第2世代GT-Rの次男坊はダメ男か隠れた秀才か
R32GT-Rの発表から32年。いまだにスカイラインGT-Rの人気は衰えない。R32、R33、R34という「第2世代GT-R」は経年劣化や純正部品の製造廃止などネガティブな要素も多い中、中古車市場でも驚くべき価格で取引されている。とはいえ、現役当時から今まで、なぜかR33は仲間はずれというか、イマイチと話すRファンが多い。それはなぜか? 本当に「イケてない」クルマだったのか? 発売当時を振り返りつつ、あらためてR33スカイラインGT-Rを振り返る。
最長走行距離は60万km!「スカイラインGT-R」とオーナーを実態調査してわかった「意外な事実」とは
絶大なる期待に応えたR32の陰に隠れたR33
1989年8月、R32GT-Rが登場。16年振りに復活したGT-Rブランドに世のクルマ好きは狂喜した。2.6L直列6気筒4バルブDOHCにターボをふたつも装着したRB26DETTエンジンは、当時の自主規制上限の280psをカタログに謳う。実質300psオーバーとの噂もあったほど、当時は群を抜く高性能エンジンの登場だった。さらにシャーシ面でも電子制御化されたトルクスプリット4WDシステム(アテーサE-TS)を採用。FRとも4WDともつかない、圧倒的なパフォーマンスを見せる走りに世の走り屋は完全にノックアウトされた。レースの世界でも大活躍。グループAレースではデビュー以降、無敗の29連勝を飾り、サーキットでもGT-R旋風は吹き荒れたのだった。
大不評だったR33GT-Rのプロトタイプ発表
そんな衝撃的なデビューを遂げたR32GT-Rも、1994年12月には後継のR33GT-Rに座を譲り、表舞台を去ることになった。ベースのR33スカイラインは、ひと足早く1993年8月にデビューしていた。C33ローレルとシャーシを共有したR33スカイラインはホイールベースも長くなり、とくに走りに関してはボディ剛性の低さを指摘するジャーナリストも多く評判はイマイチだった。
その年の10月に行われた第30回東京モーターショーでは、R33GT-Rのプロトタイプがお披露目されたがこれが不評。ボディは見た目にも大きくなりボテッとした印象で、とってつけたようなリヤスポイラーがさらにその印象を悪くしていた。先代のR32GT-Rの獲物を狙う肉食獣のような精悍さは、そこには微塵もなかった。
当時、多くのメディアで「R33GT-Rがどのようなクルマになるか?」という記事が多かった。大方はすでに販売されていたR33スカイラインのタイプMを試乗し、そこから次なるGT-Rの姿を予想したのであるが、ネガティブな内容が多かったため、R33GT-Rに対する世間の期待感は薄くなる一方だった。
実際、R32GT-Rの登録台数を振り返ると、1992年は7961台、1993年は6204台とモデル末期に向けてその台数はご多分に漏れず減少していた。しかし、1994年は10月までと2カ月ほど短いにも関わらず7465台と上昇に転じていたのだ。まさに次期型のR33GT-Rに対する期待薄からの駆け込み需要とも受け取れる現象だったのである。
グループAを戦ったプロも唸った超絶進化
そんな不遇のデビューを飾ることになったR33GT-Rの発表・発売は1995年の1月6日。この日はチューニングカーの祭典である東京オートサロンの開催中でもあった。会場にはベールに包まれたR33GT-Rと思しきクルマがいくつか展示されていたが、日産自動車の発表時間に合わせてアンベールされ、その姿を見せたのであった。
このころ、筑波サーキットではメディア向けの試乗会が行われた。当時ニスモに在籍していた筆者のもとに、筑波帰りの木下隆之選手が訪れてくれた。木下選手と言えば、R32GT-RでN1耐久レースやグループAでも活躍した自他ともに認めるGT-R使いだ。その木下選手が興奮気味に語るのである。「今度のGT-Rはスゲェーいいよ。とにかく曲がるんだからびっくりした。R32のアンダーステアが一体何だったのか? という感じだぜ。アンダーの『ア』の字もないよ。激変しているから、開発車が納車されたすぐに乗ったほうがいい」
それから間もなく、ニスモに商品開発用の開発車が納車されたので、木下選手の言うようにその日の夜はR33GT-Rで帰宅することにした。
最初の驚きは鈴ヶ森の料金所から首都高に入る最初の右コーナー。「コレはいい!」と思い、そのまま環状線を軽く流して帰ったことを思い出す。R32GT-Rはコーナーを曲がるときにアウト側のフロントタイヤのショルダー部で曲がるような印象だったが、R33GT-Rはフロントタイヤのトレッド面で路面を掴んでいる感覚がハンドルを通して伝わってくる点に驚いた。その進化の度合いが大きく、初めて「GT-Rってスゲェな」と思ったのだ。確かにドイツのサーキット「ニュルブルクリンク」のタイムがR32GT-Rよりも21秒速いという「マイナス21秒ロマン」のキャッチコピーは伊達じゃないと思った。
高いボディ剛性と先進技術で大幅に性能アップ
ボディは大きくなった。ホイールベースも長くなった。それに伴って車重も標準車ベースで100kgも重くなった。しかし、そのスペックから想像される純重な動きは感じない。
ボディは大幅に強化され、カタマリ感の強いボディ剛性を身につけていた。R32GT-RではメカニカルLSDのみだったが、R33GT-RのVスペックには電子制御化されたアクティブLSDが装着され、自慢の電子制御4WDシステム「アテーサE-TS」との統合制御で「アテーサE-TS PRO」に進化した。さらにサスペンションのマルチリンクも進化を遂げ、より剛性の高いサスペンションアームの構成になった。R33GT-Rはメカニズム面でも先代のR32GT-Rから大きく正常進化を遂げていたのである。
N1耐久レースではその強さを発揮し、R33GT-Rのワンメイクの様相を呈するほどだった。また、チューニング業界でも格好の素材として多くのチューナーが手掛けている。筑波サーキットのラップタイムも日々更新され、「誰が最初に1分切りをするか」に注目も集まった。そしてスカイラインGT-Rとしては初めてとなる、ル・マン24時間レースにも挑戦した。
限定モデルやコンプリートカーなど話題が豊富
ル・マン参戦を記念して1996年6月には日産自動車から、ブルーも鮮やかなLMリミテッドという限定車が発売された。
一方、ニスモではル・マン24時間レース参戦のためのホモロゲーションモデルともいうべきNISMO GT-R LMが1995年に製作された。さらにニスモ製コンプリートカー第2弾となるNISMO 400Rも1996年1月に発売し、大きな話題となった。
オーテックジャパンからは、スカイライン生誕40周年を記念して「スカイラインGT-Rオーテックバージョン 40th ANNIVERSARY」という4ドアセダンのGT-Rを1998年1月に発売。このようにR33GT-Rは、そのモデルライフの中でじつに話題が多かったスカイラインGT-Rでもあったのだ。
そのR33GT-Rも1998年12月には販売を終了。翌1999年の1月以降は後継のR34GT-Rにその座を譲ることになった。後継のR34GT-Rはボディをダウンサイジングし、トランスミッションは、ゲトラグ社製6速トランスミッションを採用した。空力デバイスとしてフロントのアンダーカウルやVスペックに装着されたリヤディフューザーなども注目ポイントだった。自慢の4WDシステムやマルチリンクサスペンションはR33GT-R時代のものを継承している。
実は決して重くない! R33GT-Rは名車である
そして中古車市場に参入することになったR33GT-Rは、デビュー前のネガティブな印象のせいか不人気車だった。その理由は、やはり大きくなったボディ、ロングホイールベース、重くなった車重とともに、優しいたれ目の顔つきだと言われていた。ハイパフォーマンスカーは、釣り目の怒り顔が人気とされていた当時、R33GT-Rの柔和な表情はあまり受け入れられなかったのかもしれない。実際、同時期にデビューしたS14シルビアは初期型はたれ目だったが、マイナーチェンジで釣り目の怒り顔に顔面成形手術を施した。一方、R34GT-Rはダウンサイジングとともに精悍な顔つきになっていた。
そういう意味においても、R33GT-Rは初期のネガティブな印象が、モデルライフを終了した後も付きまとってしまったのかもしれない。しかし、進化の度合いで見れば、筆者はR32GT-RからR33GT-Rへの進化のほうが、R33GT-RからR34GT-Rへの進化の度合いよりも大きいと思っている。
やはりイメージというものは大きい。車重を比べてみるとR32GT-Rは1430kg。R33GT-Rの標準車は1530kg、R34GT-Rの標準車は1540kgと、R34GT-Rはダウンサイジングしたにも関わらずわずかに重い。また、生産台数でみるとR32GT-Rは43934台。R33GT-Rは16520台でR34GT-Rは12175台という結果。R32GT-Rが群を抜く台数だが、強烈なインパクトで登場したということと、時代がバブル景気の真っ盛りだったということも影響しているだろう。イメージ的にはR34GT-Rのほうが生産台数は多いように感じるが、実際はR33GT-Rのほうが多い。実際に良いクルマだったのだが、いまだ第2世代GT-Rの中では「不人気」というレッテルを貼られているのが残念でならない。
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みんなのコメント
広報車チューンという悪評があったと思う。
広報チューンで
印象が良くなかったから