M社が慎重を期して投入する高性能ミドルSAV/SACとは?
新設計「S58」ストレート6を投入したミドルクラスSAV/SACが満を持して登場。日本上陸は9月以降となるが、その気になる乗り味を国際試乗会から報告しよう。
便利な“3”、ワゴンボディの「BMW3シリーズ・ツーリング」が上陸!
BMWのミドルSAVおよびSACであるX3とX4に、初の「M」モデルが登場。今回はさらに、そのハイエンドモデルとなるMコンペティションを、ひと足早く北米ニュージャージー州近郊のオープンロードと、クローズドコース「モンティセロ・モーターパーク」で試すことができた。
BMWフリークからしてみれば、遅すぎる登場か? ご存じの通りX5ではすでに2007年からMモデルがラインアップされており、それに準じてX6 Mも名を連ねた。しかしX3とX4にはそれぞれにM40dとM40iといった「Mパフォーマンス系」が存在するのみだったのだから。
しかしこの姿勢こそが、BMWの慎重さと、走りに対する愚直さを表しているとも考えられる。試乗当日のブリーフィングでは、M社バイスプレジデントのペーター・クイントゥス氏が「2020年までに10万台と掲げたMパフォーマンス系SAV/SACモデルの販売目標は、早くも2018年の段階で達成された」と熱く語った。
もちろんX3/X4 Mの開発は、こうした好調ぶりに先んじて計画されていただろう。しかしクイントゥス氏の口ぶりからして現状の勢いこそがその必要性を確信させたのだとすれば、それだけBMW M社は、慎重にX3/X4 Mのタイミングを推し量っていたと言えるのかもしれない。
ではそのX3/X4 Mが、どのような走りをわれわれにもたらすのか? M3やM4を押しのけてまで、これを手に入れる価値はあるのか? 今回はこうした点にフォーカスしてインプレッションしよう。
オーソドックスSUVスタイルのX3 Mは、まずその乗り味がずばり“M”を感じさせる一台だ。いわばイメージ通りのガッシリ具合には少し呆れ、細かい振幅による横揺れには、思わず笑いがこぼれた。その足まわりはスプリングレートが一段と高められており、たとえ「COMFORT」モードであっても、そこに生ぬるさはない。
ただこれは、Mモデルとしての性能を誇示するためだけの硬さではない。むしろ510psにまで高められたエンジン出力を、このディメンジョンで安全に支えるためM社が必要だと判断した硬さなのだ。
詳しくは後述するが、より低くワイドなディメンジョンを持つX4 Mコンペティションの方が、その重心の低さからであろう、しなやかな足まわりが与えられていたからだ。また日常での快適性を優先するのであれば、今回は用意されていなかった通常のX3 M(480ps)を選ぶ方がよいのかもしれない。そう、これはあくまで“コンペティション”なのである。
そして、やはり特筆すべきはやはりエンジンだ。伝統のストレート6はここに来て「S55」型から「S58」型へと進化。その最高出力は510ps/6250rpm、最大トルクは600Nm/2600−5950rpmへと向上した。スタンダードなMとの出力差は、ECU制御と排気系で達成されているという。
新設計のS58ユニットが放つパワフルかつ美しい吹け上がり
600Nmの最大トルクは6000rpm近い高回転域まで滑らかに発揮され、そこからさらにひと伸びしたところで510psの最高出力が発揮される。そのトルキーかつ完成度が高い回転上昇感は、ターボ化したストレート6に足りなかった官能性を補完しえたと思う。この“実際に踏み倒せるパワー”が、次期M3やM4に搭載される日が待ち遠しいとさえ感じた。
こうしたエンジンとの組み合わせを考えると、硬めの足まわりも納得できる。速度を上げるほどフラットに、飛ばせば飛ばすほど面白くなる乗り味は、Mモデルの名を語るに相応しいと感じられた。
だがもっと面白かったのは、X4 Mコンペティションの乗り味がこれとは対称的に、しなやかさを全面に押し出していたことだ。試乗したモンティセロ・モーターパークはカントやバンクのないフラットコースで、ランオフエリアもほとんどない。また下りながらブレーキングを強いられる難しいコーナーもレイアウトされていたが、ここでX4 Mコンペティションは、実に安定した挙動を示した。
これはX3に比べ、より重心が低くワイドなボディが、そのしなやかなサスペンション特性を可能にしたからだろう。ターンインではオーバーステアを発生させず、しかしながら軽やかに向き変えるバランスが秀逸だった。有り余るパワーに対しては、4輪駆動でトラクションを全面に押し出す人工的な走りではなく、FRライクで自然な身のこなしが演出できている。
当日はDSCのカットが許されなかったため、若干タイトコーナーのアクセルオンで失速する場面も見られた。そういう意味では同じM xDriveを有するM5に比べ挙動が安定方向だったが、大柄なSUVとしては非常にうまく、気持ち良いハンドリングと安全性をバランスさせていると思う。
では果たしてこのX4 Mコンペティションが、M3や、特にM4のようなスポーツセダン/クーペに勝る走りができるのか?
物理の法則上、走りの刺激や楽しさ、BMWらしいコントロール性の高さはM3/M4に軍配が上がる。ただし日常的な走りにおいては十分以上にスポーティであり、それこそサーキットに持ち込まない限りは互角以上の楽しさが得られるはずだ。
そしてジャガーやアルファ・ロメオといったハンドリングコンシャスなライバルSUVに対しては、Mの貫禄を遺憾なく見せつけるだろう。そのハイパフォーマンスなエンジンとシャシー性能をもってX3/X4 Mコンペティションは、ライバルを大きく引き離す存在になる。
Specification
【Specification】BMW X3 M
■全長×全幅×全高=4730×1895×1665mm
■ホイールベース=2865mm
■トレッド(前/後)=1623/1602mm
■車両重量=2030kg
■最小回転半径=5.8m
■乗車定員=5名
■エンジン型式/種類=S58B30A/直6DOHC24V+ツインターボ
■内径/行径=84.0×90.0mm
■総排気量=2992cc
■圧縮比=9.3
■最高出力=480ps(353kw)/6250rpm
■最大トルク=600Nm(61.2kg-m)/2600-5600rpm
■燃料タンク容量=65L(プレミアム)
■燃費(JC08)=-/-
■トランスミッション形式=8速AT
■変速比=(1)5.000(2)3.200(3)2.143(4)1.720 (5)1.313(6)1.000(7)0.823(8)0.640(R)3.478(F)3.154
■サスペンション形式=前ストラット/コイル、後 5リンク/コイル
■ブレーキ=前Vディスク、後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前2255/40ZR21(9.5J)、後265/40ZR21(10J)
■車両本体価格(税込)=12,680,000円
【Specification】X4 M Competition
■全長×全幅×全高=4758×1925×1620mm
■ホイールベース=2865mm
■トレッド(前/後)=1623/1632mm
■車両重量=2030kg
■最小回転半径=5.8m
■乗車定員=5名
■エンジン型式/種類=S58B30A/直6DOHC24V+ツインターボ
■内径/行径=84.0×90.0mm
■総排気量=2992cc
■圧縮比=9.3
■最高出力=510ps(375kw)/6250rpm
■最大トルク=600Nm(61.2kg-m)/2600-5950rpm
■燃料タンク容量=65L(プレミアム)
■燃費(JC08)=-/-
■トランスミッション形式=8速AT
■変速比=(1)5.000(2)3.200(3)2.143(4)1.720 (5)1.313(6)1.000(7)0.823(8)0.640(R)3.478(F)3.154
■サスペンション形式=前ストラット/コイル、後 5リンク/コイル
■ブレーキ=前Vディスク、後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前2255/40ZR21(9.5J)、後265/40ZR21(10J)
■車両本体価格(税込)=13,990,000円
BMW Mが手掛けた強化パーツが早くも登場
Mモデル史上初のミドルSAV/SACとしてデビューしたX3 MとX4 Mに、早くも「M Performance Parts.」がラインアップされた。
カーボンとアルカンタラ素材が精悍なイメージを際立たせる
まず注目したいエクステリアでは、Mモデル専用となるダブルバーのキドニーグリルおよびサイドのエアブリーザーに光沢仕上げのカーボン素材を用いたアクセントをプラス。X3 Mにはハイグロスブラックのルーフエッジスポイラーを、X4 Mには同じ素材のリアフィンを設定。どちらもレーステクノロジーを基に開発され、精悍さだけでなくエアロダイナミクス性能をアップさせるアイテムである。
もちろんインテリアにも、ドライバーが触れるステアリングホイールやシフトノブに光沢仕上げのカーボンファイバーとアルカンタラ素材を使ったアイテムを用意。モータースポーツ由来となる高品質なアクセサリーはこれまで通りの完成度である。
BMW Mのトップを直撃! 新世代「M」が向かう次なるステージは?
BMW M社はマルクス・フラッシュ氏を新社長に選出した。1980年にオーストリア・ザルツブルグで生まれた彼は、2003年にマグナへ入社、その後BMWヘ移籍、ロールス・ロイスなどアッパークラスの品質管理を担当した後に、8シリーズの主査を担当。そして2018年10月、前任のフランク・ファン・メール氏に代わってM社の社長に選出される。38歳の彼はM社歴代プレジデントの中でもっとも若い。
今回のインタビューは北米での国際試乗会において本誌独占で実現したものだ。
歴代で最も若いプレジデントは高性能M版PHEVを推進する
――M社創立以来歴代で最もお若い社長ですが就任に際して、何か特別なコンセプトをお考えでしょうか?
フラッシュ「M社はBMWのハイパフォーマンスモデル工房として長い歴史と伝統を確立しています。私はまず、この現実を再認識し、学び、そして継承する立場にあります。その上で、将来に対する道を切り拓いて行こうと考えています」
――X3M/X4MにM社の高性能モデル専用の直列6気筒エンジンが新採用されました。その特徴を教えてください。
フラッシュ「このエンジンはスタンダードな3ℓ直6ツインスクロール・ターボとはまったく別物で、シリンダーピッチ以外ほとんど共通点がない新設計です。たとえば正確な排気量はスタンダード版の2998ccに対してM専用は2993ccです。ショートストロークの高回転タイプで最高許容回転数は7200rpmに達します」
――確かに素晴らしいスポーツエンジンであることはサーキットで体験しました。次期M3/M4はSUVよりも軽く、空力も良いはずです。その新エンジンのチューンはどのレベルになるのでしょうか?
フラッシュ「それはいまのところお応えできませんね(笑)」
――新型のM135iには306馬力の2L4気筒ターボが搭載されていますが、これからは6気筒に代わってダウンサイジング4気筒が主役になるのでしょうか?
フラッシュ「現在ドイツ・ツーリングカー選手権に参戦しているM4のエンジンは4気筒です。またルーツである1986年の初代M3(E30)も4気筒でした。そしておっしゃる通り新型1シリーズのMパフォーマンスモデルも4気筒を採用しました」
――もし仮にコンパクト系のMモデルが登場した場合には、4気筒の可能性もあるということでしょうか?
フラッシュ「それも秘密です(笑)」
――BMW M社に期待したいのですが、まずはCO2排出量削減のための電化の推進と独自のスーパースポーツカーの復活、端的に言えばM1の再来はあり得ますか?
フラッシュ「まず、電化は重要な課題です。BMWは他社に先駆けて“iコンセプト”を進めてきました。CO2排出量削減にはバッテリーと電気モーターそして内燃機関という3つの要素が残されており、スポーツカーの分野ではそれによる“重量増”が常に大きな課題となっています。しかし、それを解決できる技術的な見通しもついているので、間もなく皆さんの前に具体的な提案ができると思います」
フラッシュ氏は約束通り、#NEXTGenにおいてビジョンMネクストを公開。600馬力のPHEVスーパースポーツは2025年の市販化を視野に開発が進められている。
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