かつて、故ジョン・レノンとオノ・ヨーコ氏の間に生まれた青年が「This is サイコーにちょうどいい」とカメラに向かって発声する、やや小ぶりな国産ミニバンのテレビCMがあった。
その小ぶりな国産ミニバンを日本の道路で使う場合の「ちょうどよさ」については異議なしであるため、そのクルマに対してどうのこうのと言いたいわけではない。
29歳、フェラーリを買う──Vol.42 ドアがロックされない!前編
ただ、「そのクルマって、いい年こいた大人の男にとっても“ちょうどいい”のか?」と考えた場合には、いささかの疑問は残る。
端的に言うと「もうちょっと高級感や上質感みたいなモノが感じられるクルマを身にまとったほうが、いい年こいた男の人生は何かとシアワセになるのでは?」と思うからだ。
ボルボのSUVラインナップで中間に位置するXC60。試乗車はXC60 D4 AWD R-Design(714万円)。ガソリンエンジンのXC60 T5 AWD Momentum(625万3704円)やPHEVであるXC60 T8 Twin Engine AWD Inscription(944万円)などをラインナップしている。では、我々──と便宜上書かせていただくが、とにかく今、富裕層なわけではないが、生活苦にあえいでいるわけでもない「いい年こいた男たち」にとって「ちょうどいいクルマ」とは、果たしてどれなのか?
その答えはおそらく百通り以上あるはずだが、「正解のひとつ」と自信をもって言えるのがボルボ XC60、なかでも2Lのディーゼルターボエンジンを搭載するD4という系統である。
ボルボ XC60。2年以上前に発売となったSUVであるため、今さら過度な説明は不要だろう。ボルボのプレミアムSUVであり、ボルボ製SUVのなかでは「中ぐらいのサイズ」に相当する。すなわち「やや小さめなやつ」がXC40で、「でっかいやつ」がXC90。そしてその中間ぐらいに位置するのが、ここで推したい現行型XC60だ。
トランスミッションは8速ATを採用。エンジンスタートはシフトゲート下のダイヤルで行い、その下には走行モードを切り替えるジョグダイヤルを備えている。車台は、上級モデルであるXC90と同じボルボの新世代プラットフォーム「SPA(スケーラブルプロダクトアーキテクチャー)」。これの採用によってボディの軽量化やパワートレインの高効率化などが見事に実現され、同時に、最新のボルボデザインを象徴するT字型LEDデイライトを備えたヘッドライト等により、これまた見事にシュッとしたニュアンスのデザインを実現させている。
搭載エンジンは、大きく分けるとガソリンとディーゼルの2系統。ガソリンは2Lターボと、2Lターボにスーパーチャージャーを足したものの2種類で、ディーゼルのほうは2Lの直4ディーゼルターボのみ。なお、2L直4スーパーチャージャー+ターボに電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッドも、いちおうラインナップされている。駆動方式は全グレードともAWD(4WD)だ。
で、このクルマの「ちょうどよさ」についてである。
荷室はこのサイズのSUVとしては標準的。通常時は505ℓ、リアシートを倒した際には最大で1432ℓの荷物を積むことが出来る。まずは何よりサイズ感がちょうどいい。
20代から30代前半ぐらいの若衆であれば、やや小ぶりなクルマに乗るのも悪くはなく、「むしろそっちのほうが似合う」とすら言えるかもしれない。だが男も30代後半を過ぎる頃になると威厳──というとちょっと違うのだが、なんというかこう「恰幅の良さ」みたいな部分も微妙に示したほうが、より魅力的に見える場合は多い。
その際、XC60を飛び越えて同じくボルボのXC90や、あるいはメルセデスのGクラスあたりを選んでもいいのだが、そうすると今度は「日本の道路ではちょっと邪魔くさい」という切実な問題も抱えてしまうことになる。
しかしXC60のサイズであれば──具体的には全長4690mm×全幅1900mm×全高1660mmと、全幅以外はトヨタ ハリアーとおおむね似たようなサイズ感であれば、比較的堂々たる体躯ではあるものの、持て余すということはない。ここが、まずは「ちょうどいい」とする所以だ。
サイズだけでない、XC60のちょうどよさそして同様にちょうどいいのが動力性能である。
XC60の「D4」が搭載するパワーユニットは前述のとおり2Lのディーゼルターボで、数値的には最高出力が190psで最大トルクは400Nm。この最高出力は2.5Lの標準的な自然吸気エンジンに相当する程度だが、最大トルクは「4Lの自然吸気エンジン並み」と言える。それゆえボルボ XC60 D4 AWD R-Designは、1880kgというライトヘビー級な車両重量を物ともしない「速さ」を、その気になれば披露することもできる。
だがそのトルクの出方が穏やかというか「たおやか」であるせいか、はたまたボルボというブランドが備え持つ北欧的なカントリー感がそれを許さないのか、とにかくXC60 D4のドライバーは、どうしたって「下品な猛烈加速」みたいな真似をする気になれないものだ。
そしてその結果、トルクの太い2Lディーゼルターボエンジンの力強さはあくまで「余裕」としてのみ表出する。余裕──それは、筆者のごとき中年男にとっては喉から手が出るほど欲しいモノのひとつであり、貴殿においてもほぼ同様かと推測するのだが、どうだろうか?
またこのクルマのたたずまいというか全体としての存在感も、30代後半から50代ぐらいの男子には「果てしなくちょうどいい」と思える部分のひとつだ。
XC60は十分以上の高級感ならびに上質感がクルマ全体にくまなく行き届いており、前述したとおりの「走りの余裕」もそれをサポートしているわけだが、だからといって決して「偉ぶった感じ」にはなっていないのが、このSUVの(というかボルボというブランドの)美点のひとつである。
社会的地位も金銭的余裕も十分以上に備えている人物なのだが、誰を相手にも決しておごり高ぶることがない紳士がひとりやふたり、きっと貴殿の身近にもいらっしゃると思う。その紳士のイメージにボルボ XC60 D4は近い。そこもまた、別にクルマを通じておごり高ぶろうなどとはさらさら思っておらず、とはいえ年齢なりの「いいモノ」は身につけておきたいと考える“我々”にとっての「ちょうどよさ」なのだ。
D4が積むのは2つのターボチャージャーを組み合わせた2ℓのディーゼルエンジン。2200回転で40.8kgmのトルクが、市街地走行での扱いやすさを保証する。唯一の存在ではないけれど推したい1台以上、ボルボ XC60に関する筆者の説明は観念的に過ぎる部分も大だったかもしれない。本来であればAWDや運転支援システムの実際、あるいは燃費などについても報告するべきなのだろう(ちなみに実燃費は非常に優秀であった)。
だが今の時代、もっとハードウェア寄りの解説文を読みたいと思った場合にはいくらでも(無料の)代替手段がある。それゆえ、そちら方面についてはぜひ検索のうえほかを当たっていただくとして、ここで筆者が言いたいことは──繰り返しになるが──やはり以下のことだけなのだ。
すなわち「それなりの年齢の男にとってここまで“すべてが何かとちょうどいいクルマ”って、ボルボ XC60 D4が決して唯一ではないだろうけど、そう多くはないよね」ということ。
もしも最終的な予算感がマッチするのであれば、2Lディーゼルターボエンジンを搭載する現行型ボルボ XC60が「買い推奨銘柄のひとつ」であることは、疑う余地がない。
文・伊達軍曹 写真・柳田由人 編集・iconic
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みんなのコメント
搭載ディーゼルエンジンはXC60と全く同じスペックで車重は500キロも軽い。
車幅も1800で小回りも効き、燃費もリッター21キロと最優秀。
駆動はFFだが、強烈なトルクでわずかなアクセル操作でグイグイ加速する。
更に次期V40はまだ開発着手していないので長く楽しめる。
残念なのはつい先日、生産を終了してしまった事。もったいない。