これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、小さなボディに走りへのこだわりがしっかりと詰め込まれたスモールスポーツ、ホンダ ビートを取り上げる。
ホンダビートは爽快な走り!! 軽の2シーターミドシップオープンここにあり!!! こんなクルマよく売ったな!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】
文/フォッケウルフ、写真/ホンダ
【画像ギャラリー】MR方式の採用をはじめとした難しい課題をクリアして誕生した、ビートの写真をもっと見る!(10枚)
軽規格のなかで定石にとらわれず既成概念を打破
日本独自の軽自動車規格では、決められたサイズのなかでスペースをいかに効率よく確保できるかを競っており、スペース効率を求めるあまり天井を高めたクルマが主流となっている。そんな現代における軽自動車のトレンドからは完全に逸脱しているのがホンダビートである。
なにせ、スペースを得るためにエンジンは前、あるいは後ろに搭載することが定石であるにもかかわらず、ビートはエンジンを座席後部に搭載し、後輪を駆動するミッドシップエンジン・リアドライブ方式を軽自動車として初めて採用していた。
従来のどのジャンルにもあてはまらない、心がウキウキするような操る歓びが味わえ、理屈抜きに楽しいクルマを目指したビートには、実に贅沢な作りが随所に散見される。
かたまり感のあるフォルムはボディを大きくワイドに印象づけ、MRの高い走りの性能を見た目でも表現している。ボンネットはフロントウインドウ下端から開く前ヒンジ構造を採用した
エンジンこそトゥデイ用の3気筒SOHCユニットを用いていたが、それ以外はすべて新規に設計された。特にボディは、優れたメカニズムの能力を存分に引き出すことを念頭に置きながら、万一の衝突時に乗員を保護する能力が追求された。
ビートはルーフを持たないオープンボディである。オープンカーであることだけでなく、サイズに制限があり、車重も軽量であることが重視される軽自動車であるから、ボディ剛性の確保は普通車以上に難しいとされる。
各構成部の断面をいたずらに大きくとれば室内は狭くなるし、板厚に頼ればクルマは重くなってしまう。そこでビートでは、最新のコンピュータ解析技術を駆使することで骨格そのものを見直し、各構成部の強度を高めるなどの工夫をこらした構造とすることで、軽量化や居住スペースを犠牲にすることなく、きわめて高い剛性を実現したミドシップ・フルオープンモノコックボディを開発した。
本格オープンスポーツとしてのポテンシャルを実現することもビートに課せられた要素だが、それを実現するために曲げとねじりに対する強度を高いレベルとしていたこともポイントだった。
ビートでは、フロアトンネルとサイドシルの剛性を徹底的に高めている。フロアトンネルは下部を閉じたボックス断面とし、サイドシルも厚板化したうえで、ボックス断面のリインフォースメントを挿入した二重構造とした。
こうした工夫によって、小型オープンボディと同等以上の曲げ剛性・ねじり剛性を獲得。さらにフロントピラーは、板厚と断面積を十分に確保し、根元にスティフナーを配することで、走行中に生じる横揺れや不快な振動の抑制を図っている。こうした作りが、ビートならではの走りの楽しさをもたらす要因となっていたわけだ。
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サイズを意識させない存在感をアピール
軽自動車サイズながら、外観の全体をかたまり感のあるモノフォルムで形成し、そのなかに大胆で動きのあるラインを取り入れることによってボディを大きくワイドに印象づけている。サイドはヘッドライトからリアフェンダーのエアインテークまでを直線的なラインでつなぎ、大型のエアインテークを強調した造形を盛り込み、低く設定したボンネットの効果も相まってMRらしさが表現された。
ピラーとソフトトップはブラックとし、ボディカラーとの鮮やかなコントラストを演出するとともに、ドアミラー本体や丸型タイプのドアハンドルがボディとの一体感を強調。さらにターンシグナル一体型のヘッドライトはホイールアーチまで回り込んだ造形としている。
あたかも駆け抜ける風によってムダな部分をそぎ落とされたようなスタイリングは、コンパクトな2シーターミッドシップオープンがもたらす、新しいドライビングプレジャーを感じさせるものと言える。
車内はドアライニングの上下、およびインストルメントパネルのアッパー部とロア部など、室内全体をツートーン処理とすることで、自然との一体感をいちだんと感じさせるものとなっている。ダークなグレーで腰から下にはしっかりとしたサポート感を出しながら、腰から上はやわらかなグレーで空間に広がりをもたせているのも特徴だ。
運転席まわりはインストルメントパネルからメーターを完全に独立させた、モーターサイクルを思わせるデザインを採用。メーターを手前に配置することで、ドライバー、ステアリング、メーターの一体感を高め、コクピットにメカニカルな印象を与えてくれる。
幌はひとりで開閉できるマニュアル式。リアウインドウは塩化ビニールとし、ファスナーによって開閉および着脱が可能だ
MR方式はビートの最たる特徴のひとつだが、導入に際しては解決しなければならない大きな問題をかかえていたという。乗車定員を2名と割り切ったとしても、限られた空間のなかで適切な居住性を実現し、なおかつ運動性能を損なうことなく、MRをこのコンパクトオープンボディで成立させるのは決して容易ではなかった。
そこでホンダは、エンジン横置きを基本としながらトランスミッション、フューエルタンク、ラジエータ、バッテリーなどの配置、ボディ骨格レイアウトに工夫をこらした巧みなパッケージングを実現することで難題をクリア。重心高440mmという低重心で、前後重量配分43対57の理想的なボディバランスを実現した。
その結果、エンジンのパワーを駆動力として的確に効率よく路面に伝える優れたトラクション性能とともに、軽快で安定した旋回性能をもたらす操縦安定性を獲得。さらに、制動時にも前後の荷重変化を小さく抑えて前後輪の制動能力を効率よく発揮するなど、走りのポテンシャルを高みへと引き上げることができた。
手足のようにコントロールできることの醍醐味
エンジンはトゥデイ用の3気筒SOHCユニットだが、ビートに搭載するにあたって改良が施され、ドライバーの気持ちに直結した小気味いいレスポンスが追求された。パワーを出すならターボを組み合わせるという手法もあったが、ビートではあえて過給システムに依存せず、ナチュラルで鋭いレスポンスが得られる自然吸気エンジンにこだわった。
660ccという小排気量でハイレスポンス、ハイパワーを実現するのは決して容易ではない。しかも、軽自動車のスポーツモデルであることを鑑みると、エンジン本体は軽量かつコンパクトであることはもちろん、優れた経済性も求められる。
こうした課題に対し、開発陣は、スロットルの動きに極めて鋭い追従性をみせるF1エンジンの吸気システムや燃料噴射制御システムに着目。多連スロットルとふたつの燃料噴射制御マップ切り換え方式によるハイレスポンスエンジンコントロールシステムMTREC(Multi Throttle Responsive Engine Control System)といった技術は、F1参戦で得たノウハウを有していたホンダだから生み出せたものと言える。
こうした画期的システムを核としながら、高回転・高出力化技術を採用したエンジンは、自然吸気ながら660ccエンジンでありながら、最高出力64馬力を達成。しかも、10モード燃費17.2km/Lという高い水準の能力を実現した。
軽快な走りを支える足まわりは、フロントがストラット、リアはデュアルリンクストラットとしている。前後ともに減衰力の高いダンパーと硬めのスプリングを採用し、ダンパーマウントのバネレートも高めの設定とした。そのうえでジオメトリーを巧みに設定するなど、MR方式によるハイレベルな運動性能が発揮できるよう徹底したチューニングを実施している。
また、タイヤは後重量配分や、前後タイヤにかかる旋回時の負荷、横剛性のバランスを考慮し、フロントに比べてリアのグリップ性能を高く設定。フロントは155/65R13、リアは165/60R14という前後異径タイヤとしたことも直進安定性、コーナリング性能の向上に大きく貢献している。ブレーキはフロント12インチ、リア13インチの、4輪ディスクブレーキを軽自動車で初めて採用し、高剛性でリニアリティの高いブレーキフィーリングが得られた。
タコメーターを中央に、スピードメーターを右に、水温計や燃料計などを円内にまとめたコンビネーションメーターを左に配置した3眼メーターを採用。車内はインパネアッパー部とロアー部やドアライニングの上下など室内全体をツートーンカラーで統一し、乗員を包みこむようなデザインになっている
登録車の本格スポーツカーのようなパワーは望めないが、アンダーパワーでも、軽自動車規格の軽いボディを手足のように扱い、まるでオートバイのエンジンのように高回転まで引っ張って走る。これが乗り手の気持ちを高揚させてくれる要素であり、ミッドシップ軽自動車のなせる業と言っていい。限界まで飛ばさなくたって、走っている感が常に得られる。
一般的な軽自動車の車両価格が60万円程度だった時代に、145万円で販売されていたことを考慮すると、いかに贅沢なクルマだったかがわかる。軽自動車という日本独得のカテゴリーで、ビートはライトウエイトの醍醐味が堪能できるだけでなく、ライバルがターボエンジンを搭載するなか、あえて自然吸気にこだわったあたりもマニア心をくすぐる要素だ。それが今もなお根強いファンが存在する理由と言えるだろう。
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みんなのコメント
いやいや、ベストカーさんこそ、そんな嘘をよく記事にしたな!!っていっぱいあるよね。