M5はBMWの先進技術のショーケース
特定のカテゴリーを定義する、傑作が存在する。ファミリー・ハッチバックなら、フォルクスワーゲン・ゴルフ。2シーター・ロードスターなら、マツダMX-5(ロードスター)。ミドルクラスのスーパーサルーンなら? 恐らく、BMW M5だろう。
【画像】2024年へ再解釈されたスーパーサルーン BMW M5 競合クラスの高性能モデルたち 全177枚
ただし、ロードスターは1989年の初代から基本構成は変わらない。ゴルフも。だが、M5は大幅な変化を遂げた。最新のG90型M5は、1985年のE28型M5と、まったく異なるクルマだと表現しても良いだろう。別の世界からやってきたかのように。
そもそも、M5はBMWの先進技術のショーケースであり続けてきた。E28型は、サーキット直系の直列6気筒エンジンが最大の話題だった。2005年のE60型では、9000rpmまで回るV型10気筒エンジンと、デュアルクラッチATで注目を集めた。
2012年のF10型では、自然吸気からターボ過給へ進化。2018年のF90型では、後輪駆動から四輪駆動へステップアップ。最新版ではプラグイン・ハイブリッドとして、高度な電動化技術が盛り込まれている。
車重は2435kgへ増えた。ステーションワゴンのツーリングでは、2.5tを超える。最高出力は727psを誇るが、前世代より0-100km/h加速は0.1秒遅れる3.5秒だ。
もっとも、パワー競争はどこかで臨界点に達するはず。BMWのMモデルとして重視すべきは、動力性能以上に運転体験そのものだろう。
4.4L V8は585psへ進化 凛々しいスタンス
4.4L V型8気筒エンジンは、前世代からの進化版。最高出力は585psに達する。ハイブリッド関係は、530eに搭載されるものと基本的に同じ。駆動用バッテリーは18.6kWhで、モーターは196psを発揮する。
BMWの技術者によれば、より高性能なバッテリーも開発中とのこと。だが、現状ではこのユニットがベストらしい。
ボディシェルは、G60型5シリーズで共通。バッテリーEVの、i5とも。フロア部分に駆動用バッテリーを積む空間があり、重心は落とせる。その結果、サスペンションは先代のM5 コンペティションより、僅かにソフトに振られた。
スプリングはスチールコイル。ビルシュタイン社製のアダプティブダンパーが組まれ、可変領域は広がった。
実装されるシャシー技術は膨大。可変レシオステアリングに、1.5度まで制御される後輪操舵、高度なトラクション/スタビリティ・コントロールに加えて、後輪駆動にも切り替えられる四輪駆動システムが備わる。
スタイリングは、少しバランスが悪いかもしれない。フロア部分に駆動用バッテリーが位置するため、腰高感が漂う。なで肩でありつつ、面構成は複雑で、まとまりが良いとは呼べないだろう。
だがM5では、フロントフェンダー部分の幅は通常の5シリーズより75mmワイド。リアフェンダー側も48mm広い。20スポークのアルミホイールは、前が20インチで、後ろが21インチ。凛々しいスタンスには仕上がっている。
素晴らしい運転姿勢 内装の上質感は先代が上
ドアを開き腰を下ろすと、先代と同様に、素晴らしい運転姿勢に落ち着ける。着座位置は高めだが、スポーツシートの座り心地も良い。
車内の雰囲気や環境は、通常の5シリーズと大きくは違わない。前席側の空間は充分なゆとりがあるが、内装の上質感という点では、F90型の方が優れていたように思う。
ダッシュボード上でカーブを描くワイドなモニターパネルは、印象的。実際に押せるハードスイッチのタッチは、そうでもない。
センターコンソールには、ドライブモードとハイブリッドモード、Mモード、スタビリティ・コントロール用のスイッチが用意された。タッチモニターのメニューを掘り下げる必要は減っている。
後席側の空間は、見た目ほど広くない。特に、足もと回りで。リアの荷室も、不思議なほど限られている。
シートベルトを閉めて、スタートボタンをひと押し。V8エンジンは始動せず、準備が整ったことを知らせるサウンドが鳴る。シフトセレクターをDに入れて、アクセルペダルを踏めば、デフォルトでは駆動用モーターがM5を発進させる。
圧巻の動力性能 楽しさを叶えるシャシー技術
市街地では至って静か。V8エンジンのスーパーサルーンだと考えると、不思議に思えるほど。
ハイブリッドモードをダイナミックへ切り替えれば、エンジンは常時回転。駆動用バッテリーの充電量も、高く保たれる。静止からの加速は信じられないほど鋭いが、中間加速はそれ以上。8速ATのギアや回転数を問わず、猛烈に速度を高めていく。
5速に入れっぱなしで、101.8kg-mもの最大トルクの波に乗ることも可能。マニュアルモートでシフトダウンし、7200rpmまで引っ張ることも可能。交通量の少ない郊外の公道でも、ある程度エンジンの個性を楽しめる。
ただし、溢れんばかりの動力性能はアウトバーンが前提。いとも簡単に100km/hを超え、英国や日本では制限されたように感じるはず。安定感も半端ない。
サウンドは、若干デジタル的に補強されるが、そこまで人工的ではない。筆者は、いい音に聞こえた。
乗り心地は快適。サスペンションは硬めながら、減衰特性に優れ、最もハードなモードでも我慢を強いるほどではない。傷んだ英国の路面にも、見事に対応するだろう。
高度なシャシー技術が、運転の楽しさも叶えている。アダプティブダンパーが姿勢変化を引き締め、前が285、後ろが295の幅を持つタイヤが、強力なグリップ力を発揮する。
スタビリティ・コントロールをMダイナミック・モードにすると、コーナリングは一層面白い。危険にならない範囲で、親しみやすい自由度が開放される。滑らかなアスファルトでは、車重もほぼ忘れさせてくれる。
2024年へ向けて再解釈された紛れもないM5
ところが、それ以上プッシュしても楽しさが増すわけではない。ステアリングホイールへ伝わるフィードバックは限定的で、オーバーステアへの推移やトラクションの具合を感じ取りにくい。殆どのドライバーは、ここまで攻めることはないはずだが。
後輪駆動モードは、サーキットでのドリフトに好適。思い切りタイヤスモークを巻き上げられる。
他方、駆動用バッテリーが満充電なら、最長67kmを電気だけで走ることも可能。727psのサルーンでも、カタログ上のCO2排出量は38g/kmが主張される。本気で走り込めば、重いだけに先代以上の燃費は得られないはずだが。
英国価格は、11万1405ポンド(約2161万円)から。ツーリングでは、2000ポンド(約39万円)上昇する。
プラグイン・ハイブリッド化により、世界各国で販売できる環境性能を獲得した最新M5。E28型とは異なる、スーパーサルーンなことに間違いはない。
だが、電気モーターのアシストで、アクセルレスポンスは一層鋭い。高度なシャシー技術で、増えた車重は巧みに包み隠されている。動的な魅力も加わった。2024年へ向けて再解釈されているが、紛れもないM5だといえる。
◯:印象的な速さ V8エンジン 高度なシャシー技術で叶えた敏捷な走り
△:大きさと重さ 過去最高のスーパーサルーンと呼べるほど没入感はない グレードダウン感のある内装
BMW M5(欧州仕様)のスペック
英国価格:11万1405ポンド(約2161万円)
全長:5095mm
全幅:1971mm
全高:1509mm
最高速度:305km/h(Mドライバーズ・パッケージ)
0-100km/h加速:3.5秒
燃費:−km/L
CO2排出量:38g/km
車両重量:2435kg
パワートレイン:V型8気筒4395cc ツインターボチャージャー+電気モーター
使用燃料:ガソリン
駆動用バッテリー:18.6kWh
最高出力:727ps/5600-6500rpm(システム総合)
最大トルク:101.8kg-m(システム総合)
ギアボックス:8速オートマティック(四輪駆動)
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みんなのコメント
まじ昔のBMWを返してくれよ…
設計が無駄すぎる
ドイツ本国でも呆れられてるよ