タブシャシーの構造自体が露出
アストン マーティン自ら、トップクラスのレーシングカーと同等の走行性能を持つと主張する、ヴァルキリー。そのサーキット専用モデル、AMRプロの納車が始まった。
【画像】鮮烈 ヴァルキリー AMRプロとワンオフのヴィクター サーキット専用モデルは他にも 全118枚
記念すべきハイパーカーの誕生を祝うべく、同社は筆者をアメリカ・フロリダ州にある、ホームステッド・マイアミ・サーキットへ招待してくれた。もちろん誕生パーティではない。その尋常ではない速さを、体験させるために。
ヴァルキリーの開発は、当初の計画から大幅に遅れた。プロジェクトをともに推進してきたのが、F1チームでパートナー関係にあったレッドブル・レーシングだったが、この共同体制も既に終了している。
それでも完成にこぎつけたようだ。アストン マーティンによれば、75台以上の公道用ヴァルキリーを生産予定とのこと。サーキット専用のAMRプロも、2022年のうちに顧客のもとへ届けられるという。
AMRプロを間近に観察すると、公道用ヴァルキリーとの違いに見入ってしまう。ナンバー取得の認可を得る必要がないため、各部の作りが異なっている。ホイールベースが長いだけでなく、軽量化の図られた独自のタブ構造を備えているそうだ。
同社でクリエイティブ・ディレクターを務める、マレク・ライクマン氏に話を伺うことができた。「人間の居住性やエンジンに対する制約を回避しつつ、可能な限りタイトなパッケージングになるよう設計されています」
「余分な部分は1mmもありません。タブシャシーの構造自体が露出しています。表面的なボディパネルもありません」
過去のF1マシンと同等の速さ
そんなヴァルキリー AMRプロのステアリングホイールを今日握るのは、開発初期からテストドライバーとして携わってきたアンディ・プリオール氏。ツーリングカー・レースなどで活躍し、キャリアが終わったタイミングで誘いを受け、幸運だったと話す。
「これほど速いクルマを運転する機会がもう一度来るとは、正直思っていませんでした」。2005年にウイリアムズのF1マシンをテストした経験を持つ彼だが、このAMRプロはその速さと大きくは違わないという。
「今日はAMRプロの能力を引き出すことが中心ですが、開発プロセスでは、その速さを扱いやすくすることにポイントが置かれていました。この手のクルマにお金を投じたドライバーは、それを楽しみたいと考えるはずですから」
「プロのドライバーだけが迫れる、高い限界能力を作っても意味はないのです」。と、仰々しいボディの傍らで説明してくれた。
ガルウイングドアが開かれ、AMRプロの助手席に座る時が来た。実は筆者は、2021年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで、公道用のヴァルキリーに乗ったことがある。その時は、先日辞任した元CEOのトビアス・ムアース氏による運転だった。
とても興奮する体験ではあったが、路面は濡れていて、トラクションコントロールは未実装という状態。慎重にスピードを調整しながらの走りだった。
NA 6.5L V12エンジンで1万1000rpm
ひるがえって、フロリダは快晴。トラクションコントロールも完成している。コスワースが手掛けた自然吸気の6.5L V型12気筒エンジンは、800psに出力が制限されているというが、若干狭いインフィールド・コースなら不足はない。
不格好に身体を曲げて、助手席に腰を下ろす。車内はとてもタイト。運転席に固定されたプリオールは、操縦桿のようなステアリングホイールを自由に回せるよう、シートポジションを調整する。
グッドウッドの時とは違い、AMRプロであってもヴァルキリーにはエアコンが付いていて、動いている。フロントガラス越しの視界も、複数の補助モニターで覆われていない。
アストン マーティンとしては、快適な車内とはいえないかもしれない。それでも、圧倒的な走行性能を体験するマシンとして、仕上がった状態にはある。
AMRプロの発進は、駆動用モーターだけで賄われる。静かに加速するが、24km/hを超えた辺りで豪腕のV型12気筒エンジンが勢いよく目覚める。
ピットレーンを指定速度で進む。低回転域では機械的なノイズが盛大だと思いつつ、コースインするやいなや、1万1000rpmまで使い切った4周の全開走行が始まった。
頭にフィットするヘルメットをかぶっていても、車内に響くノイズが容赦ない。だが、グッドウッドで味わった公道用ヴァルキリーより、筆者へ伝わる振動は小さい。
景色を早送りにしたようなコーナリング
動力性能は甚大だが、手に負えないほどではないようだ。制限が解かれたAMRプロは、加速時に2Gを超える勢いを生むという。今日の800psの状態では、そこまで激しくシートへ背中が押さえつけられている感覚はない。
一方で、ブレーキング時に身体へ掛かる慣性は強力。ハーネスが、筆者の胸筋に食い込もうとする。
コーナリング時の横Gも凄まじい。フルブレーキング時に掛かる力より穏やかとはいえ、ダウンフォースがボディを支え、歯を食いしばるほど。首の筋肉が否応なしに鍛えられる。コーナー数が少なくて良かった。
プリオールが攻め込む走りは、まるで現実世界を早送りにしているよう。スリックタイヤが温まり、アクセルオンのタイミングが徐々に早くなる。それでも、ボディがスライドし始める様子もない。
コーナーへの侵入から脱出までの時間が、縮められたように短い。しかし、AMRプロもプリオールも、動じる気配すらない。フロントガラス越しに見える景色が嘘のようだ。
ピットレーンに侵入しスピードが落ちると、V12エンジンが自動的に止まった。どれだけ攻め込んでいたのか聞いてみる。「恐らく80%くらい。今日はこれを、1日中繰り返すんですよ」
筆者の次に助手席へ座ったのは、クリエイティブ・ディレクターのライクマン。筆者と同じくらい感嘆し、脂汗をかきながら降りてくる。「アストン マーティンに12年在籍していますが、これまでで最高の12分間でした」
アストン マーティン・ヴァルキリー AMRプロの生産数は、40台が予定されている。
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みんなのコメント
日本のメーカーには絶対真似できない