この記事をまとめると
■ライター陣に「死ぬまでに一度は乗りたいクルマ」を聞く本連載
「死ぬまでに一度は乗りたいクルマ何ですか?」 犬とハワイを愛するモータージャーナリストがベタ惚れする1台
■今回はフランス車を愛する森口将之さん
■選んだのは「マトラソプラノ」と称されるマトラV12搭載のレーシングカーだった
乗りたいクルマはずっと前からマトラのレーシングカー
死ぬまでに一度は乗りたいクルマは、僕の場合かなり前から決まっている。マトラのV12を積んだレーシングカーだ。
マトラはもともと、第2次世界大戦直後に航空宇宙開発の会社として設立され、ミサイルメーカーとして有名になった。それが自動車業界に参入したのは、グループ会社が史上初のミッドシップロードカー、ルネ・ボネ・ジェットのFRPボディ製作を担当していたことがきっかけだったという。
マトラはルネ・ボネを買収して自動車業界に参入すると、レーシングカーの開発も始める。そして1969年にはF1ワールドチャンピオン、1972年からは3年連続でル・マン24時間レース総合優勝という、歴史に残る結果を残した。
その後はリジェなどにエンジンを供給し、ロードカーではミッドシップスポーツのバゲーラやムレーナを送り出したあと、ルノーと提携して自社開発生産のミニバンをエスパスとして販売。欧州ミニバンのパイオニアとしてヒットに結びつけた。
しかしルノーはその後、エスパスを自社開発生産に移行することを決定。マトラはエスパスをベースとしたクーペであるアヴァンタイムの生産を担当したが、2年間で8000台あまりしか売れず、自動車業界から撤退してしまった。
歴代V12エンジンのなかでもダントツの快音
僕はムレーナとアヴァンタイムの所有経験がある。先進的・独創的な思想に惹かれていたことが理由だが、ロードカーはすべて提携相手の量産エンジンを搭載していた。しかし、レーシングカーは違った。自社開発の3リッターV型12気筒を積んでいたのだ。
F1での戦闘力はトップレベルではなく、チャンピオンを獲得したマシンはフォードコスワースDFVを積んでいた。しかし、プロトタイプとは相性が良かったようで、ル・マン3連覇はすべてこのV12によるものだ。
モータースポーツファンの間では、このV12は「マトラソプラノ」という形容詞とともに愛されている。今もYouTubeなどで聞くことができる、突き抜けるようなハイトーンを、僕はフランスのイベントで何度か耳にしたことがある。
フェラーリやランボルギーニ、そしてわがホンダなど、V12を手がけたメーカーは数多いけれど、その中でもダントツの快音だと断言できる。しかも前に書いたように、音だけなのではない。強さを兼ね備えていたのだ。
ロードカーの工場があったフランス中部の都市ロモランタン・ラントネには、エスパス・オートモビル・マトラというミュージアムがある。僕は2005年にここを訪れたことがある。
館内はフォーミュラやプロトタイプスポーツがずらっと並び、フレンチブルーの海と言いたくなる光景。そして片隅には7基のV12がショーケースに収まっていた。壁には当時のレースシーンの写真。あの素晴らしすぎるサウンドを耳にしながら、サーキットでフルスロットルを試してみたいという思いに駆られた。
あれから17年。今もその気持ちは揺るぎない。
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