クルマのサイズを忘れさせる4WSの小回り性能
車高が20mm下がるダイナミックモードを選択して、テーブルマウンテンから先の郊外に広がる山間部を走りだすと、“またもや”クルマの大きさを忘れさせる感覚に包まれた。
一時は消えかけた4WSが今高性能車を中心に続々採用されている理由とは
今年の夏頃に導入が予定されているアウディの新型A7スポーツバックに、南アフリカのケープタウンにてひと足早く試乗させてもらい、いくつか強く印象に残る感触を得たので報告していこう。
まずは冒頭の感想が、そのひとつ。
そもそもボディは全長4969mm×全幅1908mm×全高1422mm、ホイールベース2926mmというフルサイズの4ドアクーペ。それだけの大きさをなぜ忘れさせるかというと、去年フルモデルチェンジをしたフラッグシップモデルのA8と、基本部位を共有していることによるボディやシャシーの素性の良さもあるだろう。
とくに電子制御ダンパー付きのエアサスペンションがA7にも導入され、冒頭の20mmの低重心効果と路面の起伏を舐めるように足まわりが動き、吸い付き感を発揮している効果は見逃せない。
さらにQ5にも導入されている、抵抗を徹底的に下げることでの俊敏性と安定感を両立する次世代ウルトラクワトロの4輪駆動システムの導入。今後数年で欧州プレミアム市場にて大幅に拡大するだろう48V主電源のマイルドハイブリッドによるレスポンスや加速の鋭さも魅力的。
しかし、何よりも驚かされたのは最大5度の範囲でリヤタイヤが操舵する4輪操舵(4WS)機構「ダイナミックオールホイルステアリング」だ。詳しい方ならわかると思うが、最大角5度はどのメーカーよりも積極的にリヤ舵角を使っていることになる。高速走行時は最大で2度程度しか使用していないとは言っていたが、それも高速走行時の使用量で他メーカーの4WS採用車と比べると多い。通常はこれだけのリヤ操舵を使うと違和感で出るものだが、それを不思議なほど感じさせない。
結果として、鋭く安定した曲がりを発揮するうえに、フロントからだけでなく、リヤからも旋回力を発揮できる効果だろう、ロール量とロールスピードが格段に穏やかになっているのが特徴。これによりワインディングをボディの大きさを意識させられることなく、スイスイと気持ちよく走れるわけだ。
しかもその4輪操舵は小回り性能を飛躍的に高める。やはりフロントに対して最大5度の逆操舵の効果が絶大。そもそも最初にクルマが小さく感じたのは、その恩恵を大きく受け取れる街中、とくに駐車場でのことだ。アウディいわく、この機構の有無で最小回転半径が1.1mも変わると言っているが、感覚的にはもっと小さくなっている印象を受ける。
ちなみに電子制御ダンパーが無駄な振動を効率よく収束するので、街中を含めて乗り味がとても良い。さらにその減衰能力の高さだろう、21インチでも20インチとほぼ変わらない快適性を出していた。
走りにおいて唯一得た気になるとすれば、今回の3リットルターボのTFSIエンジンに組み合わされるトランスミッションがツインクラッチであること。湿式なので変速ショックは緩和されているが、低速走行時にはやはりギクシャクするときがある。加速力やダイレクト感を基軸にしたスポーツ性は申し分ないので、日常の扱いやすさや快適性は日本の走行環境で改めて再チェックしたいところ。
最後に今回最も強く印象に残った要素を伝えて締めよう。それがデザイン力の高さ。
製造工程での技術進化は今までできなかった加工やボディラインを可能にしてきた。ルーフから格納式スポイラーを含めて段差なくスッキリとリヤエンドまでフォルムが繋がっている造形。さらに3分の1を凸で光、3分の2を凹で影にして、陰影を巧みに使って立体感を強調させている造形。それによるカッコ良さが見事だ。
具体的にはケープタウンの日が当たりづらい高層ビル群の合間を抜けて、カラッとした空気感の中で鋭い太陽光が当たった瞬間に、存在感がひときわ高まる。それは綺麗な女性のキリッとした表情が笑顔になったようなドキッとするほどの変化。主観評価でしかないが、パネルや造形加工の技術進化により、光を効果的に使ったこのような表情変化を生み出せる時代になったのだと直感した。
そのような観点から、A7スポーツバックが日本導入されたら、是非とも日本の太陽の光でどのような表情変化をするのかを確認してみたくなった。なんせ羽田空港から24時間もかかるケープタウンに国際試乗会の場所が選ばれた理由の一つに、そのよう太陽の鋭い光があるのだから。何にせよ、カッコ良いクルマが増え、街全体の景観がクルマにより優れていく世界は大歓迎だ。
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