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アウディ残留を希望も「他社の誘いに興味がないと言ったらウソ」とハーゼ。果たしたい“一度閉ざされた夢”

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アウディ残留を希望も「他社の誘いに興味がないと言ったらウソ」とハーゼ。果たしたい“一度閉ざされた夢”

 フラッグシップモデルの『アウディR8』をベースに、どのメーカーよりもいち早くGT3マシンの開発・製造・販売を開始し、カスタマーレーシングのビジネスを長年牽引してきたアウディスポーツ。だが、今年の7月に2023年のシーズンを持って、アウディのGT3を含むすべてのカスタマーレーシングのワークスサポートを終了する旨が発表され、モータースポーツ界を震撼させた。

 R8 LMS GT3の製造については2024年の第一期(1~3月)をもって終了し、GT2とGT4、TCRカーのRS3 LMSについても、すでにこの夏までに受注している台数のみを製作し、生産終了となる模様だ。しかし、R8 LMSエボIIのホモロゲーションは2028年末まで有効であり、その後もFIAへ申請を延長が可能ということで、カスタマーチームが希望すれば、継続してアウディR8 GT3でのレース活動は可能となる。

F1参戦の余波でアウディのカスタマー部門が“戦略的事業”に幕。GT3などのマシン販売終了、サポートは継続へ

 マイク・ロッケンフェラー、レネ・ラスト、ニコ・ミューラー、ロビン・フラインスなど、アウディを代表するファクトリードライバーが次々と移籍するなか、残籍する数少ないファクトリードライバーの中で、2011年からGTレースを専門に長年に渡って世界中のGT3選手権で活躍し、数々の勝利を挙げたクリストファー・ハーゼに、2023年度のシーズンが間もなく終了するにあたり、現状と今後について聞いた。

* * * * * *

■12年をともにしたメーカーへの恩義

――アウディがF1へ新規参入するにあたり、カスタマーレーシングのワークスサポートが今季いっぱいで終了するという、衝撃的なニュースが入り、モータースポーツ業界が震撼しましたね。

クリストファー・ハーゼ(CH):僕はまだ『終了』ということを考えてもいないし、それについては述べたくはないが、アウディスポーツの決断は、ストラクチャードでアンフェアな方向に行ってしまったことは否めない。だが、アウディのプレスリリースで発表されるよりも随分と前の今季のかなり早い段階で、カスタマーチームには事前に説明がされていたことはせめてもの救いだったと思う。

――アウディスポーツに現在在籍中のあなたの契約はどうなるのでしょうか?

CH:契約内容を一切公にしてはいけないという規約があるため、僕たちファクトリードライバーが、今の契約期間がいつまでなのか、今後どうなるかということには触れられないのだが、ワークスサポートが終了するということは、アウディのワークスドライバーも基本的には不要となると考えるのが通常だろう。

――来年以降も引き続き各シリーズでアウディR8 LMSエボIIを駆って世界のさまざまなレースに参戦するチームはいるでしょう。来季はあなたの立場がどうなっているのか今は不明ですが、例えば、チームがあなたのような(元)アウディのファクトリードライバーを、ブッキングしたい場合にはどうなるのでしょうか?

CH:アウディのスペシャリストを希望することは基本的に可能だと思う。しかし、今までのアウディスポーツ経由ではなく、チームが直接ドライバーやマネージャーを通しての問い合わせをすることになるのではないだろうか。

――ホモロゲが意外と長く有効ですが、ワークスサポートがなくなったとしてもR8 LMSの活動の継続を望む声も寄せられていますね。

CH:ドライバーの立場ではアウディスポーツから直接的に聞いていないのだが、今後のスペアパーツの供給はどうなるのか、サポートエンジニアはどうなるのか、エンジンやギアボックス等のオーバーホールはどうするのか……さまざまな項目に関して、今後どう対応すべきなのか、アウディスポーツではひとつずつ検討している最中なのではないかと思う。まだシーズン中で社内は多忙にしているけれど、今後シーズンオフになったらアウディスポーツ内ではさまざまな動きがあることは否めない。

――2011年にアウディスポーツのファクトリードライバーとなってから、12年もの間在籍していますね。ヨーロッパのGTのファクトリードライバーとしてはかなり長年契約更新されていた方だと思います。

CH:そうかもしれない。アウディスポーツとは長年非常に良いリレーションシップと互いに強いリスペクトを持って信頼関係が築けていると思う。ヨーロッパの他のメーカーを見ても、僕とアウディスポーツのような関係はあまり例がないかもしれない。だからこそ、この絆が今季いっぱいで終わってしまうかもしれないという状況は非常に残念で仕方がない。

CH:まだ僕とアウディスポーツの来季の契約等に関しては、現在は保留になっている。さまざまな噂が流れるなかだが、僕は残留への希望を捨てていない。今後の動向を見守りながら、よい方向へ進むよう願うばかりだ。若手の頃から育ててくれて、12年もの間ファクトリードライバーの契約を結んでくれているアウディにこのまま残ることを望んでいる。

■LMDhをドライブしたい。ル・マンに出たいという希望を強く持っていた

――すでに、ロッケンフェラー、ラスト、ミュラー、フラインス、ケルビン・ファン・デル・リンデら、アウディを代表するファクトリードライバーが次々にアウディを離れ、他の自動車メーカーへと移籍をしていきましたが、あなたにはそのような意志や希望はありませんか?

CH:とくにLMDhの開発に関わっていた彼らからしたら、目標にしていた事柄が一瞬にして崩壊してしまった。他でその夢を叶えられるなら、叶えたいと思う気持ちは理解できるし、うまい具合にタイミングが合ってそのシートが得られたことも良かったのだと思う。彼らをよく知っているだけに、意志はとても尊重している。

CH:どのメーカーのファクトリードライバーもそうだと思うけれど、在籍している期間に他から良いオファーがある場合もあるだろうし、自分がそのメーカーの方針に合わないと思うことだってある。僕はたまたまとても恵まれていたので、12年間もアウディスポーツで活動をさせてもらっている。

CH:若い頃とベテランになってからでも、自分の未来へのビジョンの描き方も変わってくるだろう。来季への残留を希望しているものの、アウディスポーツのこのような不安定な状況下で、もしも僕に来年への何か良いオファーがあった場合、興味がないと言ったらウソになるだろう。だが、まだ今季のシーズンが終了していない現時点で、それらについてコメントするのは少し時期が早いと思う。前にも述べたが、アウディスポーツに留まれるのなら嬉しいが、次のステップに進むのも悪くないのかもしれない。来季以降の僕自身の挑戦がどうなるのか、自分でも気になるところであり、楽しみだ。

――以前にニコ・ミーュラーがアウディのLMDhはほぼ完成に近かったと言っていましたが、あなたもプロジェクトに関わっていたのですか?

CH:ハイパーカークラスでふたたびル・マンへ挑戦することは、アウディスポーツに当時所属していたドライバーや関係者のすべての夢であったことは間違いない。僕は現在もアウディスポーツに所属しているから、立場的に具体的なことは話せないのだが、LMDhプロジェクトに関しては、開始前から内容などは知らされていたし、当時のファクトリードライバー全員が何らかのかたちでプロジェクトに関わっていた。他のドライバーと同様に、僕もLMDhをドライブしたい、ル・マンに出たいという希望を強く持っていた。

――来年からはWECやル・マン24時間レースにもGT3マシンクラスが新設されます。アウディでのLMDhの夢は破れてしまいましたが、GT3クラスで挑戦したい気持ちはありますか? 以前にカスタマーレーシングの代表であるクリス・ラインケ氏は、元々LMP1を率いていただけに、アウディのル・マン復帰を強く望んでいたひとりでもあります。

CH:もちろん! 僕がプロのレーシングドライバーでいる間に必ず成し遂げたいことのひとつにル・マンへの出場も含まれる。ただ、僕はプラチナカテゴリのドライバーではあるが、WECやル・マンへの出場経験は一度もないだけに、例えプロであってもハードルがあるのではないかと想像している。

CH:しかし、そんなWEC/ル・マン初心者の僕と一緒に組んで参戦してみたいというドライバーやチームがもしも現れるのならば、そんな光栄なことはないだろう。アウディ以外でも可能性があるのならば、その道を探ってみたいと思う。

CH:アウディのカスタマーチームにとっても、ジェントルマンドライバーたちにとってもル・マンへの出場は大きな夢に違いない。ただ、ワークスサポートがないなかでの参戦や、その莫大な準備は費用的にも相当に大変なものになると想像している。長年LMP1時代から応援してくれていたアウディファンのためにも、GT3マシンではあるが、ふたたびアウディがル・マンに登場できる日が訪れるのなら、そんな嬉しいことはないだろう。

* * * * * *

 アウディスポーツの内部関係者によると、カスタマーレーシングに所属する一部の社員はF1へ移動しているものの、ハーゼのようにセクションの継続と残籍を望む者も存在し、社員同士でも『Abwarten(様子をみよう)』と口にしているのをパドックで耳にする。今後のアウディスポーツのカスタマーレーシングの動向が気になるところだ。

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