.01999.9万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村