数多くのクルマが登場するが、そのなかで出来は悪くないのに、何らかの理由で販売がパッとしないクルマが必ずある。そんな残念なクルマの一台がホンダの「インサイト」だ。
2018年から現行型(3代目)が販売されているが、販売台数は2021年9月:219台、10月:174台、11月:200台と冴えない。
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決して悪いクルマではないのに、なぜ伸びないのか? インサイトが抱える苦戦の理由と、ホンダに変えるべき戦略について渡辺陽一郎氏が分析していく。
文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部
[gallink]
■セダン人気の低迷と、ホンダのブランドイメージが苦戦を加速させる
現行型(3代目)は2018年から登場のホンダ インサイト。クーペスタイルボディを持つ4ドアハイブリッドセダンだ
乗るといいクルマなのに、サッパリ売れない。このようなクルマの代表がインサイトだ。2021年の登録台数は、1カ月平均にすると200台を少し上まわる程度だった。同じホンダのN-BOXは1カ月平均が約1万6000台だから、インサイトの売れ行きは1%少々だ。
初代インサイトは、1999年に燃費性能を徹底追求するハイブリッド車として登場した。空気抵抗の小さな2人乗りのクーペで、5速MTの車両重量は、ハイブリッドを搭載しながら820kgと軽かった。
2代目インサイトは2009年に発売された。5ドアハッチバックで、登場時点の価格はGが189万円と安い。ハイブリッドの普及を目的に、求めやすさに重点を置いて開発された。
そして3代目の現行型は、上質感を重視して企画された。初代はハイブリッドの低燃費を追求して、2代目は幅広く普及させる目的があり、3代目はユーザーの満足度を高める段階に入った。
ただし現行インサイトは価格が高い。価格帯は335万5000円から372万9000円なので、2代目の約2倍だ。ボディサイズも2代目は5ナンバーサイズに収まったが、現行型は全長が4675mm、全幅は1820mmと大柄になっている。
しかもボディタイプがセダンだ。今はSUVが人気で、セダンの売れ行きは下がった。15年ほど前は、新車販売される小型/普通車の20%弱がセダンだったが、今は10%少々まで減っている。
その代わり15年ほど前に約10%だったSUVは25%に増えた。つまりインサイトが2018年にセダンスタイルで登場したこと自体、売れ行きを低迷させる原因になっている。
近年のSUV人気でセダンの人気にかげりが出ていることも、インサイトの売れ行きの伸び悩みにつながっている
最近のホンダのブランドイメージも、インサイトの販売に影響を与えた。今は国内で新車として売られるホンダ車の33%をN-BOXが占める。そこにN-WGNなどを加えた軽自動車全体になると、50%を超えてしまう。
さらに軽自動車の販売台数に、コンパクトなフィット、フリード、ヴェゼルの登録台数を加えると、国内で販売されるホンダ車の80%以上に達するのだ。そのほかのインサイト、シビック、ステップワゴン、オデッセイ、CR-Vなどは、すべてを合計しても残りの20%以下にすぎない。
この状況が続くと、ホンダのブランドイメージも変化してくる。今では小さなクルマのメーカーになった。しかも売れ筋になるコンパクトなフィット、フリード、ヴェゼルのすべてにハイブリッドがあるから、価格が300万円を軽く超えるミドルサイズのインサイトには関心が向きにくい。
このような事情もあり、2022年には、シビックにタイプRと併せてハイブリッドも追加される。現行シビックにハイブリッドも加われば、先代シビックをベースに開発された現行インサイトの役割は、少なくとも日本においては終了する。
シビックに、1.5Lターボ、タイプR、ハイブリッドと3種類をそろえるのは、合理的な方法ではあるだろう。
■堅実な設計で視界も走りも良好! 再確認するインサイトの魅力
しかし冒頭で触れたとおり、インサイトは優れた商品で、それは独自のセダンボディによるところも大きかった。
まずインサイトのフロントマスクは、今のヴェゼルやシビックと共通する直立したデザインだ。フロントピラーの位置を後退させた水平基調のボディは、視覚的なバランスが優れ、側方や後方の視界もいい。
内装も上質だ。今では2018年の発売から3年を経過したが、インパネ周辺の造りに不満はない。ATの操作がプッシュボタン式になるのは、慣れないと少し戸惑うが、そこを除けば扱いやすい。
居住性は前席については快適だ。全高が1410mmと低く、天井を後ろに向けて下降させたから、後席は腰が落ち込む座り方になる。それでも座面の前側を持ち上げたから、大腿部は離れない。
身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先には握りコブシ2つ半の余裕があり、前後席とも窮屈に感じることなく乗車できる。
パワーユニットは、ハイブリッドのe:HEVのみを搭載する。1.5Lエンジンは、通常は発電機を作動させ、駆動はモーターが担当する。高速道路の巡航などでは、エンジンが直接駆動する制御も行う。そのほうが効率が優れているからだ。
モーター駆動とあって加速は滑らかで、アクセル操作に対する反応の仕方は機敏だ。ノイズは小さく、モーター駆動だけで発進した後、発電のためにエンジンが始動しても騒々しい印象はない。むしろタイヤが路上を転がる時に発するノイズが目立つ。
WLTCモード燃費は、グレードに応じて異なり、24.4~28.4km/Lに収まる。試乗した時は、通常の走り方で、実用燃費が28km/Lに達した。走行時間の約60%は、減速時とエンジンの発電によって充電されたされた電気を使い、エンジンを停止させて走っていた。
パワーユニットは、ハイブリッドのe:HEVを搭載。通常はエンジンで発電機を作動させ、駆動はモーターが担当。発電時にエンジンが始動しても静か。むしろタイヤノイズが気になるほどだ
ボディ剛性を高めやすいセダンでもあるから、走行安定性も優れ、峠道などでは後輪の接地性が高いために安心できる。機敏に曲がる印象はないが、ステアリング操作に対する反応は正確だ。
乗り心地は、17インチタイヤ装着車は時速40km以下で少し硬いが、粗さは感じない。16インチタイヤは、引き締まり感は薄れるが、空気充填量が多く柔軟だ。
■意外に割安なインサイト ホンダの販売戦略に変更が求められる
ホンダには「乗るといいクルマ」が多い。良さが伝わらずに売れ行きにつながらないというのはホンダにとってもユーザーにとっても実にもったいない話だ
このようにインサイトは、デザインは地味ながら、居住性、動力性能、走行安定性、静粛性、乗り心地、燃費が優れている。
価格はLXが335万5000円だから安くないが、衝突被害軽減ブレーキと運転支援機能を併せ持つホンダセンシング、LEDヘッドランプ、ナビゲーションシステム、アルミホイールなどは標準装着している。
インサイトLXと同程度の装備を採用した1.5LターボのシビックLXは、価格が319万円だ。つまりハイブリッドとターボの価格差が16万5000円だから、シビックに比べればインサイトが割安になる。
以上のようにインサイトは優れた商品だから、ホンダはもう少し情報発進や販売に力を入れるとよいだろう。
オデッセイやアコードを含めて、ホンダには「乗るといいクルマ」が多い。すでにティザーキャンペーンを始めている新型ステップワゴンを皮切りに、ミドルサイズ以上の販売に力を入れて、ダウンサイジングしたブランドイメージを再構築すべきだ。
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みんなのコメント
1500ccなのに単純に高いから 笑