■初代も絶大な人気、2代目になっても変わらない人気の理由とは
現在、日本で最も多く売られているクルマがホンダの「N-BOX」です。現行型は2017年9月1日に発売された2代目ですが、N-BOXの高人気は2011年12月に登場した先代型(初代モデル)から始まりました。2013年/2015年/2016年/2017年に軽自動車の販売1位になっています(N-BOXスラッシュや先代型のプラスを含む)。とくに2017年は小型/普通車まで含めた総合1位でした。
激売れホンダ「N-BOX」のNAエンジン車で峠道はつらい? 実燃費テストで意外な結果が…
この勢いは2018年に入っても衰えず、1月から7月までの販売ランキングで、国内の総合1位になっています。
直近の7月の国内乗用車販売台数は、1位がホンダ「N-BOX」で1万9668台、2位はスズキ「スペーシア」で1万1843台、3位は日産「デイズ&デイズルークス」で1万1703台、4位はトヨタ「アクア」で1万1689台、5位は日産「ノート」で1万1256台です。
このように1位のN-BOXと2位のスペーシアの間には7825台の差があり、N-BOXの圧勝です。N-BOXはなぜここまで人気が高いのでしょうか。
N-BOXが人気を得たのは、先に述べたとおり2011年に発売された先代型です。これがヒットして、2017年に発売された2代目の高人気に繋がりました。
先代型と現行型に共通する一番の特徴は、車内が抜群に広いことです。全高は1700mmを大幅に超えて、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は先代/現行型ともに2520mmです。三菱iとEVのiミーブを除くと、現行の軽自動車では最長です(なお、現在のiミーブは小型車に改良されました)。
エンジンはN-BOX用に開発され、補機類の配置も工夫して前後長が短く横方向に長いです。つまりエンジンルームは短く、ホイールベースは長く、天井も高くすることで、軽乗用車で最大の室内を確保しました。
先代/現行型ともに、身長170cmの大人4名が乗車すると、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ4つ分以上です。Lサイズセダンでも2つから2つ半なので、後席に座ると前席が遠く感じるほどです。
燃料タンクは前席の下に搭載するため、荷室は床が低いです。天井は高いため、荷室高に余裕があり、後席を畳むと自転車なども積みやすいです。
そのためにN-BOXを初めて見た人は、例外なく驚きます。これだけ広い車内が必要か否かはともかく、インパクトが強烈で、ほかの軽自動車は色褪せて見えます。今の実用的なクルマは相対評価で選ばれるため、車内の広さなどの実用面で驚かせ、他車に差を付けると売れ行きも伸びます。
N-BOXが巧みなのは、室内を最大限度まで広げ、なおかつ外観も視覚的にバランス良く仕上げたことです。短いボンネットと長いルーフ、角度を立てたピラー(柱)、上下に厚みのあるドアパネルなどが上手にデザインされ、車内の広さを効果的にアピールしました。1996年に発売された初代ステップワゴンに似た好感の持てる外観です。
先代型の見栄えの良い外観と広い室内は、ほぼそのまま現行型へ受け継がれました。
■2018年の国内販売はホンダ全体の50%が軽自動車
では現行型ならではの魅力は何かといえば、安全装備の充実です。オデッセイなどの3ナンバー車と同じミリ波レーダーと単眼カメラを併用するホンダセンシングを全車に装着して、安心感を高めました。軽自動車で唯一、車間距離を自動制御できるクルーズコントロールと、操舵の支援機能も備わります。これにより軽自動車でありながら高速道路を走る時の快適性を高めました。
さらに内装の質、シートの座り心地、乗り心地、燃費なども幅広く改善されています。助手席にはグレードに応じてスーパースライドシート(大きくスライドできる助手席)も採用し、使い勝手を向上させています。
現行型の開発者は「先代型が絶大な人気を誇ったので、プレッシャーも強かったです。そこで現行型は家族の幸せに重点を置き、すべてを見直しました」とコメントしています。それでもN-BOXの主だった魅力は、先代型で確立されました。そこに弾みを付けたのが、現行型で行った改善といえるでしょう。
以上が車両自体の魅力ですが、売れ行きを伸ばした背景には、ほかにもいろいろな理由があります。
まずホンダ車のユーザーが、次々とN-BOXに乗り替えていることです。販売店のホンダカーズからは「フリードやその先代型となる古いモビリオ、フィット、シャトルなどのお客様が、一斉にN-BOXに乗り替えています。また保有台数が膨大な先代型からの乗り替えも多いです」といいます。
そこで2018年1月から7月の販売統計を見ると、国内で売られたホンダ車の33%がN-BOXでした。N-WGNなども含めた軽自動車全体で見ると、ホンダ車全体の約50%に達します。
逆にフィットは売れ行きを下げて、ライバル車となるアクアの75%程度しか売れていません。フリードやヴェゼルも、設計が古くなったこともあり下がり気味です。ホンダの国内販売はトヨタに次ぐ2位ですから、国内でも成功しているメーカーといえますが、軽自動車への依存度が高いです。ホンダ4輪商品群の中で、N-BOXの魅力だけが際立ち、ほかは精彩を欠いた状態になっています。
■軽に力を入れるホンダ、普通車に力を入れるスズキ
ちなみにスズキは、軽自動車市場の先行きが不透明なこともあり、今は小型/普通車にも力を入れています。小型/普通車の販売比率が18%になり、軽自動車は82%に下がりました。スズキとホンダは取り組み方が対称的です。
またN-BOXでは、販売会社が在庫を持ち切れず、自社で届け出を行って、実質的に未使用の中古車として流通させた車両も相応に見られます。走行距離が30km以下の中古車がそれです。ホンダカーズでは「スーパースライドシートは、ホンダが力を入れて開発したが、価格が高いこともあって販売比率が高まらない」という話も聞かれます。
このほか国内市場において、軽自動車の販売比率が35~38%に達した理由としては、日本車の全般的な価格上昇があります。安全装備や環境性能が高まり、ミドルサイズミニバンのステップワゴンでも、売れ筋の価格帯は260万円以上です。200万円以下で買えるのは、140~180万円が売れ筋の軽自動車と、150~200万円のコンパクトカーです。
同じ価格の軽自動車とコンパクトカーを比べると、車内の広さ、内装の質で軽自動車の方が勝ることが多く、車種によっては安全装備も優れています。また軽自動車は国内のユーザーを対象に開発され、海外向けに造られることの多い小型/普通車に比べると、デザインを含めてさまざまな部分で共感を得やすいです。
このような事情から軽自動車に魅力を感じて車種選びを始めると、多くのユーザーが、N-BOXの魅力に気付きます。
以上のようにN-BOXが好調に売れる背景には、日本車の商品開発が海外向けになって魅力を下げたこと、同じ価格帯のコンパクトカーがいまひとつ魅力に欠けること、ホンダ車ユーザーを中心に「結局はN-BOXしかない」と乗り替えていることなどがあります。N-BOXが優れた商品なのは確かですが、ほかの日本車の努力不足も影響しているのです。N-BOXの独走は、いつまで続くのでしょうか。
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