ここ数年、世界的にみると大排気量マシンではアドベンチャーマシンなるカテゴリーが人気となっている。大雑把な括りで言えば、オン&オフを走れる万能な性能を持つマシン。そのベンチマークがBMWのR1200GSである。
いまや多くのバイクメーカー、それもドゥカティやMVアグスタなど、土の匂いを感じさせなかったメーカーまでもがそのジャンルに参入するという現象を生み出したのは、ひとえにR1200GSの人気の高さゆえであった。
そんなR1200GSがモデルチェンジを果たし、R1250GSへと進化した。これまでにモデルチェンジの噂があったものの、それは突然のアナウンスだった。そこで急遽、ポルトガルに行き、試乗してきた。
R1250GSへと進化したマシンは外見上、ほとんど現行マシンとの差異は見られない。カラーリングが異なり、1250というロゴへと変更しているものの、ほんの少しの排気量アップのマイナーチェンジといった印象が試乗前の正直な感想だ。
しかし、エンジンを始動し、アクセルを開けつつクラッチをミートした瞬間に、その激変ぶりに驚いた。
もともと豊かなトルクを有しているのがフラットツインエンジンの特徴でもある。しかし新型は84ccの排気量アップだけと言うのが信じられないほどのトルクアップを果たしていた。
これはシフトカムと呼ばれる可変バルブタイミング機構の恩恵が大きいのだろう。5000rpmを境に、あるいはそれより低い回転数であってもアクセルをワイドオープンした場合に、インテーク側の低速用カムと高速用カムが切り替わる仕組み。構造的にはカムシャフトがスライドして切り替わるというシンプルなものであるが、その効果は絶大だ。
シフトカムの採用はユーロ5に対応するためといわれているが、単純に環境問題に適応するために開発したものとは思えないほどだ。燃焼効率を向上させることで排ガスがクリアになり、しかもパワーも出てしまったという図式であろうか。
そのトルクは圧巻で、選択しているギアやエンジン回転数にかかわらず、マシンをグングンと前へ進め、物凄いスピードに到達している。吹け上がりは非常にフラット。シフトカムの切り替わりポイントを探すべく、5000rpmを行ったり来たり、アクセルをワイドオープンしてその作動をうながしてみたのだが、明確にそのポイントを探し当てることはできなかった。
最大トルク143Nmという数値は目を見張るものであり、実際にトルクのモリモリ加減は数値からの予測以上である。ただし、そこに暴力的なフィーリングはなく、必要なときに必要なトルクが瞬時に湧き上がってくれる、そんな味付けだ。
一方、BMW独自のテレレバーシステムと電子制御サスペンションの採用によって、走行時にいかなる状況でも車体は非常に安定しているのがGSらしさでもある。
車体回りの装備は基本的に従来モデルから変化はないが、エンジンのアップデートによるものか、サスペンションの動きやトラクションコントロールの作動性等もよりスムーズになっている印象だ。それはオフロードでも随所に感じられた。
GSはその巨体から信じられないほど、オフロードでの走破性が高いマシンである。決して速く走るためのマシンではないが、フラットツイン特有の低重心と秀逸なエンジンコントロール性で、ツーリング途中でちょっとオフロードをやり過ごすといったレベルではない走破性をもっている。
もちろん、その大きさに手強さを感じないわけではないが、それも含めて無類の楽しさに溢れているのだ。そしてニューエンジンを搭載したGSは、そのコントロール性もまた向上しているのだった。車両重量は従来型よりも5kg増だが、軽く感じられたのは、トルクアップと車体全体が上手くバランスした結果であろう。
それぞれのシチュエーションでより優れたマシンというのは他にもあるだろう。しかし、どんな状況にも対応するオールラウンド性、その平均点が恐ろしく高いのがGSの特徴である。新型は、その芯をぶらすことなく着実に、そして確実にアップデートしている。キングオブアドベンチャーのポジションを譲る気は、まったくないようだ。
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