29歳で、中古のフェラーリを購入した『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターのイナガキが、ひょんなことから35年落ちのシボレー「コルベット」を増車した! 第2回は、購入時の思い出を振り返る!
アメ車独特のオーラ
新型GRカローラ誕生の背景に、モリゾウさんの原点“ナナイチ”があった!
4月3日の午後、238万円のプライスタグを掲げた品川34ナンバーの1987年型シボレー・コルベット(C4型)を“とりあえず”見に行った。
Vol.1でも記したように、はじめから熱烈に欲しいクルマというわけではなかった。2桁ナンバーを有する中古車こそ探していたものの、コルベットは候補になかった。
だから、この個体をウェブの中古車情報サイトで見つけたときも即買いとはならなかった。いろいろと調べていくうちに、「これはオモシロそうなアメ車かも……」と、ふつふつと興味が湧いてきた。
ただしこの日はあいにくの雨。当初、見に行くのを躊躇するほどの強さだった。先送りにするべきか悩んでいたところ、友人が「行っちゃいなよ!」と、背中を押してくれた。
東京・渋谷からクルマを販売する「U.N.E」(練馬)までは、道が混んでいたせいもあって1時間ほど要した。
到着すると、ショップのガレージにはシルバーのコルベットがあった。“品川34”のナンバー・プレートは適度にヤレており、それがまたイイ味を出している。
街中で走っているC4型コルベットは見たことあるが、間近でしっかり見るのは人生初。想像するよりコンパクトだなぁと思い、調べると全長は約4.5m弱、全幅は約1.85mだから都市部でも扱いに困らなさそうだ。
ロングノーズの先端には、リトラクタブルタイプのヘッドライトがある。「ヘッドライトは問題なく開閉しますのでご安心ください」と、宇根さん。メーター横のスイッチを引っ張ると、“クルン”と1回転し、ヘッドライトがあらわれた。ホンダ「プレリュード」などが上下に展開するのとは異なる動きにビックリ!
ボンネットを開けると、そこには5.7リッターのV8自然吸気エンジンが鎮座していた。エンジンカバーのデザインなどは、明らかに同年代のヨーロッパ車と異なる。ドロドロと重低音を響かせるエンジン・サウンドも独特だ。所有するフェラーリ「360モデナ」とは別世界!
アルミホイールやドアミラーなどは純正だし、余計なエアロパーツも一切ナシ。見れば見るほど、触れれば触れるほどに、コルベットに惹かれていく。
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宇根さんが「とりあえず試乗しませんか?」と、提案してくれた。
即断即決するつもりはないし、35年落ちのヤングタイマーを雨の中運転するなんて恐ろしい。「そんな不安にならなくて大丈夫ですよ(笑)」と、宇根さんは言ってくれたけれども、唯一無二の中古車だからなにかあっても元には戻らない可能性が高い。というわけで、ボクは助手席に座り、運転は宇根さんにお願いした。
「じゃ、出発しますね」と、4ATのシフトレバーを「D」に変速した。軽いショックのあと、一瞬おいて発進。大排気量V8エンジンならではのサウンドを味わいつつ、ゆるやかにスピードを上げていく。
となりで見ていても、運転はそれほど難しくないのがわかる。「ブレーキはお金をかけて整備したのでフィーリングは悪くないですよ」とのこと。ステアリング・ホイールはパワーアシスト付きだし、エアコンも問題ナシ。これなら気楽に乗ることが出来そうだ。むしろボクのフェラーリよりも楽ちんかもしれない。
「せっかくなので運転しましょうよ!」
宇根さんからの熱心な提案を断りきれず「じゃ、少しだけ……」と、席を変わった。
運転席に座ってびっくりしたのが、調整がすべて電動だったことだ。スライド・リクライニング・高さにくわえランバーサポートなども調整出来る。35年前のクルマとは思えぬ快適装備だ。
雨が強くなってきたので、ワイパーを調整しようとステアリング・コラムに手を伸ばすが、レバーはない。「ワイパーのスイッチはドアライニングにあるんです」と、宇根さん。あ、あった!
準備が整い、いざ発進。アクセルを踏み込むと、トルクが太いからグイッと前へ進む。「赤信号で停まっているときは、強めにブレーキを踏まないと前へクルマが進むかもしれませんので気をつけてください」と、教えてくれたのも納得だ。
乗り心地はかなり硬い。新車当時を知らないので、この硬さが正しいのか否かはわからないけれど、古いアメ車=フワフワとした乗り心地、というイメージを抱いていただけにびっくりした。360モデナより硬いかもしれない。
デジタルメーターの表示も新鮮だ。現代のクルマと異なり、凝ったCGアニメーションなどはなく、数字のみが表示される。「C4型コルベットのデジパネは壊れやすいと言われているんですけど、こちらは問題ありませんよ」と聞き、ホッとした。
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たった10分ほどの試乗だったが、なにもかもが新鮮だった。仕事柄さまざまなクルマを運転するけれども、ヤングタイマーはほとんどないし、ましてアメ車は初。だから、ちょっと頼りないブレーキすら、「アメ車っぽくていいじゃん!」と、すっかりコルベットの虜になってしまった。
くわえて販売車両には、整備記録簿とともに、当時の取扱説明書やオプションリストなども揃っていた。スペアキーも完備。2オーナーではあるものの、前オーナーは30年以上所有していたそうだ。丁寧に乗っていたことが窺える。
気づけば心は完全にコルベットへ傾いていた。友人に相談すべきかどうか迷ったけれど、ここで「冷静になったら?」と言われたら、熱が一気に覚めそうで怖い。
用意された見積書には、諸費用込みの車両販売総計欄に「251万5020円」と記されていた。
もし200万円まで下がるのなら即決するが、それは無理だろう。なぜなら200~300万円の中古車の場合、値引きは「数万円程度が限界」と以前聞いたことがある。薄利多売だからだ。
210万円も厳しいだろうなぁ……220万円なら可能性はあるかも? と、いろいろ考えた結果、230万円を希望額としていったん伝えた。根拠はなく、ダメ元で。
宇根さんの顔が険しくなる。「うーん……せっかく雨の日にわざわざ来てくださいましたからね……そしたら235万円ならいかがでしょうか……?」
目標のプラス5万円ではあるものの、それでも16万5020円の値引きを引き出した。本体価格を考えれば十分すぎるほどの額だ。「わかりました。235万円で買います!」と、勢いそのままに契約した。
が、このときボクは駐車場の空き区画を調べることなどをすっかりわすれていた。はたして無事に納車されるのか!? 次週、リポートする。
『32歳、35年落ちコルベットを買う』過去記事
Vol.1 運命の出会い
文・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
モデナといいとにかくなんか中途半端感が満載
コルベットにとって災難ですね。