昔から、人を破滅させやすいものといえば「酒」「ギャンブル」「オンナ」と相場が決まっているが、不肖筆者はこれらに加えて「慢心」というものも、人間をきわめて破滅させやすいのではないかと睨んでいる。実際、東京地方が4年ぶりの大雪に見舞われた過日、己の慢心ゆえに破滅しそうになった。
インドア派だがとりあえずスタッドレスタイヤを装着
既報のとおり不肖筆者は昨年末、スバルXVなる4WD車の新車を買ってこました。だが、実は完全インドア派ゆえスキーもスノボもやらない。身体と精神が弱いので山でキャンプとかもしない。それがために、自動車ライターであるにもかかわらず雪上走行の経験とテクはぜんぜん大したことがない。
そんな不肖筆者であっても「やっぱXV買ったからには冬場はスタッドレスだべ?」とひとり社内会議で結論を出し、スタッドレスタイヤ+激安ホイールのセット品を激安通販サイトで購入。年末近くに装着してこました。
銘柄はヨコハマの「ice GUARD 5 PLUS」で、ホイールはよく知らないブランドの黒いやつ。サイズは純正と同じ225/60R17だが、ホイールのインセット量は純正とちょい異なる。総額は、なんだかんだで約12万円だった。
んで、多くの人がご存じのとおり昨年末あたりの東京は雪などいっさい降ってなかったわけだが、ついにヨコハマ アイスガード5プラスの、いやそれを履いた現行スバルXVの能力を試す機会がやってきた。
岩手遠征である。
XV+スタッドレスは(普通ぐらいの雪道なら)ほぼ無敵か?
冬の東北自動車道を行くSGP(スバルグローバルプラットフォーム)とアイサイトver.3の合せ技は、まさに破壊力抜群であった。ACCを100km/hあたりにセットしたうえで、お船の船長さん気分で舵に軽く手を添えつつ、周囲と計器類の見張りだけは決して怠らぬよう注意しておけば、あとはクルマが勝手にスイスイ走ってくれる。以前、ルノーの先代カングーで岩手遠征をした際の疲労度を100とするなら、SGP+アイサイトver.3を擁するXVでのそれは30とか、おおむねそんなもんであった。
で、雪道をガシガシ走ってみた。といっても福島県の一部や秋田県のような豪雪地帯ではないわけだが、ご覧のとおりぐらいの雪道ではある。
現行XV+ice GUARD 5 PLUSは完璧だった。
や、ぶっ飛ばしたら当然死ぬのだろうが、私は私のテクの無さを完全に自覚している。そういった自覚をちゃんと持てるというのが私の偉大なところなのだが、それはさておき、ゆっくりめに慎重に、そして雪上走行の基本(急が付く動きはしない、無理しない、イキがらない、ビビりながら運転する、車間距離を普段より長めにとるetc.)に忠実である限り、現行XV+アイスガード5プラスの組み合わせは、普通ぐらいのレベル感の雪道では「ほぼ無敵」であることが確認できた(※豪雪地帯のことは知りません)。
これが慢心の始まりだったわけだが、そのときは知る由もなかった。
大雪の日に外出する用事が。さてどうする?
なんつってるうちに東京へ帰り、1月22日がやってきた。各所のニュースでも大きく報道された「東京地方を襲った4年ぶりの大雪」の日である。
大雪になるだろうと事前の予報でわかっていたため、本来であればXVを持っていようがなんだろうが、家にこもっているのが一番の得策となる。しかしあいにくその日の夕方から夜にかけて、私はとある雑誌企画の撮影を予定していた。
ただ、締め切りが差し迫っているわけではなかったため、その気になればいわゆるリスケも可能だった。いや、リスケすべきだったのだろう。
しかし私は慢心していた。
「ううむ……オレはまぁヒマなんだけど、カメラマンさんが忙しい人だから、リスケするとなるとちょっと面倒かなぁ……。まぁ大丈夫だべ! 決行だべ! だってオレ、XVだから!」
私はフォトグラファー氏に「今日、予定どおりやります」との電子的な連絡を入れた。同時に「ご自宅までXVで迎えに行きますよ!」とも提案した。
このあたりですでに濃厚なる慢心臭が漂っているわけだが、とにかくフォトグラファー氏は自力で電車にて現場まで来ることになった。
一部の「夏タイヤー」のため大混乱に陥る東京の街
夕方。私は愛機スバルXV 2.0i-L EyeSightにて、すでにけっこう雪が降り積もった状態の長屋駐車場を出発した。無論、スタッドレスタイヤを履いた現行XVがあの程度の積雪で、都内で立ち往生することなどない(※もちろん慎重に運転する場合)。私自身だけに限って言えば、ほとんど鼻歌気分で目的地までの街道をスローペースにて、しかし快適に走行することができた。
問題は周囲のほうである。
「キミ、明らかにそれ夏タイヤだろ?」という感じのホンダ フィットが私のすぐ前方で、アクセルを踏んだりブレーキをかけるたびに右へ左へと軽く車体を振っている。スローペースというよりは「……亀?」という速度の紺色のフォルクスワーゲン ゴルフも、夏タイヤだろう。しかもかなり摩耗しているのかもしれない。
「これはしくじったのかもしれない……」と内心思いつつ、とりあえずは現場に到着し、屋内での雑誌撮影は1時間ほどで円満に終了した。フォトグラファー氏に「自宅まで送りますよ」と言ったが「や、ボクは電車で……」と言う氏を現場近くの私鉄駅まで送り届け、XVは街道に出た。
降雪と積雪は、さらに大変なことになっていた。
や、XVにとってはぜんぜん大変ではなく、周囲のクルマも見たところ8割、いや9割5分ぐらいの割合でちゃんと冬タイヤなどを装着しているようで、ごく普通のスローペースで安定した走行をしている。
問題なのは残る0.5割のドライバーおよびライダーだ。
プチ渋滞の先に赤色灯が見える。どうやら派手にぶつかったわけではないようだったが、接触事故だ。その現場を通過した先で、路肩にてビッグスクーターを押して転回させようとしているライダーが、ヨロヨロというかツルツルと、車線中央付近にスクーターごと流れてきた。あ、コケた。駐車場から出ようとしている白いセダンが、ひたすらホイールスピンを繰り返している。あのう……それってそのまま出れないほうが幸せなんじゃないですか?
次回大雪の日は、XVがあっても家から一歩も出まい
結論として私は、そういった諸々に巻き込まれることなく無傷でXVを長屋駐車場へと帰還させた(買ったばかりの新車で事故っちゃった話を期待してた人、ごめんなさいね)。しかしそれは単に「運が良かった」というだけなのだろう。
私は雪道を決してナメてはいないつもりだったが、やはりナメていたのだ。慢心していたのだ。「大雪の東京は(一部の者が)こんなにもひどい」ということを、インドア派ゆえこれまでは雪が降ると家に閉じこもっていたため知らなかったわけだが、「知らなかった」では済まされまい。
そして今後も数年に一度は東京でも大雪となり、そしておそらくは同じように、一部の「夏タイヤー」がこちらに向かってズズーッと滑ってきたり、自爆して道を塞いだりするのだろう。
サマータイヤの二輪駆動車に乗っている人はもちろんのこと、冬タイヤの四輪駆動車を所有していたとしても、大雪の日の東京は、自宅でじっとしているに限る(今までの私は、どうやら知らず知らずのうちに実は最適な行動をとっていたようだ)。今回、わたしは遅まきながらそれを学んだ。
次回、東京に大雪が降るときに不肖筆者がどんなクルマに乗っているのかはわからない。しかしそれが何であったとしても、その日は自宅でできる仕事以外はすべてのスケジュールをいったん白紙にする。で、冷凍庫にストックしておいた肉まんか何かをアツアツに蒸して、テレビでも見ながらおいしくいただく所存だ。
なんて話をしていたら腹が減ったので、本日はこれにて失敬させていただく。御免。
[ライター/伊達軍曹]
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