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新型Eクラスから最初の自動車まで。ステアリングホイールに見るメルセデス・ベンツの進化

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新型Eクラスから最初の自動車まで。ステアリングホイールに見るメルセデス・ベンツの進化

Eクラスが導入する最新鋭ステアリング

メルセデス・ベンツは2020年夏にマイナーチェンジを施した改良新型Eクラスを発売する。さらに進化した運転支援機能など、デジタル周りの進化が改良のハイライトとなる。様々な操作系を集約したマルチファンクションステアリングホイールも最新版へ生まれ変わるようだ。

新型Eクラスから最初の自動車まで。ステアリングホイールに見るメルセデス・ベンツの進化

改良新型Eクラスのステアリングホイールのリムには、検知エリアを2ゾーンに分けたセンサーを配置。従来までのダイヤルやプッシュなどの機械式スイッチは姿を消し、タッチスイッチを採用することでドライバーがステアリングを握っているかどうかを感知する。

司令部であり舵であり、「好き嫌い」をも左右するパーツ

ACCやスピードリミッター設定、ボリュームコントロールからナビゲーションの操作まで。いまやあらゆる機能のインターフェースを集約するステアリングホイールは、舵取り役のみならずキャビンの司令部としての役割まで担うようになった。正確な操舵感はもとより、適切な操作感や精密な触覚技術が求められる。回路基板の配置も数ミリ単位で調整しなければならない。

メルセデス・ベンツのインテリアデザイン部門のクリエイティブディレクター、ハンス-ペーター・ヴンターリッヒは、20年にわたってステアリングホイールの設計に携わってきた。

「ステアリングホイールの設計というのは独自の世界なんですね。あまり注目される部分ではないのですが、非常に大きなチャレンジの賜物なのです。シート以外で、ドライバーが常に身体的に繋がっているコンポーネントはステアリングホイールだけ。そして、指先には我々が通常気づかない些細な感触を読み取る性能が与えられています。ですから、不快な凹凸や、手の平に馴染みにくいステアリングホイールというのは直感的にイヤだと感じる。触覚を通じた情報は脳へと送られ、『このクルマが好きか、嫌いか』を決めてしまうのです」

クルマと人を繋ぐステアリングホイール。1886年に世界で初めてのガソリン自動車を生んだメルセデス・ベンツとともに、その歴史を振り返ってみよう。

初期の自動車にステアリングホイールが無かった理由

カール・ベンツが1886年に作った世界初のガソリン自動車、パテント モトールヴァーゲン。そして1889年にゴットリープ・ダイムラーとウィルヘルム・マイバッハが設計した“スチールホイール車”。その両車とも、ステアリングホイールは備えておらず、舵取りにはシンプルなレバーかクランクを用いていた。当時のドライバーは馬の手綱よろしく、「引く」行為に慣れ親しんでいたためである。

最初のステアリングホイールがデビューしたのは1894年

ステアリングホイールの発明者は、フランス人エンジニアのアルフレッド・ヴァシュロンであると考えられている。世界初の自動車レースといわれる1894年のパリ-ルーアン トライアルのために、アルフレッドはダイムラー製エンジンを搭載した自身のパナール・ルヴァッソールの操舵部品を、レバー式からホイール式に換装。前輪の切れ角がコントロールしやすく高速でも正確な操舵が可能になり、アルフレッドは無事に完走することができた。総合では11位であったものの、ステアリングホイールの実力という点では圧倒した。

チルト機能や点火時期の調整機構を搭載

1900年にダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフトは、レーシングカー「フェニックス」にチルト機構付きステアリングホイールを搭載。1902年に登場した「シンプレックス」には、エンジンの点火時期や空燃比の調整などを行なうレバーを装備している。

“ホーン”が備わった大径ホイール時代

エンジンが進化し点火時期や燃料比などのマニュアル調整の必要がなくなると、ステアリングホイールにもうひとつの機能が与えられた。現代まで続く「警笛」機構である。これこそ車対車(Car-to-X)コミュニケーションの原点といえるかもしれない。

当初はステアリングホイールのリム部分にバルブホーンが設置され、のちにハブ部分にクラクソン社製のホーンボタンが付くようになった。スポーク部分に備わるホーンリングが登場したのは1920年代。以降、ホーンリングはより繊細に進化しながら1970年代まで使われることになる。

1949年には、ホーンリングにウィンカー機能を追加。1950年代半ばまで使われたこの機構はとてもシンプルで、ホーンリングを右に回せば右の、左に回せば左の方向指示アーム(長さ20cmくらい)がボディサイドから飛び出す仕組みとなっていた。のちにコントロールユニットが中央部分に備わり、ホーンリングの回転に伴い橙色のライトが点灯するようになる。

コラムシフトやパワーステアリング機構の登場

1951年、メルセデス・ベンツはタイプ300“アデナウアー”(W186)とタイプ220(W187)にコラムシフトを導入。当時は主に前列がベンチシートだったため、運転席と助手席の間の長いレバーが無くなることで快適性が向上。1970年代までコラムシフトは広く採用されたが、のちに姿を消していくことになる。ちなみにメルセデス・ベンツは2005年にステアリング脇に備えたセレクターレバーを「ダイレクト セレクト」として復活させている。

1955年にはレバー部にヘッドランプフラッシャー機能を付与。依然としてステアリングギア比が大きくステアリングホイールは巨大なままだったが、1958年のタイプ300からパワーステアリング機構を投入した。

メルセデスの安全哲学をステアリング機構にも

1959年にメルセデス・ベンツはW111“フィンテール”で衝突安全性の向上に注力。強固なパッセンジャーセルとクラッシャブルゾーン、衝撃吸収パッド付きステアリングホイール、衝撃吸収ステアリングコラムを導入した。さらなる安全性確保のため、メルセデス・ベンツはテレスコピック機構と衝撃吸収アブソーバーを備えたステアリングシステムの特許を取得。1967年に全乗用車に標準搭載した。

さらに、1959年の“フィンテール”と“ポントン”では「ひとつ二役」のモットーを体現するレバーを採用していた。ウィンカーとヘッドライトという両方の機能を一本のレバーにもたせたのである。1963年になると、そこにワイパー及びウォッシャー機能も追加。それまでインストゥルメントパネルに設置されていたワイパー用プルスイッチは姿を消した。

1971年の350 SLではより大きな衝撃吸収パッドとアブソーバー機構を備えた4本スポークステアリングを導入。リムを支えるスポークには、事故の際に衝撃を吸収するとともに力を逃がしてリムを守る役割を持たせた。ホーンボタンは再びステアリングホイール中央部へ設置されるようになった。

初めての“クルーズコントロール”機能

1975年12月、クルーズコントロール機能をはやくも標準搭載したメルセデス・ベンツ 450 SEL 6.9が登場。1981年にはドライバー用エアバッグを初めて装備したSクラス(126シリーズ)がデビューしている。

過去に類を見ない安全レベルを確保する機構に開発陣営は喝采を送った一方で、デザイナーは頭を抱えた。当時のエアバッグは構造自体が巨大であり、ステアリングのパッドも大きくせざるを得なかった。エアバッグの進化に伴うコンパクト化には、デザイナーの仕事にも好材料となったのである。

1992年、ドライバー用エアバッグがメルセデス・ベンツの全乗用車に標準装備となる。1994年には助手席用エアバッグも続く。エアバッグは衝撃から30ミリ秒以内に720mm径(64リットル分)に拡張。当時のメルセデス・ベンツのステアリングホイール開発部門トップ、マーカス・ファイゲはこう述べている。「今日、我々は市場で最もコンパクトなエアバッグを実現しました」

マルチファンクションステアリングホイールの登場

1998年、COMAND(Cockpit Management and Data)システムと呼ぶインターフェースとともに、マルチファンクション機構を与えたステアリングホイールが誕生する。車両操作に関する機能のみならず、ナビゲーションやエンタテインメント機能を司るスイッチが搭載された。

W220(Sクラス)が目指したのは、ドライバーを必要な運転操作に集中させることであった。マルチファンクションステアリングホイールにより、ドライバーはステアリングから手を離すことなくあらゆる情報に親指ひとつでアクセスできるようになった。カーラジオや電話、メータークラスター中央のディスプレイに8種類のメニューを切り替え表示できるスイッチも装備していた。

2005年、MクラスとSクラスの新型ではコクピット環境の再解釈を実施。「ダイレクト セレクト」と呼ぶセレクターレバーをステアリング脇に設置、キャビンの空間効率をアップした。2008年のSLでは、7Gトロニックのギヤチェンジを任意で行えるパドルシフトをステアリングホイールに設置している。

2000年代になると、エアバッグだけでなく多くのケーブルや回路基板、センサーなどを搭載するべくステアリングホイール機構は再び大型化。デザインはより洗練されていき、中央部分のフォルムが幾何学的造形になるとともに、スポークには流れるような輪郭が与えられるようになった。

世界初の「タッチコントロール」を採用したEクラス

2016年のEクラスのステアリングホイールには、世界で初めて「タッチコントロール」ボタンを採用。スマートフォン同様に静電容量式のタッチセンサーを搭載し、指をスワイプさせるだけであらゆるエンタテインメント機能を操作できるようになった。

「舵」として「司令部」として、クルマと人間を繋げる「接点」として。運転の主導権を握るのが人間である限り、ステアリング機構はこれからも絶えず進化を続けていく。

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