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ロシアからカザフスタンへ――「ウラル」が工場を移転、最新状況を日本法人社長に訊いた

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ロシアからカザフスタンへ――「ウラル」が工場を移転、最新状況を日本法人社長に訊いた

 ロシア生まれの二輪ブランド「ウラル」が生産工場をカザフスタンに移転することを決めた。ロシア工場での車両生産が止まっており、再開の見込みが立たないことが理由。早ければ8月にも生産を再開するという。

 現状についてウラル・ジャパンのCEOに話を聞いてみた。

ロシアからカザフスタンへ――「ウラル」が工場を移転、最新状況を日本法人社長に訊いた

文/沼尾宏明、写真/ウラル・ジャパン

伝統のサイドカー、生産再開のメドが立たず隣国で組み立てへ

 ロシアがウクライナに侵攻した2月26日、黒地に白文字で「STOP WAR NOW」のメッセージがウラル・ジャパンのWebサイトに掲載された。ロシア発のバイクメーカーが、このようなメッセージを発信したことで、当Webでも記事にさせてもらった(詳細は『「戦争を止めろ」ロシア発バイクメーカー、ウラルが発信したメッセージに込められた思い』を参照)。

 ウラルは、第二次世界大戦中のソビエト連邦が製造した軍用サイドカーM-72に端を発するメーカーで、1992年に生産工場を国営からウラルモト株式会社に改組。現在は「ウラルモーターサイクルズ」として米国ワシントン州レドモンドのIMZ-Groupが経営している。42か国に輸出され、世界唯一のサイドカー専業ブランドとしてファンも多い。

 車両は、昔ながらのフォルムと749ccOHV空冷水平対向2気筒を堅持しながら、2022年型は最新排ガス規制ユーロ5をクリア。二輪駆動車は普通四輪免許で運転できるのもポイントだ。

 日本国内においては、2007年11月にウラル・ジャパンが設立され、国内販売台数は年々20%増のペースで伸びている。

取材に応じてくれたウラル・ジャパンCEOのブラド氏。幼少期から空手などを通して日本の文化に親しみ、10代からバイク好きだった。もちろんウラルを愛する一人だ

ロシア国外で最終組み立することで生産が再開

 現在、ウラルは8割以上の部品を米国、欧州、台湾などで生産。ロシアのイルビット工場では車両の最終組み立てのほか、一部部品を生産していた。

 ところが戦争の影響により、3月9日の取材時点で車両の新規生産が停止されていた。その後の状況をウラル・ジャパンのボリヒン・ブラジスラーフCEO(以下、ブラド氏)に尋ねてみると、「ロシアのイルビットから600km南東にあるカザフスタン共和国のペトロパブルに新しい工場を確保しました」という。

 現在のロシアから各国へ車両を輸出するのは莫大な時間とコストがかかる。また日本政府は4月19日、ロシアに対する追加経済制裁としてバイクや二輪車部品を含む38品目の輸入禁止を決定した。そこで「早急に生産を再開するため、ロシア国外での最終組み立てを行うことにしました」と話す。

 ロシアでは車両の組み立てのほか、フレーム、サイドカーのボディなどを製造。ロシア国外での部品供給は継続されているが、車両自体が出荷できないというわけだ。

カザフスタンの新工場。北カザフスタン州の州都である大都市ペトロパブルに立地する

順調にいけば6月から新規注文を受け付け、秋頃に入荷される

 「工場移転の話はあったが、カザフスタンに移転する予定はなかった」とブラド氏。カザフスタンは旧ソビエト連邦だったこともあり、移転先の北部はロシア語も通じる。欧州も移転先の候補だったが、従業員のビザが発給されないなどの理由からカザフスタンに決まったという。

 ロシア工場の従業員は150名で、一部のみカザフスタンに移住。「今後もずっとカザフスタンで生産するか、一時的な措置かは未定」と話す。なおロシア工場は残り、今のところ部品の生産は継続する。

 「順調にいけば8月から稼動を開始」し、今後はカザフスタンから車両が出荷される。「日本における新規の注文受付は早ければ6月から再開。順調なら9月末~10月には入荷する予定です」と話す。ただし書類の手続きや発送ルートの選定に難航する可能性も高いという。

 既に注文済みの車両や部品に関しては、既報のとおり4~5月に日本に到着する見通し。輸入禁止措置は、既に契約した分について4月19日から3か月以内の輸入が認められている。ロシアからのコンテナが4月下旬にもウラジオストックに着き、早ければ4月末にも日本国内に到着する予定だ。

 今後も日本法人とディーラーによる保証、技術サポートは中断されず、部品&アクセサリーの供給も続ける。

ウラル山脈の東に位置するイルビット工場。大部分のパーツは海外で生産されるが、最終組み立てなど重要な行程を行う

「ロシア生まれ」のルーツは変えられない

「ロシアは戦争をすべきではなかった。戦争が1日も早く終わることを祈っています」とブラド氏。自身はロシア国籍を持ち、日本に来てちょうど10年になる。

 ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシア料理のレストランなどが嫌がらせされたという報道も耳にするが、ウラル・ジャパンに関しては「そういった行為はほぼありません。ただし他国ではロシアの文化を否定する動きが強いので悲しい」と話す。

 今回の移転に伴い、ブランド名を変更する案もあったという。「もはやロシア製品ではないため、ブランド名を変更する話も出ましたが、メーカーとしては最初から変更するつもりはなかったです。ルーツは否定できません」(ブラド氏)。

 前述した生産工場がある「イルビット」は、ロシアを南北に縦断するウラル山脈の付近にある。ウラルモトの前身であるIMZ社の誕生から81年もの間、この地で操業し続けてきただけに、ブランド名は譲れなかったに違いない。そして「ルーツは否定できない」という言葉をブラド氏自身が噛み締めているようだった。

 大きな岐路に立つことになったウラルだが、ひとまず生産再開のメドが立ったことを喜びたい。

 ――憎むべきは戦争であり、文化ではない。バイクやクルマを愛する者なら特にわかるはずだ。

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