電気自動車(EV)は航続距離が命!? テスラなどハイパフォーマンス系のEVが勃興するなか、軽自動車でEVは成立するのか?
EVのパイオニアといえば、三菱のi-MiEVが記憶に新しい。同モデルは軽自動車で2010年から個人向けの発売を開始したが、販売的には成功を収められず、しかも2018年4月の改良で全長を延ばし、登録車となってしまった。
なんですかこの目の下の線は…新型プジョー208発売 ガチEVを引き連れて日本上陸!!
こうした動きからみても軽自動車のEVはやはり難しいのかもしれないとも受け取れる。実際はどうなのか? 自動車技術・メカニズムに造詣が深い鈴木直也氏が解説する。
文:鈴木直也、写真:三菱、テスラ、マツダ、ホンダ、日産、奥隅圭之
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むしろ軽から始まったEV開発の黎明期
本企画の編集担当から「軽のEVはアリか?」というお題を振られて、ハタと考え込んでしまった。そりゃもちろん、基本的には「アリに決まってる」と思う。
事実上世界最初の量産EVとなった三菱 i-MiEVは軽自動車ベースだったし、その前にスバルが実験していたプラグインステラも軽だったし、実験車でいうならスマートやらiQやらをベースとした2000年代初期EVは、けっこうな多数がシティコミュータ用途を想定したコンパクトなパッケージで造られていた。
三菱i-MiEV 2018年4月の一部改良で全長が拡大し、軽自動車から登録車へとなった。
考えてみればこれは当たり前のこと。EVの最大の課題は今も昔も電池の容量とコストなんだから、なんとかそれを最小限に抑えて実用的なEVを仕立てようとしたら、とりあえず「コンパクトなシティコミュータ」がもっともリーズナブルな選択。だから、真面目な技術者はみんな似たような発想でEVの実用化を目指していた。
ところが、「そんなEV誰が買うの?」と、まったく別な発想をした人がいたんですね。そう、イーロン・マスク。彼だけは、技術的制約をユーザーに押し付けるのではなく、どんなEVなら消費者が欲しがるかという発想でEVを造るわけ。
テスラの衝撃と軽EVが苦戦した理由
大方の予想に反して、これが大人気となったのはみなさんご存知のとおり。テスラ・モデルSは、最初期モデルでも75kW/hのバッテリーを搭載し、400km以上の航続距離を確保。
テスラ モデルS
それだけじゃなく、擬似自動運転機能の“オートパイロット”をはじめ、最先端のIT装備を満載して未来のクルマ感を華麗に演出、これが大成功をおさめる。
もちろん、価格は軽く1000万を超えるが、むしろそのユーザーターゲッティングがずばり的中だったわけで、世界中のお金持ちがこぞって(ファッションアイテム的な意味も含めて)テスラ・モデルSに殺到。1000万円級のプレミアムEVの方が、むしろビジネスとしては有望であることを立証してしまった。
その一方で、真面目なエンジニアがこつこつ開発してきた「実用的なEV」は苦戦する。
初期モデルのi-MiEVは電池容量16kW/h、JC08航続距離120km(実質100km)、価格約260万円~。初代リーフは電池容量24kWh、JC08航続距離200km、価格約370万円~。
初代リーフ(販売期間:2010年~2017年、航続距離200km、価格約370万円~)
初期の実用型EVの性能はこんなもので、よっぽどの好きモノでないとなかなか手が出せないレベル。補助金を100万円くらいもらっても、同じ予算で買える内燃機関車に対して実用面でかなりの制約があり、販売面でも当然ながら苦戦することになる。
実用型EVビジネスのつらいところは、数を売るため一生懸命コストダウンすればするほど、全体コストの中で電池の占める割合が大きくなり、それ以外の付加価値が手薄となってしまうこと。
結果として、ゼロエミッションという環境性能以外のアピールポイントが希薄で、よっぽど環境意識の高い人以外にはその魅力が届かない。
やっぱり、商品力ということを考えると、見栄えのいい最先端IT装備や、人に自慢したくなるようなハイテクギミックが必須ということ。初期i-MiEVやリーフは、技術面ではなくマーケティングセンスで負けたといえるのかもしれませんね。
このテスラの成功を見て、二匹目のドジョウをあてこんだEVベンチャーが雨後の筍のように出現。
一時期は世界各地どこのモーターショーを取材してもEVコンセプトカーであふれかえっていたし、中国のNEV法(EV、PHEVなどを販売台数の一定の割合で売らないとペナルティ)に対応して、VWなどの既存メーカーからも続々EVコンセプトカーが発表されるに至ったわけだ。
2020年3月に世界初披露されたフィアット500(日本未導入)。フィアット初の電気自動車。
ホンダeやマツダMX-30が「EV 2.0」になる!?
では、電池搭載量をほどほどにしてコストパフォーマンスのバランスをとる「実用型EV」がオワコンなのかというと、ぼくは決してそんなことはないと思っている。
電池搭載量を増やせばデメリットもたくさんあって、コスト以外にも重量やパッケージングからみた最適なバランス点がある。これが、まともな技術者の共通の認識だ。
そういう意味で、ぼくが注目しているはホンダeとマツダMX-30だ。どちらも昨年デビューしたばかりのバリバリの新型EVなのだが、電池搭載量はともに35kW/hほどで、EV航続距離は200km程度を想定している。
ホンダe
EVマニアは「今さらたった200km?」と思うかも知れないが、ホンダeはシティコミュータ的な使い方に割り切って、浮いたリソースを所有する満足感や自慢できるIT装備に振った提案。
MX-30は航続距離が足りないなら、RE(ロータリーエンジン)レンジエクステンダーを用意するという作戦。
マツダMX-30
どちらも、単に普通のクルマをEVに置き換えるのではなく、どういう付加価値をつけたら500万円程度の販価でEVを買ってもらえるかという、ユーザー目線に立った企画が面白いのだ。
ぼくは、こういうクルマを「EV 2.0」と勝手に呼んでるんだけど、今後も航続距離競争から降りたところに新しいEVの提案が生まれるのではないかと期待している。
軽EVが活躍できる場所は無限にある
さて、そこで冒頭の「軽のEVはアリか?」というテーマに戻るわけだが、航続距離の呪縛から逃れたら、軽EVが活躍できる場所は無限にある。
具体例としては、日本郵便の集配車としてミニキャブMiEVバン1200台を納入という昨年のニュース。こういう業務用のクルマとして選ばれるようになったらEVもホンモノ。
富裕層のアクセサリーとして売れたプレミアムEVとは、実用車としての重みがぜんぜん違う。
乗り出し200万円以下、航続距離120kmで、軽トールワゴンEVが登場したら、セカンドカー需要としてブームを巻き起こす可能性大だと思いますよ。
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みんなのコメント
道路環境のインフラ、バッテリーの小型化・大容量化、充電時間の短縮など実用面での技術解決がコストの問題を入れると解決できないのが今現在であると思う。
車のパッケージなどで、ユーザーへのアピールをしても道具としての機能を充分に発揮できなければ、ただの趣向品であろう。
まだまだ、EVの時代は早い。